48 涙の目覚め
意識を取り戻した時、天は、しばらく目が開けられなかった。まぶたが重い、ではなく、まるで貼りつけられたかのように、開けられない。
集中し、頭痛を感じるほどに力を込めて、やっと開くことができた。しかし、力の入らない視線は、ぼやけた世界を映すだけだった。
どうしたというのか、体中が重い。起き上がろうと考えても、言うことを聞いてくれない。
「う……」
かろうじて、声だけは出せた。
何がどうなっているのだろうか。
「だ、れか……」
いないだろうか。声を、絞り出す。誰かいて欲しいと思い、
「て……さ……」
「……セ……パイ」
どこか遠くから、何かが聞こえた。右と左、両方から。天はなんとか聞き取ろうと、音の主を考える。
輪郭の薄い世界が、次第に鮮明に見えてきた。白い天井と、蛍光灯。見覚えがない。自分の部屋ではないようだ。
天井を認識すると、五感がやっと動き出した。
「天さん!」
「天センパイ!」
遠かった音が、声が天の耳にしっかりと届いた。それはすぐ近くで、
「海智留さん……? 真波ちゃん……?」
やっと判別できた。天はすぐさま体を起こそうとしたが、まだ体に力が入らない。
その代わりとばかりに、二人の顔を見せてくれた。
天の頬に、何かが当たる。ポツポツと。すう、と流れて落ちるのは、二人の涙だった。
「二人共、なんで、泣いて……?」
状況が分からない。まだ頭は起動しきっていないようだ。
問いの答えは、二人の抱擁だった。二人共に、天に頬を寄せてきた。
二人の熱が、天にも伝わる。髪の感触がくすぐったい。
「少し待っていてくださいね。すぐにお医者さんが来てくれます」
「天センパイ、まだ動かないでください!」
言われたとおりにする。元より、体が上手く動いてくれない。
しばらくすると、見覚えのない老人が来た。白衣を着ているあたり、医者だろうか。
聞きなれない単語を放ち、看護師に指示を飛ばしていた。天は、体中を触られる。くすぐったいが、身じろぎ一つできない。
触診というやつだろうか。恥ずかしいな、などと考えながら、終わるのを待つ。
終わるまで、それほど時間はかからなかった。医者は、後は頼むと看護師に言い、視界から消えた。
天は、自分がなぜここにいるのか分からなかった。医者がいるというあたりは病院だろうが、意識を失う前のことが曖昧にしか思いだせない。
自分は何をしただろうか、と疑問に思う。二人と弁当を食べようとしていた、ということまでは覚えているのだが。
考えていると、まぶたが降りてきた。開けようという抵抗も空しく、また天は意識を手放すことになった。




