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君の騎士 ~君を守るために~  作者: 無乃海
第二幕 名栄森学苑2年生編【波乱の幕開け】
199/199

44話 初めて見せた貴方の本音

 前回からの続きとなります。今回は、勉強会の様子です。


※振り仮名のない『夕月』は、全て『ゆづき』読みとなります。『ゆづ』読みの部分のみ、ふりがなを振っています。

 「北岡君、ここはどうやって解くの?」

 「ああ、此処はね…。この数式を使って、先ず此処を此れに当て嵌めて、計算してから次に…」


あまり数学が得意ではないらしく、丁寧に教えてくれる夕月の解説を、萌々花は真剣な顔をして聞いている。こじんまりとした店内では、夕月達の声が聞こえるだけで、後は只管(ひたすら)カリカリという、何かを引っ掻くような音と、ペラペラと本のページを捲るような音が、微かに響いていた。


現在は夕月と未香子、萌々花と鳴美と郁、晶麻・柊弥・光輝の男子3人に、プラスする形で葉月も含め、男女合わせて計9人の生徒が、学期末テスト直前の勉強会をしている。


但し、葉月だけは1学年上である。そういう理由もあってか、彼は黙々と1人で勉強していた。こじんまりとした店内には、大勢のお客が入るほどの席は、用意されていなかったものの、9人の生徒がゆったりして座るには、十分スペースがある。実際に他にお客は来ておらず、()()()()()()()かのようだった。


席には其々、目的別に座っている。同じ教科を教え合うテーブル席、個別に質問し回答する用のテーブル席、個別の勉強に集中するテーブル席、暗記の為只管ノートに書き写すテーブル席、学年が異なるテーブル席と、各々(おのおの)に分かれ勉強中だ。


 「…ああ、疲れたよぉ~。鳴っち、ちょっと休憩しようよぉ?」

 「…うん、そうだね。私も流石に疲れたし、何か飲み物でも頼もうか?」

 「うんうん。そうがいい!…何、飲もうかなぁ…」


鳴美と郁は教科書の一部を暗記しようと、只管ノートに書き込んでいたが、手が怠くなってきたのもあり、ちょっとだけ休憩しようと、空いたテーブル席に移って、ドリンクを注文した。


店内には店員らしき人は、誰もいないように見えた。注文ボタンを押すと、店の奥から40~50代ぐらいの女性が出て来て、にこやかに接客する。注文して数分後に、丁度良い具合に冷えたドリンクを、持ってきてくれた。お店の外装はレトロ感満載なのに、店内は新旧の物が入り交じり、レトロさは殆ど見られない。


レトロなイメージで入ったら、がっかりするほどレトロ感は皆無(ゼロ)だが、店内は改造済みらしく汚れもなくて、ソファはまだ綺麗な状態である。清潔感のある、単なるよくある茶店だ。


 「このお店って、他のお客さんがいないけど、大丈夫なのかなぁ…?」

 「…そうだね。私達みたいな客(?)が、占領しちゃってるものね…」


元々が勉強会で入店した為、他のお客が1人もいない事実に、2人は今更のように気付く。未だ誰1人として、飲み物さえ注文していなかったと、何となく気まずくなってくる。


建物は古いわりに、アンティークなお店じゃない所為で、普段からお客が少ないのでは…と、当初は思っていたけれども、自分達以外の客が来ない状況に、もしかしたら()()()()()()()()、という気もする。せめて自分達ぐらいは、売上に貢献しようと思いつつも、他にも何か注文しようかと、2人が迷っていると……


 「さて。そろそろ、切りのいいところで、ちょっと休憩にしよう。何か注文しようと思うんだけど、どうする?…萌々も、何か頼むよね?」

 「…あ、うん!…私も喉が渇いちゃった…。何を、飲もうかな…」


如何(どう)やら丁度キリがついたらしく、夕月が萌々花に休憩を提案した。夕月に勉強を見てもらっていた萌々花も、鳴美と郁のテーブル席に合流し、メニュー表を睨むようにして、真剣な顔で見つめている。


 「其処の3人もキリが良いところで、休憩しなよ。」

 「…ああ、そうだな。柊弥、光輝、俺達も何か飲もうぜ。」

 

夕月は残りのメンバーにも、休憩するように声を掛けていく。未香子は夕月が連れて来る形で、萌々花達女子と合流した。女子5人が同じテーブル席に座ったので、晶麻達男子も別の空いた席に移動し、3人で同じテーブル席に座る。その後、彼らも同様に注文した。


 「…ねえ、夕月(ゆづ)。……葉月は、休憩…なさいませんの?」

 「…ん?…ああ。葉月はもう少しキリがついたら、休憩するらしいよ。」

 「……そうなの、ですね…」


1人だけポツンと、未だ勉強をし続ける葉月に気付き、未香子は夕月にこそっと耳打ちすれば、夕月もまた小声で教えてくれる。一応は、納得したように振る舞いつつ、それでも未香子は自らの瞳の隅に、映り込んだ彼の様子が、気になっていた。近くにいるのに、手の届かない遠くにいるみたいで、尚更のこと……


夕月は萌々花達と、楽しげに会話中だ。いつも通りであったら、未香子もその会話に混じっていただろう。それなのに…何処かいつもと違い、話の半分も耳に入ってこなかった。別の事柄に気を取られ過ぎて、頭が()()()()()()()()で。




 


