何で俺だけ「登場しました」
優勝したプレイヤーは闘技場の中央に立つ。そこで運営からの賞金が渡される。その時に途端に空が曇りだす。
コレは運営がやりたかっただろう演出だと思われた。
「何でこんな古典的な事するかね?まあ、イベントとして盛り上げたいんだろうけど。」
俺はコロッセオの光景を見ている。未だに映像配信は止まっていない。きっと多くのプレイヤーもこれを見ているはずだ。
観客席にはこのトーナメントを戦ったプレイヤーたちが復活していて、優勝者を称えていた所へ、この曇り空だ。
「何となく運営のやりたい事が分かって来たぞ?」
このプレイヤーたちの前に三人の魔族が姿を現したのだ。空からゆっくりと降りてくる演出はバッチリとプレイヤーたちの、この映像を見ている者たちの目を完璧に引いただろう。
曇り空からは雷がごろごろと鳴り響き、不穏な空気を醸し出す。
「魔王様を害そうとする者を我らは許さん。神の使徒ども、プレイヤーたちよ。きさまらは危険だ。この場でお前たちを排除する。」
仮面を付けた姿のミャウちゃんがそう告げる。コレにこの場に居た八人は咄嗟に武器を取り出して構える。
排除、と言ったと共に両腕を広げていたミャウちゃん。コレが合図だったんだろうと思う。
マイちゃんが八人のプレイヤーへと魔法で同時に攻撃したのだ。
「へぇ~、器用な事できるんだなあマイちゃんは。おっと?ゲブガルがプレイヤーの反撃を防いだぞ?」
プレイヤーたちも黙っちゃいなかった。反撃の為にその場から仕返しを出来るプレイヤーはマイちゃんへと攻撃スキルを放っている。
これを易々とゲブガルが防いで見せていた。どうにもこれまでを見ているだけで分かる事がある。
「この本戦出場者の実力が集まって協力したとしても、この三人には敵わないんだろうなぁ。ほんと、俺ってゲームバランス崩壊させてない?これ?」
この三人は俺が初期の頃にもう既にできる強化はカンストさせていた。システム的にもうこれ以上は強くはならないとは言え、この状態のままでも「つえええええええ!」である。
プレイヤーからしたら堪ったものではないだろう。勝てない無理ゲーを押し付けられている状況と言えなくも無い。
「まあ、このゲーム、メインストーリーを追わないでもサブクエスト?がもの凄い豊富だって言うからなあ?・・・おや?魔王なんて倒そうとしなくても、もしかしてこのゲームは成立してるじゃん?」
ムキになって魔王を倒そうとしなくても、このゲームの魅力はもっとたくさんある。自由度が高い。
こうなればその内にメインストーリーなど忘れ去られてしまうのでは?と疑問が浮かんできた。
「アレ?そもそも、この運営、メインストーリーに絡むイベント、そんな多くやって無いな?時期的なイベントとか、もしくはコラボイベント?特別クエストなんかを配信してるのが多いけど・・・うん?魔王とかメインストーリーを追うのにかかわるイベントとか、最初のスタンピードの時とこれだけ?」
俺がそんな思考を続けている間も映像では戦闘は継続していた。まあ、戦いと呼べるような内容では無いのだが。
ソレはプレイヤーが一方的にゲブガルの魔力障壁に攻撃をし続けていると言うだけの映像だった。
だが攻撃の嵐に隙間ができるとマイちゃんがすかさず反撃で魔法を放っている。
その一撃だけでプレイヤーたちはガタガタに崩れていた。そして互いに協力し合って持ち直してまた怒涛の攻撃を仕掛けると言った具合だ。
映像からの音声はと言うと。
「駄目だ!俺たちの攻撃が全く通じて無い!」
「ねえ!これって強制負けイベントなのかね!?私は優勝したのに!?その運営の仕打ちがこれってどう言う事なのかな!?」
「俺たちのレベルでそもそもこいつら倒そうとしたら相当な準備が要るだろ!」
「って言うかさ!さっきから背後に回って奇襲しかけようと思っても障壁が邪魔なんだが!?」
「協力しても勝てる気がしないんだけど!?レベル上限解放されて最大まで上げたとしても勝てるビジョンが浮かばないんだけどさー!」
「ザ!理不尽!」
「なあ、あの魔法撃ってくる魔族?可愛くね?」
「お前が真っ先に死んどくか?見とれて無いでお前もさっさと攻撃に参加しろよ!こんな事で上げたレベル強制的に下げられたくねえ!何してくれちゃってんの運営!?」
どうやら只々死んで経験値、レベルを下げたくないばかりに必死の抵抗をしていた。