46話 各々の想いは何処へ…?
テストが終了したら、あっという間に終業式で、明日から夏休みという、一学期最後の登校日のストーリーとなります。さて今回は……
あの時の夕月の態度は、何だったのか。
葉月が転入したのを切っ掛けに、話題となった3人を中心にして、緊迫した雰囲気を漂わせていたものの、始めから3人一緒だったと思うぐらい、拍子抜けするほどいつの間にか、元通りの日々に戻っていた。
裕福な家柄の子息子女が集うこの学苑では、全校生徒が学食を利用する。こうした設備に関する経費は、主に寄付金で賄われることとなる。今日は終業式当日で学食もなく、部活のある生徒はお弁当持参で、登校していた。夕月達も例外なく、他の生徒達と同様に教室で、お弁当を食べている。
「わあ、美味しそうですわね。お弁当は、北岡君の手作りでして?」
「うん、そうだよ。序に葉月の分も作って、置いてきたけどね。」
「あら?…おに…いえ、弟さんは…帰宅されたんですの?」
「葉月は部活も入っていない以前に、受験生だからね。先に帰るように、事前に話はつけてある。」
学苑の半数以上の生徒の家が寄付しており、未香子や晶麻達3人の家も、例外ではなかった。一般的家庭の夕月の家でも、四条家が肩代わりする形で寄付していた。夕月の祖母が四条家の当主だという話は、知る人ぞ知る話である。但し、大半の生徒達はその事実を知らない。それでも、祖父母の家が由緒ある家柄だとは、大体が知っていると言える。
「…おに…弟さんは、名坂森学園の系列大に進学を、なさるのでは…?」
「…う~ん、どうだろうね?…もしかしたら本人は、国公立大学も視野に入れているかもね。」
弟の葉月が1学年上の所為で、他の生徒達はどう呼ぶべきかと、困惑する者も多いらしい。抑々『北岡』呼びは役名であるし、弟だけ『北城』呼びするのも微妙で、なかなか厄介な扱いとなっている、双子姉弟であった。
Aクラスの教室にいる生徒達は、幾つかの班に分かれ食事しているが、夕月達の話には教室のほぼ全員が、興味津々とばかりに耳を傾けている。女子は勿論のこと、男子達も。葉月の話題が出たことで、余計に気になっているようだ。
「「…え?!…国立大!?」」
「葉月様も北岡君と同じくらい、優秀な方なのですね…」
「…う~ん、どうかな。お互いの学校は他地域で、比較できないからね。だけれど私達は双子だから、成績もそう変わらないと思うよ。」
夕月の口調は葉月も成績優秀だと、言っているようなものだった。そうだろうねという風に素直に頷く生徒、双子揃って優秀なんてと納得する傍ら、腑に落ちないという顔の生徒、反応はそれぞれだ。前者はほぼ女子生徒で、後者はほぼ男子生徒なのも、いつものことである。
因みに、未香子も含め大半の生徒達は、母親が作ったお弁当ではなく、各自の家が雇うお手伝いさん、又は家政婦の手作りお弁当を、持参している。家事専門として雇用された人で、彼らにとっては家族ではないが、家族に最も近い人と言えるだろうか。彼らの幼少期には既に勤めており、第二の母親のような存在とも言えた。
「北岡君のお弁当は、いつ拝見してもお見事ですわ…」
「これだけの量を作るのは、どれだけ時間が掛かったことやら…」
「我が家も家政婦が作りますけれど、これには勝てっこありませんわね…」
夕月の弁当を見て、ほお~と感嘆する少女達。既に何度も見たはずだが、それでもその度に女子生徒達は誉め揚す。完成された弁当とは、正に是だと言いたげに。
野菜や果物を用いた上、色取り取りのおかずを配置しつつ、おにぎりや赤飯やおこわ風やと、その都度主食も変えるなどバラエティに富む。既に調理師免許を得たというほどに、完璧な仕上がりだ。但し、女子が食べるには些か多過ぎるが、他の生徒達に分け与える分も、含まれているらしい。
「唐揚げは沢山作ってきたから、食べてもいいよ。」
夕月の言葉を合図に、別の班で食事していた生徒達が、集まって来た。唐揚げ以外にも「俺のと交換して」と、物々交換するように自分のおかずと、交換していく生徒達もいる。
「北岡君の…唐揚げ、美味し過ぎます。有名な料亭の味に似ているようで、別物でもあるような。わたくしとしては…北岡君の方が、好みかしら…」
「この卵焼きも、絶品ですわ。あの料亭でも、この味は出せないかも…」
一般的家庭はハードルが高い料亭も、彼らの家庭では贔屓にしており、夕月の作るおかずがそれに値するか、若しくはそれ以上かと褒めちぎる。決して大袈裟でもなければ、お世辞でもなく。
「夕月はお料理も完璧ですから、見た目も味も最高なのは当然でしてよ。」
「北岡君の手作りをいつでも召し上がってらして、羨ましいことですわ…」
夕月の隣で未香子は、自分のことのように胸を張る。そんな彼女を本気で羨ましがる女子生徒も、いつも通りであって……
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夕月達と同じ頃。Eクラスの萌々花達も、教室でお弁当を食べていた。郁がふと思い出したように、2人に話を振ってきた。夕月のお弁当が気になるのは、彼女達も同じらしい。
「…北岡君のお弁当は、物凄く豪華だったりして…?」
「…うん、凄いよね。北岡君はあれを、自分で作っているんだから…」
「…えっ?!……うそっ!…マジでぇ?」
「…えっ?…北岡君って、自分でお弁当を作ってるの?」
「うん。普段から料理してるって、未香子さんは言ってたから。」
現物を見たことのある萌々花は、さらりと真相を告げる。鳴海と郁は、酷く驚いた顔をした。夕月から分けてもらったおかずは、あまりの美味しさに萌々花も驚愕するほどであった。
「一口貰ったけど、すっごく美味しかったよ。今まで食べたお弁当の中で、一番美味しかったもん。うちのお母さんより、美味しいって思っちゃったし…」
てへぺろという仕草で笑う萌々花を、鳴海は愛らしいと思いながら見つめる。夕月や未香子を筆頭に、この学苑の生徒のレベルは高いと、入学当時から感じている。元々萌々花はモテる容姿だが、例の彼も彼女に気があるのでは…?
