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29 アオハル

ご覧いただきありがとうございます。

 帰りは五時くらいになった。陽が落ち始め、最寄り駅に着くころには薄暗くなっていた。


「天さん、今日はありがとうございました」

「こちらこそ。楽しかったよ」

「それは何よりです」


 ペコリと頭を下げる海智留みちるに、天も合わせる。そして、


「では」


 と言った海智留みちるの隣に並んだ。


「送ってくださるのですか?」

「うん、まあ、ちょっと暗くなってきたし。これくらいはね」

「ありがとうございます」


 海智留みちるの歩調に合わせて、二人は歩く。

 ほんの数日前まで、まさか自分にこんな場面がやってくるとは思わなかった。女の子を家に送り届けるなど、妄想したこともない。

 海智留みちるの家に着くまでの十数分は、互いに無言だった。しかし、そこに居心地の悪さはなく、のんびりと歩けた気がする。


「……家に帰るのが惜しいと思ったのは初めてです」

「ん?」

「いえ、なんでも」


 小さな呟きを聞きつつ、到着する。海智留みちるは、荷物を受け取ると、また頭を下げ、


「お誘いをお待ちしています」

「うん。また映画に行こう」

「はい」


 微笑みを浮かべて、家に入っていった。


 天にしては珍しく歩き回った一日だったが、疲れはない。帰り道にいつもの商店街を通り、あんぱんを買って自分も家に帰る。

 パン屋では、今日の服装を奥さんに軽く茶化された。


「誰かとおでかけしてきたのかなー?」

「はは、ま、まあ、一応」

「デートとはやるねえ」

「い、いえ、そんな大したものじゃないですよ」

「いやー、アオハルだねえ。はい、おつり」

「ありがとうございます」


 帰宅した天は、さっそく本棚からマンガを取り出した。

 少し日に焼け、背表紙が白くなっているのに時の流れを感じつつ、海智留みちるに貸す分を揃える。

 マンガを並べていると、スマホが震えた。


『ありがとうございました』


 そんな海智留みちるからの一文と、映画に出てきたキャラクターのスタンプ付き。

 早速、気に入ったキャラクタースタンプを買ったようだ。少し考えてから、天もスタンプを購入。そして、


『こちらこそ』


 と、我ながら色気のない言葉だと思いつつも、送信。スタンプも一緒に。

 

 どうなることかとやや心配だったが、天は今日を有意義に過ごせた気がする。

 今日は、気分良く眠れそうだ。

 マンガを紙袋に入れ終えると、スマホの画面を見て、天も顔がほころんだ。

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