感情の現れ
遅くなりました。
いよいよ優雅のバトルですが、はっきりいってバトルになってないですね。
申し訳ございません。
「はぁ、華音。確かに守るとは言ったけどせめて殺されないための抵抗くらいしてくれてもいいと思うんだけど?」
優雅は華音をゆっくり下ろして、なかば呆れた表情でいう。
「あら、でも優雅は約束通り守ってくれたじゃない」
華音は嬉しそうに答える。
「まぁそれはそうだけど、今回はたまたま渡しておいたものが役に立っただけで、いつもあるとは限らないからな」
「そう? なら考えておくわ。それでいったいあのお守りの正体はなんだったのかしら?」
優雅は華音の問いに「ああ、あれは」と説明しようとしたところで、突如現れた優雅に唖然としていた優と雅が、今度はなにやら笑顔で駆け寄ってきたのでそちらを向く。
「優雅くん! いったいどうやって華音様を助けたの?」
「優雅! いったいどうやって戻ってきたのだ?」
2人は同時に優雅へと迫る。
優雅は、どうどう、というように2人を制して種明かしをする。
優雅が簡単に説明すると、2人はポカンと口を開けて、固まった。
種明かしの内容はこういうことだった。
優雅がビルから出ていく前に華音に渡したお守りの中には、優雅の自作の転移護符が入っていたらしい。
そしてそれは華音の命が本当に危うい状況に陥った時、発動するようになっていた。
この護符は相当珍しいらしく、忍術者社会のなかでも大変貴重で、間違っても忍学生のしかもまだ二年に上がったばかりのひよっこが手に入れられるものではない。
一枚の制作にかなりの時間と気を消費するためとそもそも制作できるほどの忍術者がほとんどいない。
そんなものを自作したなどと聞かされれば、優と雅が思わず固まってしまうのも当然である。
ちなみに優雅はこの転移護符をいつ作ったかというと、昨夜、優雅の部屋で寝ていた2人のおかげで、あまりにも寝付けなかったため、気を消費しようと思い作ったのだ。
そのおかげで優雅はようやく眠りにつけたのだ。
まぁその辺の事情を話すわけにはいかず、優雅は適当に誤魔化した。
「うそでしょ? 優雅くん。自分で作ったって」
「そ、そうだぞ優雅。話によれば転移護符を作るにはそれなりの忍術者の100人分の気が必要だと聞いたぞ」
「ああ、ほらおれこの間まで普通の高校に通ってただろ? だから時間はいくらでもとれたからゆっくりコツコツと」
優雅の誤魔化しにどうやら2人は納得してくれたようだ。
華音はというと、そんな3人の会話を、笑みを浮かべながら聞いていた。
「さてと、そろそろ今回の任務を終わらせよう。2人はあまり動けないだろう? なら華音のそばにいてくれ」
そういうと優雅は海藤を見据える。
海藤はというと、なぜこの場に優雅がいるのか理解できないといった表情だった。
「ば、バカな! なぜ少年がここにいる! い、いったいどうやって現れたのだ!
そもそも向うの連中はどうしたのだ!」
海藤は焦りの滲み出た口調で自分の方へとゆっくり歩み寄ってくる優雅へと問う。
「なんだ、見ていなかったのか? 転移護符で向うから直接飛んできたんだよ」
「て……転移護符だと! そんなものを用意していたのか!
