91話 秋祭り その4
秋祭りのお話、part4です。まだまだ続きそうです。
いつも通り、未香子視点となります。やっと、4人揃って…お出掛けに?
「浴衣に着替えが終わりましたし、未香子のことも心配なものでしたから、お先に訪問致しましたの。」
「……ああ、そうなんだ。…夕月も、もう着替えているんだね?…うん、その…よく似合うよ…その浴衣。…え~と、とても…似合っていて可愛いよ…。」
「…ふふっ。ありがとうございます、朔斗さん。今日は、秋祭りに連れて行って下さるそうでして、こうしてお招きに預かりましたわ。今日は、よろしくお願い致しますわね?」
「…ああ。…うん。気にしなくて…いいよ。僕も…行きたかったのだし…。」
お兄様は、夕月の浴衣姿を見てから、いつもと違って照れたような表情で、懸命に浴衣姿を褒めている。はにかんでいるのか、視線を彷徨わせながら、お兄様は夕月に話し掛けていた。よく観察して見ていると、お兄様のお顔が、薄っすらと赤く染まっていらっしゃるのが、よ~く分かりましてよ。さては、お兄様。夕月の浴衣姿に…見惚れていらっしゃるのですね?
「僕も…浴衣に、着替えて来るよ。」と言って、お兄様は私の部屋を、そそくさと出て行かれた。私がジッとニヤニヤして見つめていたのに、漸く気が付いた兄は、居心地悪そうに私達から目逸らすと、いつもより早口で捲し立て、慌てたように私の部屋を出て行かれたのです。…ふふふふふっ。もう、お兄様ったら…。
あのように慌てなくても、宜しいのにね?
兄のあのような慌てぶりに、初めこそは目を丸くしていた夕月でしたが、目をパチクリした後は苦笑していた。どうやら…夕月の前でも、あまり見せないような兄の姿、だったみたいですのよ。確かに、今日のお兄様、普段よりも落ち着きがなかったと、思いましてよ?…私と夕月は顔を見合わせて、クスクスと声を立てて笑っている。だって、あのお兄様の慌てっぷりったら…、可笑しくて可笑しくて…。
夕月も、私以外居ないことを良いことに、「…あはははっ。朔斗さん、いつもよりソワソワしていて…、可笑しかったよ。…はははっ。」という具合に…。
お兄様…夕月に、本気で笑われていますわよ。
部屋の戸が再び、外側からコンコンされるので、私は「はい。」と応答する。
「お嬢様、葉月様がいらっしゃいましたよ。」と、真姫さんが呼びに来てくれたようである。夕月は、先にソファから立ち上がって、自分も浴衣姿だというのに、私に対して片手を差し出してくる。普段と変わらずいつも通りに、階段下の応接間まで、エスコ-トしてくれるつもりみたい。エスコートは、真姫さんにお願いしても良かったのに、夕月は飽く迄も、自分がするべきだと思っているようでして。
…うふふっ。嬉しい…です。
夕月のエスコートで、階段を降りて応接間に向かう。真姫さんは、「何かあるといけないので…。」と、時々振り返りながらも、私達の前をゆっくり歩いて行く。
夕月自身も浴衣姿で歩きにくいから、というのもあり、私達もソロソロと言いますか、静々と言いますか、転ばないようにと慎重に歩いて行った。応接間では、既に葉月が待っていて、1人ソファに座って紅茶を飲んでいた。お兄様はまだご自分の部屋のようで、ここには居ない。葉月は私達に気が付くと、目を細めて眩しそうな表情で、私達を見つめる。…あれ?…葉月も…何だか様子が…。
「葉月…おかえりなさいませ。自宅で迎えて差し上げられなくて、本当にごめんなさいね?」
「ただいま、夕月。別に…自宅には、誰も居なくても慣れているから、その事なら…気にしなくてもいいよ。それより、夕月は…その浴衣姿、凄くよく似合っているよ。その浴衣は、今年用に買った新しい物だよね?…その朝顔の花柄が、物凄く似合っているよ。」
「…ええ。褒めてくださって、ありがとうございますわ。」
夕月は真っ先に、葉月におかえりと声を掛けていた。出迎えが出来なかったことに対して、夕月は悪いと思っているようでして。葉月は気にしていないと返答した後に、夕月の浴衣姿をしっかりと褒めている。相変わらず…夕月のことが、大好きなのですわね。やっぱり…葉月が、1番の強敵ですわね…。
ここまでは、日常的な…いつもの流れだったと、思いますわ。葉月は、私が夕月の隣や側に居たとしましても、基本的に私に話を振ってくることは、今まで殆ど皆無でしたのよ。どうしても、私に話し掛けなければならない時は、夕月が私に何かのお話を振った後だったり、夕月のことで何か私に話す必要があったり、というぐらいでしたのに。このような事は、本当に初めてでしたので……。
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「……未香子も…久しぶりだね?…その…浴衣姿、よく似合っている…よ。」
「…えっ!…ええ。……あ、ありがとう。……葉月。」
今までの…いつもの会話の流れでは、私の浴衣姿は…無視されるのが、常のようなものだったのに。私が何も身構えていないところに、葉月が何を思ったのか、私を振り返って、付け加えるような感じで、私の浴衣姿まで褒めて来たのである。
