第二話
〜第二話〜
「朝だよ〜起きろぉ〜」
「げふっ」
夕紀が俺の腹の上に飛び乗って来た。朝からノーガードの腹に衝撃が来たら本当に気分が最悪レベルまで襲ってくる。
「今日から学校だよっ早く起きなきゃ」
「そうだな……起きるから俺の上からどいてくれるか?」
「本当に起きる?」
「起きるから……」
夕紀が俺の上からどいた後に俺はゆっくりと起き上がる。こんなに早く起きたのは4年ぶりだろうか……まだ朝の5時……
「早すぎだろっ!?」
「良いじゃん。お兄ちゃんは久しぶりなんだから用意に時間がかかると思ったから……」
「そっか……でも、夕紀だって眠いんじゃ無いか? さっきからあくびばっかりしてるし……」
「そ、そんなのしてないよ。夕紀は朝から元気いっぱいだよっ」
あぁ……気遣ってるのか。なら俺も気付いてないふりをしなきゃダメだな。
「そっか……悪い、俺の見間違いだ。夕紀は昔っから元気な女の子だもんな?」
「うんっ!」
俺は仕方なく起き上がり、制服に着替える為に上着を脱いでから制服に手をかけた。俺が完全に制服に着替え終わってから夕紀に『飯食いに行くか』って声をかけると、夕紀の顔は真っ赤になっていた。
「どうしたんだ?」
「えっと……着替えるなら着替えるって言ってくれないと……」
「じゃあ出たら良かったじゃん……顔隠すとかさ……」
「あ、そうだね」
「夕紀って結構頭悪いだろ? 俺に似ちゃったのかねぇ……ま、さっさと飯食いに行くか……」
「うん……」
俺は真っ赤な夕紀を連れて一階に下りて行った。父さんと母さんはもう仕事に行った様だ。
「朝から早いな……あの人達は寝てるのか?」
「さぁ? 夕紀は見た事無いから判らないよぉ〜」
「飯はどうするんだ?」
「え、ご飯がすぐにやってくる訳無いじゃん。作るに決まってるでしょぉ? 夕紀より頭悪いよぉ〜」
「むぅ……って夕紀が料理をするのか?」
「うん、美味しくないかも知れないけど……」
「いやいや、美味しく無くても女の子の料理を食べられるってのは嬉しい物だと思うよ」
「妹なのに女の子って変じゃ無いかな?」
「そうかなぁ〜? でも、だいぶ別々だったから今は妹ってより一人の女の子って感じにしか見れないんだよなぁ〜」
俺の何気ない一言が夕紀の顔をさらに真っ赤にする。
「どうしたんだよ……朝から赤くなって大変だな。お前の顔は太陽かトマトなのか?」
「べ、別になんでも無いよ」
「そっか……トマトだったら非常食になるな」
「お兄ちゃんが一人の女の子として見てくれてるって事は夕紀にもチャンスが……」
「何か言った?」
「うぅん何でも無いよ。早くご飯作るねぇ〜」
「頼むよ……」
俺はどんな料理が出てくるのかとワクワクしていたのだが、俺の前に並べられた料理は全てが黒一色で統一されていた。
「これ……何?」
「朝食だよぉ〜お兄ちゃんの口に合うか判らないけど……」
こんな物は食う前から口に合わないのは判りきっている。絶対にマズい。マズいで済んだら良い……体を壊すカモだ……しかし俺の目の前には俺の感想を今か今かと待っている夕紀の顔があった。でも、これは人間の食べる物なんかじゃ無い。人間をヤメルか、夕紀の笑顔を取るか……
食べない訳には行かないじゃ無いか……俺は一口だけパクリと食べてみた。
「あれ、うまい……」
「ホント!? やったぁ〜いやぁ〜お兄ちゃんもお人よしだねぇ〜こんな真っ黒な料理を食べるなんて〜」
「お前が食べろって言ったんだろぅが……」
「これねぇ〜わざと真っ黒にしたの。お兄ちゃんが外見に囚われずに食べてくれるかなぁ〜って思って……」
「俺を試したのか?」
「ごめんなさい……」
「良いよ……俺を試した事は許してやる……でも許せない事が一つだけあるな……俺を試すために夕紀は食料で遊んだ訳だよな? 野菜とかだって生きてた命を頂いてる訳だ……それで遊んだりしたらダメなのは判るな?」
「うん……」
「取り合えず、今後は食料で遊ぶ様な事はしたらダメ判った? よく反省するんだぞ?」
