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八面玲瓏

お昼休み。学食に行くか、おにぎりでも買いに行くか…と迷いながら、お弁当を頬張るまゆさんに話しかけました。


「もう100番までは埋まっているんですか?」

「いいえ?1番から10番までは幹部、11番から50番まではそれぞれの幹部の補佐を5人ずつ、51番以降は一般会員にするつもりよ。だから、もし補佐にしたい方がいらっしゃるならそれ用のカードを差し上げますわ。ただ、幹部に入れるとなると相談して欲しいですけれど。」


箸を止めて答えるまゆさん。

既に軍隊のような規律が見え隠れし始めています。そして何の因果か私はそのNo.2というこれまた恐ろしい立場です。公式争いに敗れる事を切に望みます。


「いや、いいんです、単なる好奇心です。あの、私はなぜ幹部にして頂けたんでしょう?」

「それは勿論お噂を伺ったからよ。いいこと?遊さん!貴女はね、有名人なのよ!」


ドーンッ!バッコーン!


興奮して話し始めるまゆさんを遮るように、教室に破壊音が響き渡りました。一瞬まゆさんが出したBGMかと思いました。

クラスにいた全員の目が、音の発信源のドアに向かいます。


そこには煌めく人と普通の人が立っていました。彼らの後ろに見えるドアは、殺到した観衆の重み…彼らのファンクラブでしょうか…のせいで壊れたようです。


「っつ…!」


そこにいたのは孝介と太郎君でした。集まる視線を一身に浴びる孝介と、一観客のふりをして上手く周囲に溶け込んでいる太郎君。一見すると孝介だけが原因と思える位には溶け込んでいます、慣れているようです。


「遊さん。貴女、恭介様とお知り合いなの…?」

「恭介?誰ですか?」

「あそこに立っていらっしゃる方よ。ほら、こちらにいらっしゃるわ!」


つかつかと寄ってくる孝介。どこに向かっているのでしょう?振り向いて後ろを確認していたら、肩を叩かれました。


「ねぇ遊ちゃん!ご飯一緒に食べよ?」

「あなた誰ですか。」


私の眇めた目つきを意に介せず、白々しい口調と背景に花を散らす無駄なスキルを発揮しながら、孝介は話し続けます。


「君が来てくれるかもぉとか思って待ってたのにつれなーい!ね、ご飯まだでしょ、行こうよ学食。」

「だから嫌(いいから合わせて付いてこいやゴラァ)行きます。」

「本当ー?嬉しいな、じゃあ行こっ!」


小声で人の事を脅しておいて、なかなかに面の皮が厚いというか何というか。孝介は私の腕を取って教室から連れ出しました。

グサグサ刺さる女性の視線に体が焼け焦げてしまいそうです。皆さん!何を考えていらっしゃるか詳しくは分かりませんが、確実にそれは間違いです!











さて、引きずられてやって来た講堂棟。

狭い道を引き回されてヘロヘロですが、同時にファンの方々も居なくなりました。


「やっと居なくなったわあいつ等!しっつけー!」

「ここは講堂棟?」

「ん?そだね。」

「そだね、って私ご飯まだなんだよ!?お金だって持って来てないし…飢え死にしろって?」

「ホラ、講堂棟って落ち着かない?」

「…ああ、裏せっっぷ」


ファンが居なくなったからか、急に湧いて出てきた太郎君に口を塞がれました。うっかり裏生徒会と口走りそうになったのを止められたのでしょう。


「ごめんなさい。あの、」

「あー!太郎お前っ、俺の遊ちゃんの顔に触んじゃねぇ!」

「どこのガキだお前。」


あの、そもそもなんで私をわざわざ晒し者に?裏生徒会の部屋なら隠れてこっそり来る事も可能だよ?という質問の前に、太郎君が目にも留まらぬ速度で孝介の頭をはたき、孝介は視界から消えてしまいました。ご愁傷様です。