目線だけは…きちんと定まっていない、ようでしたけれども。…たどたどしい口調で、似あうと…。…ええっ!…葉月が私を…褒めて来るなんて、初めてでは…ないかしら?…葉月は…どうしたのかしら?…私の方が…動揺していますわ…。
私も、褒められたお礼は一応伝えたけれど、噛み噛みで何とか言えた状態だった。
お陰で、私まで落ち着かなくなってしまい、目線をキョロキョロさせるしかなかったわ。葉月とは向かい合った形で、ソファに座っていたから…。
…うっ。葉月の顔が…真面に見れません。ふと、隣側から強い視線を感じたので、勢いよく振り返れば、隣に座っている夕月が、心底愉快そうに私を見つめていた。夕月……。この状態を…楽しんでおりますでしょう?…私の今の状態は、先程のお兄様と全く同じなのでは…。私の立場が変わり、夕月の揶揄うような表情に気後れしまして、夕月から目線を外したのですが。運悪くその視線が、バッタリと葉月と交わってしまいまして…。
私も葉月も…暫し、「………。」という感じで…会話なしの状態で、目線が逸らせずにいましたが、2人共夕月の視線に気が付き、ハッとした後にお互いに目線を外しましたのよ。…ううっ。何だか…とっても恥ずかしい…。今までの葉月からは、私の服装について…1度も褒めるどころか、それ以前に、真面に話し掛けられることも…なかったのですわ。褒めない代わりに、貶しもせず…でしたけれども。
ある日突然…褒めて来られても、逆に気分が…落ち着かないのでしてよ。
本当に一体…どうされたのですの…?…どういう気の変わりようなの…?
この異様な雰囲気の中で、「葉月、来てたのか。」と言う、兄の声が聞こえた時には、神のお告げかと思うぐらいには、私も感謝しましたわ。お兄様!…助かりましたわ。この異様な雰囲気をぶち壊して下さって、ありがとうございます!
…ふう~。…と溜息をそっと漏らして。私も…この異様な雰囲気に、飲み込まれそうになっておりましたようです。…本当のところは…本心では、葉月のセリフは…とても嬉しかったのです…。無骨とまでは…いかないまでも、何だか有り触れた言葉ではありましたけれど…。葉月が嘘を吐かない、ということだけは…私も、よく理解しておりますから…。先程までは混乱していて、よく理解できておりませんでしたけれど、今は…心の中にポッと火が灯ったようで、とても温かな気持ちになって来ているのです…。本当に…どうしてしまったのでしょう?……私は。
葉月もお兄様も浴衣姿でして、決まり切ったお約束ですわね。お兄様は、青地のギンガムチャック柄の浴衣を、着られていまして。兄にしては、珍し過ぎるような色合いに、目を見張ってしまいましたわ。何だか…まるで、夕月と合わせたような…色の組み合わせだと、一瞬…思ったのですが。気の所為…ですわよね?
兄の浴衣を見てから、何となく…いつもは気にもならない、葉月の服装が…何故だか気になりまして。先程…葉月に褒められてしまったから、でしょうか?
葉月の浴衣は、白地にタテに太いラインのストライプが入った、シンプルなデザインである。…あら?…何だか…葉月も、いつもと色合いが違っているような?
…そうですわ。…ああ。それで…。葉月を一目見た時に、何か違和感がある感じがしたのは、色合いが変だと気が付いたから…でしたのね?……なるほど。
そういうことでしたのね。いつもと違う浴衣だったから…。
去年までの兄は、私の浴衣に合わせたと思われる、同じ色の浴衣を着ており。
また葉月も同様に、夕月と合わせた色の浴衣でしたのよ。しかし、今年は何故か、正反対の組み合わせなのでして。お兄様の浴衣の色が、夕月と同色系統なら、葉月の浴衣の色は…。これはまるで…私と同色の白地であり、兄が夕月に、葉月が私に合わせたように、見えましてよ。これは…どういうことなのですの…?
お兄様達の浴衣に戸惑い、私の横に座っている夕月に、助けを求めようとして振り返ったのですが。夕月も同様に驚いたお顔で、お兄様の浴衣姿に釘付けになっていて…。眉間に少し皺を寄せ、何故そういう浴衣を着ているの、とでも言いたげな顔をして。困惑したような表情を浮かべていた。夕月も…知らなかったのですね?
それに対し、私達の反応を見られたお兄様は、してやったりとでも言いたそうな、満面の笑顔で。…う~む。これは…お兄様に…してやられましたのね?
何となく…嫌な予感が致します…わ。
秋祭りのお話、part4となります。やっと、夜のお祭りに行く為に、4人が揃ったところで、終了です。
浴衣の生地の色を、朔斗は夕月と、葉月は未香子と、同じような色のようです。
これが…何か意味があるのか、偶々の偶然なのかは、…ご想像にお任せします。
一応は普通の恋愛を目指しており、片思いとか恋愛的に見られていなくても、これからは徐々に少しずつ、男女の恋愛要素を入れて行くつもりです。
(本格的になるのは、もっと先ですが…。当分は…牛の歩み程度かと…。)