いやしかし、それならば結局、向うはあきらめるということだろう? なにせきみがこの場を離れてから三〇分と経っていないのだからな」
海藤は突如冷静になり、優雅へと問いただす。
何故、海藤が冷静を取り戻したのか。それはたかだか三〇分程度では会場で待機させていた8人を制圧し終えることなど不可能だと確信していたからだ。
そもそも会場はこの場から時速60キロの車で三〇分はかかる。
忍術者は瞬間的な速度なら実力次第でいくらでも出せるが、持続させるとなるとそうはいかない。
海藤はどんなに早くとも二〇分は要すると考えていた。
実際、優雅が会場へ着いたのはそのくらいだった。
だが、海藤の予想はそこまでしか当たっていなかった。
海藤は、一〇分足らずで忍術者8人を制圧するのは不可能だと考えている。
そもそもいくら予想以上の実力だった優雅であってもあの8人なら負けることはないと思っていたくらいだ。
だからこそ優雅の返答に対して、圧倒的な衝撃を受けた。
「ああ、あの8人の男たちなら全員片付けたよ。今頃、うちの学年主任が忍術課の警察にでも引き渡しているだろうさ」
この時、常に優しい笑顔を見せていた優雅が初めて不敵な笑みを見せた。
「あ、ありえん! たかが一〇分足らずでやつらがやられるはずがない!」
「一〇分? ああ、最初の移動時間を引いたのか。だが残念だけど、やつらを片付けるのに五分もかからなかったな。 いっただろ? 学年主任があっちに向かってるって。
連絡するのに十分な時間がとれたよ」
海藤は未だに信じられないといった表情だ。
「最初に言っておく。もうあんたに勝ち目はない。大人しく諦めて、罪を償う気はないか?」
静かに口を開いた優雅だったが、そこには今までとはまるで違う、強烈な威圧的オーラを放出した優雅が立っている。
それは幼い顔つきの、優しい笑顔が似合う優雅とは思えないほどの、直接向けられていないはずの優と雅が自然と恐怖し、震えてしまうような、そんな、圧倒的な殺気だった。
「だ、だまれ! 黙れ黙れ! 貴様のような小僧に私が負けるはずがない!」
海藤は優雅の忠告を無視し、5匹の狼を一斉に放つ。
だが今更その程度の攻撃で、優雅が屈するはずもなく、あっさりと風の刃でもって消滅させる。
「くっ! ではこれならどうだ!」
次に海藤が繰り出したのは、先ほどと同じような5匹とそれよりふたまわりほど大きい5匹の狼。
そいつらを一斉に放つ。
小さいほうの5匹は先ほどよりもスピードが格段に速く、左右後方へと駆け、優雅を翻弄し、正面から大きいほうの狼どもが突進し、海藤は全方向からの攻撃を仕掛けた。
しかし、優雅は一度も位置を確認することなく、ゆっくりと右手を構えてこう口にした。
「あんたに実力の違いを見せてやるよ。
……『水遁・水球縛り(すいきゅうしばり)』」
そして優雅の発動した術は、飛びかかってくる10匹の狼を正確に捕え、生み出された水の球の中でもがき苦しんだ後、バシャンっという球の落下音とともに消滅した。
「「「っ!」」」
これに驚いたのは海藤と、華音のそばで優雅の戦闘を見守っている優と雅も、だった。
「す、水遁だと! まさかその若さで2系統忍術者だというのか!」
海藤が驚きのあまり叫ぶ。
「み、雅……?」
「ああ。信じられないな。確かに忍術系統を複数要するのは不可能ではない。
しかし、目覚めた際に覚えるオリジナルと後から訓練して覚えたサブとの差は明らかだ。
それをあの精度でいとも簡単にやってしまうとはな。だがな、優。
確かに驚いたが、私はあの凄まじい気を放った優雅を見てから、このくらいはやってのけてもおかしくはないんではないかと思ってしまっている」
「うん……そうだね。いったい優雅くんはどれだけの力を隠しているんだろうね」
2人は驚きの表情ではあったが、優雅を見据えるその瞳は、どこか尊敬の眼差しにも見えた。
「これで分かっただろ? あんたに勝ち目はないよ」
優雅は再びそう告げる。
しかし、海藤はまだ諦めてはいなかった。
「く! ふ……ふははは。 調子に乗るなよ、小僧。確かに凄まじい才能だ。
だが所詮、基本系統の水遁がサブとして増えただけにすぎん。
おそらく、今以上の威力は出せまい? 発動した術もどちらかといえば攻撃ではなく、
動きを封じるものだ。なら私の最高の忍術で圧倒するまでだ!」
そういうと海藤は1匹の大きい狼と20匹の狼を生み出した。
優雅は、最高の忍術がただ狼の数を増やすだけかと半ば興ざめだったが、海藤の術はこれでは終わらなかった。
「集まれ、我が狼ども!」
海藤がそう言葉を発した瞬間、中心の大きい狼に向かって残りの狼どもが一斉に飛びかかり山のように重なる。
そして最後の狼が重なると、激しい発光とともにその姿を変え、大の大人など軽く10人くらいは丸呑みできてしまいそうな巨大な狼が姿を現す。
「くははははは! どうかな? 少年。これが私の最高の忍術だ。
きみの使う風遁の威力は見当がついている。散々見させてもらったからな。
きみの力では私の術は破れない。もちろん、サブでしかない水遁では話にもならないぞ?