「はい……」
「よし、良い子だ……」
俺は夕紀の頭を軽く撫でてやった。
「おいおい、泣くなよぉ〜」
「だって……お兄ちゃんが夕紀を怒ったの初めてだもん……」
「別に怒ってねぇよ……」
「ホント?」
「ホントだ……ただの注意だっつーの」
俺が夕紀を慰めるのに一時間くらいかかった。結局早起きした意味はあった様な無かった様な……
取り合えず時間が無いので、夕紀もさっさと着替えさせて学校に向かう事にした。夕紀がボタンをはずすのをトロトロしてたので俺が全部はずしてやったら夕紀が顔を赤くした。本日三回目……
「何とか間に合いそうだな……」
「お兄ちゃんって学校に来るのは初めて何だよね?」
「そうだな……今、夕紀は何年生だ?」
「中学一年だよぉ〜」
「じゃあ俺は中二か……」
「失踪扱いになってるからビックリするだろうね皆……」
「失踪?」
「うん、失踪……」
「そんなバカな……」
俺が夕紀とそんな会話をしていると、学校が見えて来たのだが、俺は急に学校に入るのが何だか怖くなった。
「夕紀、俺は帰る……」
「え、何で? 何でぇ!?」
「良いから……」
俺は一人家までダッシュで帰った。夕紀もその後をついてくる。夕紀は学校に行けば良いのに……
俺は自分の部屋に駆け込んで座りこんだ。
「はぁ……はぁ……」
「はぁ……はぁ……ど、どうしたの急に学校から帰って来たけど……」
「怖い……」
「怖い? あ〜急に学校に行くから怖いの? だったら大丈夫だよぉ夕紀が一緒にいるでしょぉ〜?」
「違う……学校に行くのが怖いんじゃない……」
「じゃあ何が怖いのさ?」
「俺は……お前が……怖い」
「夕紀が? 小声じゃ聞こえないよぉ〜」
「俺はお前がいなくなるのが怖い……お前を二度と失いたくない……ずっと俺の側においておきたい……」
「何……言ってるの?」
「こんなの勝手に出て行った俺が言えた立場じゃないのは判ってるんだ。でも俺は……」
「大丈夫だよ……休み時間になったら会いに行くから」
「そんなのダメだ……俺は授業中のたった50分すらも……」
「急に帰って来て、すぐに学校ってのは早かったかな……色々とごちゃごちゃになって混乱してるんだね……だから……今日だけだよ?」
夕紀は俺のベッドに座りこみ、俺を正面から抱きしめてくれた。
「夕紀……?」
「今日は甘えんぼさんだね……どうしちゃったのかな?」
「俺は……」
「お兄ちゃんが夕紀を側に置いていたいって言ってくれるのは嬉しいよ……でもね、ワガママはダメだと思う……」
「そんな事は判ってるんだ……ワガママがダメだってのも、義務教育なんだから受けなきゃダメだってのも……全部、全部……それでも俺は……」
「少し落ち着こう……お兄ちゃんが落ち着くまで……こうしててあげるから」
ほんの数分の時間が、俺には永遠の様に感じられた。
「夕紀……俺に誓ってくれ。ずっと俺の側にいてくれると……」
「ずっとって言うのは無理だよ……だって、授業中はダメだし……だからね……夕紀が何もしていない時はって言うのは誓えるよ?」
「そっか……そうだな。それで良いや……」
俺はすっと立ち上がり夕紀に『学校行こうか?』と言った。
「うんっ!」
家を出てゆっくりと進み校門に到着……ここから先は進むしか無いんだよなぁ……
「ほら、大丈夫だよ……夕紀が一緒でしょ?」
「そうだな……」
俺はゆっくりと校門をくぐり、学校内に入った。
「初めて学校に来る入学生とお母さんみたいだね」
「馬鹿……しっかし初登校が中二になるとはな……」
「別に良いんじゃない? 夕紀はお兄ちゃんと一緒に学校に行ける日が戻ってくるだけで充分だよ……これでお昼ご飯も楽しくなるなぁ〜」
「昼食? 俺持って来てないなぁ……」
「良いから良いから〜お昼になったら迎えに行くからぁ〜」
「……?」
俺は少し理解不能に陥ったが、何とか耐える事が出来た。さて、初登校でどうなる事なのやら……
〜続く〜