「…いいなあ~。私も食べてみたい…。かっこいいだけでも凄いのに、料理もできるなんて、北岡君が完璧すぎる~。何だか自分が、情けなくなってきた…」
チ~ンという『りん』の音と、「残念でした」という声が、萌々花の頭の中で聞こえる気がした。当初こそ郁は「凄い凄い!」と、瞳をキラキラさせていたものの、急にシュンとしょげるように落ち込んだ。
「…郁。北岡君と比べていたら、誰も勝てっこないから…」
私も同じ立場だよ…と苦笑しつつ、鳴海は郁の肩にそおっと手を置く。励ますように慰めるように。互いの顔を見合わせ、2人揃って失笑した。気にするだけ損だという顔付きで。
「ナルちゃん、郁ちゃん。私も…仲間に入れて!」
仲間外れにされたと言いたげに、萌々花がぷくっと頬を膨らませた。その顔がまるでヒマワリの種を頬張る、ハムスターなどの小動物のようにも見え、2人共に爆笑すれば釣られたように、萌々花も吹き出して。
…あの時の北岡君が、まさか…弟さんの方だったとか、あり得るはずもないと思うけど…。もしそれが…正解だとしたら、あの時いたもう1人の人は、誰…?
初詣の時に偶々見た光景を、彼女は不意に思い出す。それと同時に自らの根底が覆される、そんな気がして不安になった。それに思い出そうとすればするほど、その人物の顔が明確に思い出せなくて。ジロジロ見るのは良くないと、敢えて顔を見ないようにしていたのが、仇になったらしい。
…女性だとは覚えているけど、知らない人だと思っていたし、親戚だと思い込んでいたから、ぼんやりしか思い出せない。失礼かもしれないけど、もっとしっかりと顔を見ておけば、よかったかな……
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「…おい。あいつ、どうしたんだ?」
「…ん?…ああ、飛野か。…さあね。北岡との間で、何かあったんだろ。」
「あいつは…いつものことじゃね?」
晶麻の浮き沈みは、今回に限ったことではない。夕月と何かある度に、こうして落ち込んでいるのだから、見慣れていると言われるのも、当然のこと。しかし、今回に限っては、彼だけではなかったのか…?
「飛野ならば兎も角、木島が落ち込んでいる様子は、初めてじゃないか?」
「…そうだな。少なくとも、今までに見たことがないよな…」
「…おいおい。田尾の様子も何となく、いつもと違うらしいぞ…」
「「………へっ?…田尾も?」」
Cクラスの友人に会いに行った、Dクラスの生徒が戻ってきて、光輝の様子もおかしかったと告げると、Dクラスの生徒達は目を丸くした。柊弥に何が起きたんだろうかと、無言で顔を見合わせて。
「…ん?…あれ?…田尾の様子、いつもと違って…変じゃないか?」
「…ああ、そうみたいだな。どうしたんだろ?」
「今、BクラスとDクラスを見てきた。やっぱりあいつらも変だったぞ…」
「「…………」」
そしてCクラスでも同じく、光輝を巡り生徒達が困惑していた。暗い顔で独り言を呟く晶麻、等間隔で何度も溜息を吐く柊弥、2人とは違う様子ではあるが、光輝はボ~としたまま、瞬きすらしない。話しかければ反応するものの、また暫くすると固まったように動かない。
晶麻・柊弥・光輝の3人は、別々のクラスではあったけれど、一緒に行動することも多かった。3人共に性格も違えば、興味も全く違う彼らであったが、気が置ける仲であるのは間違いない。1人が凹んだ時は、他の2人が慰める。今回は珍しく、3人揃って溜息を吐く。
「何か…嫌な予感がする。途轍もなく厄介な匂いが、プンプンするな…」
「面倒くさくなりそうだな…」
同じ教室に居合わせた生徒達は、彼らの異変を感じ取り、どのクラスでも遠巻きにしている。触らぬ神に祟りなしと、声を掛ける者はおらず。
「…はあ~。もうどうしたらいいか、分かんねえ…」
「…はあ~。話し掛ける切っ掛けがほしい…」
「…はあ~。どう謝るべきか…」
ぽつり呟いた先は、何処へ向けての想いなのか……
終業式当日と言えば、成績通知表を受け取る日でもありますが、主人公達の順位は変わらないことでしょう。前半はいつも通り、後半を2部に分けました。後半はそれぞれ、今後の展開を匂わすように、一部内容を暈しています。
後半の1つは、過去にそのシーンがありますが、実は今後の伏線の1つとして書いています。そして後半のもう1つは、今後の展開へと続いていきます。
次回は、番外編を予定しています。次回からは本格的に、恋愛を加速させることになりそうです。(但し、一部の者を除きますが…)
※振り仮名のない『夕月』は、全て『ゆづき』読みとなります。『ゆづ』読みの部分のみ、ふりがなを振っています。




