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69 そして……

 医者から完治のお墨付きを頂いて数日後、天は一学期の終業式に臨んでいた。

 期末テストが終わり、にぎやかになってきた日々にも一段落。気が付けば、という早さで夏休み前になった。

 テストでは、無事に赤点回避。毎日の弁当攻防戦も慣れた。しかし、


「さ、斉藤君。俺が挨拶するっていうのは、ちょっと……」

「何を言う? 本来は、会長である君が挨拶するものだ。僕は……ただ出しゃばっていただけにすぎない」

「いや、そんなことないと思うよ。俺よりもずっとしっかりしてるだろうし……」


 まさか、体育館の壇上に上がる日が来るとは思わなかった。

 朝、クラスメイトと共に体育館に行こうとしたところを斉藤に捕まり、何があるのかと尋ねるよりも先に生徒会席に座らされた。

 このやり取りも、何度目だろうか。自分には無理だと伝えても、斉藤は冷静に、


「君の出番だ」


 としか、言ってくれない。

 全校生徒としても、天よりも斉藤に締めてもらった方がいいだろうに。


「安心してくれ。挨拶といっても、長話をする必要はない。今日は、残念だが報告するようなこともないしね」

「は、話って言われても、俺、何も話題ないよ……?」

「難しく考えないでくれ。夏休みに入るにあたり、と適当な注意を述べるだけでいい」


 ええ……と抵抗してみても、斉藤の表情は変わらない。いや、むしろどこか楽しそうでもある。

 斉藤らしからぬ顔を見て、天はがっくりと肩を落とした。これでは、何を言っても聞いてくれそうにない。


「せっかく生徒会長になったんだ。一度くらいは、壇上で話くらいしてもいいだろう?」

「うん、まあ、やってみるよ」


 覚悟を決めると、すぐに天の出番となった。

 できるだけ気を付けて、背筋を伸ばす。壇上で、机の前に立つと、生徒の中からざわめきが上がった。

 確かに、とその気持ちは分かる。今までずっと斉藤に任せていたのだ。今になって天が上るなどとは誰も思わなかったに違いない。

 おそらく、生徒の中で天が立つと知っていたのは三人。

 斉藤。

 真波。

 そして、海智留みちる

 その三人を思い浮かべつつ、天は口を開く。


「えーっと、どうも、生徒会長の星野です」


 あれが? やら、知らなかった? やらという言葉は無視しつつ、


「これからの夏休みですけど、気を付けて過ごしてください。夏休みは一か月もあります。何が起きるかわかりません」


 というのも、


「俺……じゃなかった、僕は、五月からの二か月間で、今まで思いもしなかったことがたくさん起きました。色んな人と知り合いましたし、大変なことにも巻き込まれました。まさか、自分にこんなことが起きるなんて、って何回も思いました」


 だから、


「皆さんも、くれぐれも気を付けてください。一か月もあったら、何かしらあると思います」


 そして、


「その、楽しんでください。一年生も、二年生も。三年生は受験勉強とかあるかもしれませんけど、高校生活最後の夏休みです。悔いのないように過ごしてください」


 以上です、と締めくくると、パラパラと拍手が起きた。大歓声など期待していなかったし、反応があるとは思ってもいなかったので意外だった。


「二学期の始業式でも、会長の挨拶を取り入れようか?」

「勘弁してよ、斉藤君……」


 拍手してくれた一人、斉藤に頭を下げながら、天はなんとか辞退したいと告げた。

 式はその後、校長の挨拶が終わると解散になった。気のせいか、退出していく生徒が生徒会長について話している気がする。

 斉藤と別れて、天も教室に戻る。すると、今までは薄ら笑いの聞こえていた教室は静まり返っていた。

 逆に居心地が悪い。慣れないことはするものではなかった。


 担任からの簡単な連絡が終われば、一学期は終了だ。天は荷物をまとめて、そそくさと退出した。残っていると、また何やら噂されそうだ。

 帰り際、二年生と一年生の教室に寄った。しかし、どちらにも目当ての人物はいない。

 となれば、向かう先は一つだ。

 手早く靴を履き替えて、校門へ。そうすれば、


「お待ちしていました、天さん」

「天センパイ、遅いっすよー」


 いつもの二人が待っていてくれた。


「ごめん、挨拶なんてやったから、ちょっと遅れちゃって……」

「今回はちゃんと天センパイでしたね。副会長が出てきたら靴投げてやろうかと思ってました」

「奇遇ですね、浜田さん」

「……二人共、冗談が過ぎるよ」


 いつもならば、ここですぐに別れるが、今日は二人と約束があった。


「それじゃ、行こうか」

「喫茶店かー。副会長が勧めるなんて、よっぽどすごい店なんですか?」

「私も興味があります。天さんとしては、どう感じましたか?」

「え? うーん、落ち着く感じがしたかなあ。コーヒーも美味しかったし、のんびり話ができるよ」


 斉藤に紹介され、行った時は色々と話したものだ。実は、あれからもちょくちょく通っている。斉藤と出会うこともあった。


 二人のやり取りを聞きながら、天はゆっくりと空を見上げる。

 いつもの道だが、いつかとは光景が違う。たった二か月で変わったことに感謝しつつ、楽しみつつ。


「行きましょう、天さん」

「置いてきますよー、天センパイ」

「ま、待って、すぐ行くから」


 高校生活最後の夏休みは最初から忙しくなりそうだ。

 進路も、色々と考え直した。両親とも相談し、学科も決めた。

 勉強と、そして、目の前にいてくれる二人のおかげで間違いなく今までにない休みになると確信して、天は青空の下を、三人でゆっくりと歩いた。

ご覧いただきありがとうございました。

五月から、といいつつ七月まで入ってしまいました。

元々一年通じて書くつもりはなく、夏休みくらいまでかな、と始めたものでしたが、

この辺りで一区切りつけようと思いました。

ご覧いただいた方々には心よりお礼申し上げます。


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