「さーて、本題に入ろうか。孝介の事だが、とりあえず人前では恭介と呼んでくれないか?」

「それは…どうして?」

「やー、実は恭介って表の生徒会役員で俺の双子の弟なんだけど、人気取り下手くそなんだよ。だから俺が人気稼がないとな。」


何時の間にか立っている孝介。打たれ強いです。


「でも、恭介君は表の生徒会なら人気があるんじゃないの?」


恐らくそれなりに人気がある綺麗ドコロのような方々を集めているのだろうと推察できますしね。


「こいつ、こんな顔だから行動すると目立つんだ。だから弟として目立って自分は隠れてるらしいぞ。本人曰く。」

「なるほど、確かに一理あるような気もし…ないよ。太郎君みたいに本当に隠れればいいのに。」

「やだよ、何で隠れる必要がある。やましい事してないぜ?それに俺が恭介として目立って恭介のファンが増えたら俺も嬉しいんだって。同じ顔だしな、要は俺もモテるって事だろ?いやー、太郎と違ってモテるって辛いネェ。」


途中までは少し同情できましたが、最後の一言が不要でした。懲りない孝介は太郎君の瞬速の右で再度床に沈みました。


「じゃあ、恭介君って呼べばいいの?」

「恭介様と呼べ。」


足下から聞こえた不遜な言葉に、太郎が足を…。ちょっと足は駄目だと思います。


「加賀君と呼んでおけ。面倒だからな。」

「おい、太郎だけ名前で呼ばれんのかよ!ズリィ!」

「お前は一体何がしたいんだ…。」

「だからさっき言ったじゃん、人前で目立ってたら恭介様、普通の時は孝介って読んでくれって!」

「人前では加賀恭介君として扱えばいいんだね、分かった。加賀君って呼ぶ。でも加賀恭介君の方は何て呼べば?」

「あー…、それは会ってから決めればいいんじゃないか。」


微妙な表情をする太郎君。まずい事を聞いてしまったのでしょうか。


「てかあいつ不登校児だから。多分会わねー。太郎も気にすんな。」

「不登校…。」


やはり表の生徒会も強制参加?で嫌なのでしょうか。一応学校の年間予定表では選挙があるらしいのですが。


「生徒会は面倒で嫌だったらしいけど、あいつのファンが強烈でならざるを得なくてさ。幸いここは出欠席をカードで取ってるし、ファンが落ち着くまで俺だけ来てんの。」

「孝介が煽ってるんじゃ…?」

「恭介の馬鹿は俺と同じ美形なのに引っ込み思案でさァ、ファンは多いのに友達が少ないんだよなー。ほとぼりが冷めたと思って来たらひとりぼっちになっちゃいましたなんて嫌だろ?ファンの量はあまり減らさずに少しずつ調教してく事にした。友達はどうにもなんねーけど。」


いつもの軽い笑顔で笑う孝介。

狂信者に囲まれる教祖状態か、孤独か。そんな紙一重の選択しか残されていないとは、人気者とは大変です…。

孝介が調教という獣に対する言葉を使うのも、そんな状態のファンへの怒りからなのでしょう。


「ちなみにー、俺は遊ちゃんからなら調教されたいでっす!気が向いたらいつでも呼んで!女王様用の鞭と紐持ってくるからさ。」


ファンへの怒り…?でしょう。きっと。

はいはーいと手を挙げて主張する孝介に太郎君が殴りかからないのが証明かと思います。でも拳は固めています。


「そういやこの前買ったばっかのボールギャグとかもあるしな!」

「ぼーるぎゃぐ…?」


ボールを使った孝介鉄板のギャグがあるのかな?と思ったのですが、太郎君から吹いた一陣の風と共に孝介がまたもや沈んだので深く考える事をやめました。









八面玲瓏はちめんれいろう

意 味:どの方面から見ても、美しく欠点がない。心中にわだかまりがなく、清らかに澄みきっているたとえ。また、多くの人との交際を円満に処理するようすのたとえ。



ボールギャグ:(くつわ)の一種で、ボールがくっついている物です。まあ、あの、ごめんなさい。私じゃなく孝介を責めて下さい。悪い奴じゃないんですが悪ノリが酷い。

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