この術で4人仲良くあの世へ送ってやる」
海藤はなぜか勝ち誇ったように笑い始める。
優雅にはその意味が全く理解できなかった。
――たかが自らの最高忍術を発動しただけでなぜ勝った気になっているのか。
――先ほどまで自分に圧倒されていたはずなのに。
――なぜ相手との実力の差に気付かないのか。
確かに忍術者同士の戦闘において絶対はない。しかし、実力に差があれば、その分有利、不利が生まれるのはどんなことにおいても言えることだ。
故に、結果がひっくり返るとするならば、それは油断による一瞬の隙を捕えるしかない。
しかし優雅は戦闘中、手加減することはあっても油断することは絶対にありえなかった。
したがって優雅の勝利は決定的だ。
さらには、海藤自身、大きな勘違いをしているのだから尚更だ。
優雅はその勘違いを教えてやる。
「何を勘違いしているのか知らないが、おれは一度たりとも、風遁がオリジナルで水遁がサブと言った覚えはないんだがな?」
「……なん、だと? ふっ、とんだ強がりだな。あれほどの精度と多彩な術の使える風遁がサブなものか」
「そう思うなら、さっさとその最高の忍術とやらで、おれを殺してみろよ。
言ったはずだ。実力の違いを見せてやると」
優雅の口調には怒りが混じっているように聞こえた。
それが原因か、海藤は罵声を上げ、巨大な狼は優雅に向けて放たれた。
「学生ごときが……調子に乗るなっ! やつを食い殺せ!」
狼はその巨体からは考えられないスピードで優雅へと突進する。
その迫力は凄まじく、さすがに優雅を見守っている優と雅からも心配の声が上がる。
だが華音だけは静かに優雅を見据えていた。その表情は、優しく、しかし、優雅を強く信じきっている瞳をしていた。
そして優雅にも欠片の焦りさえなかった。
静かに右手を狼に向け、そして。
「『水遁・流水龍』」
そして放たれたのは螺旋に渦巻ながら激しく流れる水の龍。
猛スピードで襲いかかる狼は、突如放たれた水龍をかわすことはできず、そのまま後方へと押し返され、天井へと昇って行く水龍によって激しく打ちつけられ、落下してくる。
「なっ……!」
海藤はあり得ないという表情で頭上から落下してくる狼を見上げる。
しかし優雅はこれで終わりではなかった。
「『忍術融合・疾風水針殺』
優雅の頭上に数えきれないほどの小さな水の塊が生まれ、そして疾風のごとき速さで飛び出し、海藤と落下してくる狼にまるで針のような直線となった水が、横殴りの嵐のように襲い掛かる。
「忍術融合を1人でだと! そんなことありえな――ぐはっ!」
苦痛の声をあげながら狼とともに海藤自身も水針の嵐によって後方の壁へと打ち付けられ、狼は消滅し、海藤はそのまま床へと倒れた――。
次回タイトル、雷遁使い、です