   ****************************






 「さて、そろそろ最後の追い込みを、始めようか?」


夕月の一言で再び、各々の勉強へと戻っていく。15分ぐらいは、休憩をしていただろうか?…未香子は元のテーブル席に戻る直前、チラッと無意識にある方向へ、目を遣った。


一度は他のメンバーと共に、再び勉強を再開したけれども、途中で集中ができなくなり、彼女は1人そっと席を外した。そのまま店内のある方向に、移動していく。それに、誰も気が付かない。彼女は以前から、何度かこのお店に来たことがある。だから今回、初めて来たわけではなかった。


このお店の入口から見て、店内の奥方面にトイレがある。調理場の方へ向かって行くと、調理場とは反対側に配置されている。彼女は其方方向に、向かっていった。誰か他のメンバーが見ていれば、単にトイレに行ったと思っただろう。


彼女は5分ぐらいしてから、戻ってきた。友人達も誰も夕月でさえ、気にする様子は見られない。彼女は元居た場所には座らずに、他のテーブル席へそのまま歩いていくと、目的のテーブル席に座る。彼女が座った瞬間、自分の目の前に誰かの気配を感じたのか、その席の人物が顔を上げると、驚いた様子を見せた。


 「…葉月はまだ、休憩しておられないのでしょう?…ですから、わたくしが代わりに態々、飲み物をもらってきて差し上げました。感謝なさってね?」


彼女は声を顰めつつも、ドヤ顔をして鼻高々な調子で、言葉を放つ。貴方が未だに休憩していないから、自分が態々注文して持ってきてあげたわよ。然もちゃんと、貴方の好きなドリンクを頼んだわ。感謝して飲んでよね。簡潔に言うならば、そういった意味であろうか…?


彼女の姿を目にした途端、驚いたように少しだけ目を見開き、葉月は固まったかのようにそのまま動かず、目の前に座った彼女を、暫くジ~っと見つめる。その間、僅か数秒のこと。


 「…どういう風の吹き回しなのかな?…未香子が夕月(ゆづ)の為じゃなくて、態々僕の為に気を利かせてくれるなんて…。明日は…雨でも降るのかな?」

 「……そういう葉月こそ、本当に…どうなさったの?…まるで夕月(ゆづ)と、お話しておりますようですわ。一体、どういうおつもりなんですの?」


未香子が皮肉った言葉に返すようにして、葉月もまた揶揄うような素振りで、会話を振ってくる。この時のキラキラしい笑顔といい、揶揄う言葉の意味といい、普段の夕月と全て重なるものだった。こうも夕月っぽい振る舞いに、葉月に対して怒りというよりも、何かを企むことでもあるのかと、問い質したくなった。


夕月と葉月は正真正銘、双子の姉弟である。当然のことながら、似ていて当たり前なのだから、同じような言動があったとしても、おかしくはない。それでも2人をよく知るからこそ、余計に彼是(あれこれ)と詮索したいと思う。


 「どういうつもりもどうしたも、別に…元々がこういう性格だとしか、言えないんだけどね。夕月(ゆづ)真似(まね)る気もないし、何方(どちら)かと言えば夕月(ゆづ)の方が、僕に近い言動をしていると言えるかな…?」

 「…えっ?…どういう意味ですの?…葉月は夕月(ゆづ)のようなご冗談は、今まではあまりされておられませんのに…」

 「…そうだね。だけどそれは、僕達は双子だったから、元々はよく似ているところも、多いんだ。自分達でも上手く説明できないぐらい、()()()()()()()とも言えるかも、しれない。何処までが自分らしさで、何処からが自分らしくないか、一緒に居る時間が長くなればなるほど、もう1人の自分の影響を強く受けるし、だから尚更に自分との境界も()くしてしまう。」

 「…………」


他のメンバーと少しだけ離れた、奥まった角のテーブル席とはいえ、未香子も葉月も小声でこそこそ話す様子は、非常に仲が良い恋人か、両片思いにも見えなくはないだろう。実際には2人共に全く、意識して振る舞ったわけではなく、図書館で勉強中に話す環境と同様に、周りの邪魔にならないようにと、振る舞っていただけのことであったが。


……初めてお伺い致しましたわ。葉月がわたくしに対してこのように、心情を語られるなんて…。2人が双子だと存じておりますが、これでは…まるでお2人共に、普段から役割を()()()()()()()かのように、告げられますのね…。


未香子も本心では驚愕したものの、どう応じればよいのか分からない。況してや此処には、同じ学園の生徒達もいて、無意識でもストッパーがかかる。平然と振る舞いつつも、明日から…いいや今日から、どう反応して良いのやらと、彼女は苦悩し始めていた。


実際には彼らが話す場面を、誰も気が付かずにいた。誰もが明日のテストの点数を気にして、勉強に集中していたから。もし彼らに気付いたとしても、彼女が好きな相手を知っていたので、勘違いすることはないだろう。1人だけ除けば。


彼らの方を注視することもなく、2人の様子に気付いている者、がいる。偶々気付いたわけでもなく、素知らぬフリをしていたと、言うべきであろうか。実質的には彼女がどう動くか、見抜いていたと言うべきか。本当は彼女がトイレに行ったと、思われるその時から既に、知っていたと言うべきかもしれない。


……やれやれ、()()()()()()子達だね……

 勉強会中の出来事です。葉月が1人だけ休憩しないことに、未香子もちょっとだけですが、同情しているのかもしれません。


今回で勉強会の話は、終わりの予定でいますので、次回は…どうしようかな…?

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