第四話
〜第四話〜
俺は教室で授業を聞いていても何も頭には入らなくて夕紀の事ばかり考えていた。自分の言葉がウソなのか……夕紀の良い所なんて上げればいくらでも言う事が出来るのにアイツは謙遜している……
ほら、あれだ……あれだよあれ。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴って放課後の夕暮れ時……俺は夕紀に会うのも何だか気まずい気がしたので、一人で帰る事にした。
「ふぅ……」
家に帰っても誰もいない……こんな思いは家出中なら日常茶飯事だったのに、急に寂しく感じるのは何でだろう……
俺はただ夕紀の帰りを待つのも暇なので少し寝る事にした。
「ん〜……今何時だ……」
少し寝すぎてしまったようだ。時間は夜の6時。少し辺りが薄暗くなって来た頃である。
「夕紀は帰って来たかな……」
俺がベッドから出て伸びをすると、俺の机の上に一枚の便箋が置かれていた。
「手紙……?」
差出人は名倉夕紀となっていた……直接渡せば良いのに……ハガキの内容は……『恥ずかしくて……素直になれなくて……怒らせちゃってごめんなさい。優しい夕紀の憧れのお兄ちゃんが夕紀を好きだなんて信じられなくて……ついあんな事を言っちゃったけど……本当は夕紀も大好きだから……だから仲直りして下さい……夕紀の事だけを好きでいて下さい……』と書かれていた。
「ふぅ〜ん……」
俺は取り合えず一階に下りてみたのだが、夕紀の姿は無かった。次に夕紀の部屋をノックしたのだが返事が無いので入ってみると夕紀は眠っていた。
「寝てたのか……」
俺はもう一度夕紀からの手紙を見てみる。
「ずっと夕紀だけを好きでいて下さい……か。どうしよっかなぁ……まぁ仕方無いよな……俺も同じだし……」
俺は夕紀の頬にキスをしてから夕紀の部屋を出た。
「よっしっ!俺も晩飯作りって奴をやって見るかな」
台所には色々な食材があったのだが、はっきり言ってどれを使ったら良いのか判らない。なわけで、俺は自分の金で食材を買う事にした。
「買い物なんて久しぶりだな……」
俺は近くのスーパーで適当に食材を買って家に戻った。
「ん〜……今日はカレーだな……」
俺が適当にカレーを作っていると夕紀が二階から降りて来た。
「あっ! 違うよぉ〜そこはこうするんだよぉ〜」
起きてから早々うるさい奴だ……
「違う〜こうだってばぁ〜」
「こうか?」
「もう……全くお兄ちゃんは夕紀がいないと何も出来ないんだから……これじゃあ夕紀がずっと側にいてあげないとダメだね」
「素直じゃねぇなぁ……」
「素直じゃ無い子は嫌い?」
「いんや……それも夕紀の特徴なんだから俺は構わないかな……」
「そっかぁ〜じゃあ良いかなぁ〜」
「でも素直な方が可愛いと思うなぁ〜」
「じゃあ……素直になろうかなぁ……」
「そんな簡単な物なのか?」
夕紀と俺でそんな意味不明な会話をしている間にカレーが出来上がった。
「………………」
「美味しい?」
「普通に旨いな……でも、俺が手を加えた所為でマズくなったんじゃ無いかな……夕紀が一人の方がもっと旨かったかも……」
「そんな事無いよぉ〜お兄ちゃんが作った物なら何だって美味しいもん……」
「そんな物かぁ? 俺は楽しかったくらいかな……」
「ホント?」
「そりゃあ夕紀と一緒に何かが出来たんだからな……楽しかった」
「嬉しいなぁ〜」
「嬉しいか? だったら俺も楽しいから明日から毎日料理教えてもらおうかな……」
「良いよぉ〜教えてあげるよぉ〜明日は約束だから買い物行こっか?」
「俺は特に問題ない」
「あ……やっぱり夕紀の出来る事が減っていくのはヤダ。だから教えてあげなぁーい」
「一番にならなくて良いんだってば……」
「冗談だよっ」
料理を教わる約束もして、その日はただ眠るだけになった……
「起きて〜」
朝になって夕紀が俺の布団をひっぺがした。休みなんだからもう少し寝かせて欲しい物だ……
「ほらぁ〜買い物に行くよぉ〜」
「了解、いってらっしゃい……」
「一緒に行くのぉ〜」
「何で……」
「一緒に行くって約束したでしょぉ〜」
「あぁ……確かにした様な記憶があるな……明日じゃダメなの?」
「思い立ったが吉日だよっ」
「要するに行き当たりばったりか……まぁ良いや可愛い恋人のお願いなんだから聞いてあげなきゃな……」
「やったぁっ! さっすがお兄ちゃんやっぱり優しいなぁ〜」
「……恋人なのにお兄ちゃんってのも何か変な気がするなぁ……透弥で良いよ」
「え、ダメだよっ年上にはちゃんと敬称を付けなきゃ」
「じゃあ……透弥さんか?」
「うん、そう呼ぶ〜透弥さん、早く用意してよぉ〜」
「判った……ところで父さんと母さんはどこに行ったんだ?」
「昨日に出張って言ってたよぉ〜今度は遠い所に行くんだって。東南アジアって国に行くらしいよぉ〜」
「東南アジアは国じゃなくて、色々な国の総称だ……」
「そうなんだ。おに……じゃ無かった透弥さんは賢いんだねぇ〜」
「常識だ……さぁ早く出かけるんだろ?」
「うんっ!」
俺と夕紀は玄関に向かい、一緒に家を出た。良く考えたらこれって初デートって事なのか……?
「で、今日は何を買うんだ?」
「えっへっへ〜透弥さんに料理を教えるにも材料がいるでしょぉ? それの調達と、秘密の物を買うのだぁ〜」
「買うのだぁ〜って……秘密の物って何だよ?」
「秘密の物なのに何かを言ったら秘密じゃなくなっちゃうでしょぉ〜賢かったりバカだったりするねぇ〜」
「悪かったな……ったく、せっかくの初デートにバカって言われるなんて思ってもみなかったな……」
「は、初デート……?」
「そ、初デート」
「そ、そんな……ただのお出かけだよぉ〜」
「良いじゃん……恋人が出かけたらデートだろ?」
「ダメだよぉ〜初デートだなんて大事な事なんだから気持ちの整理が必要なんだよぉ〜」
「ふぅ〜ん……じゃあ今日はただのお出かけだな……」
「うん、ただのお出かけ」
「さて、さっさと食材の調達に行くか……」
「そだねぇ〜朝早くは新鮮だからねぇ〜あ、そっちじゃ無いよ」
「はぁ? 店はこっちだろ」
「こっちこっちぃ〜」
夕紀に案内されたのは家の駐車場だった。
「車……?」
「早く乗ってよぉ〜何してるの」
「いや……中学生が運転するのか?」
「早いでしょ?」
俺は納得できないが取り合えず乗ってみた。で、車が発進する。
「運転できるのか?」
「カーレースのゲームと一緒でしょ?」
「降ろして……」
「レッツゴー」
「降ろしてくれぇええ!」
夕紀は一気にアクセルを踏むと法定速度ギリギリで走り出した。
〜続く〜