順従謙黙
「かいちょー、裏が正式な組織だったらこんな風に決まる訳ないでしょ?ったく、そんぐらい勘付いて下さいよ。」
新入生のオリエンテーションだけ出たらここに集合、と命令され、待たせるのも申し訳ないので適当に聞き流して急いで戻ると既に2人は待っていました。
「会長、華頂から話を聞いていらっしゃらないのですか?もしかして初めて裏があるの知りました?」
「あー…はい。ウチの馬鹿光貴のせいで何かご迷惑をお掛けして…。」
「いやいや、聞いてないとか普通に考えてあり得ないっしょ!裏になる奴って大抵何か表に負い目があるんすよ、で、脅されるのがデフォです。なあ田中?」
「一緒にするな、俺は鷹峯様が是非やってくれと頼んできたんだ。脅迫されてない。」
「でもお前確か鷹峯家の執事見習いだろ。」
「そうだが?」
「じゃあ嫌でも断れねーじゃん。」
目を丸くする田中君。断るなんて考えつかなかったという顔です。今日まで執事なんて小説の中でしか知りませんでした。しかし執事教育はなんて恐ろしいのでしょう。もはや洗脳の域ではないでしょうか。
「あの、私は別に光貴のサポートなんてやりたくないのですが…。」
「甘いです。裏に入れられた時点で逃げられませんよ。退学しない限り縁の下です。」
「ってもまー悪い事ばっかじゃないぜ。基本グダグダ菓子食いながら待機で。」
「校長や表が振ってくる軽い仕事を捌いて。」
「「たまに死ぬ程忙しい。」」
ハモった…!本音はつまりそういう事なのでしょう。そんな仕事、絶対やりたくありません。それこそ死ぬ程嫌です。
「お前幼稚舎からやってたりする?」
「いや、中学からだ。加賀はもしかして?」
「そうそう、俺幼稚舎ん時からやらされてんの。いい加減慣れるっつーの。まあ周りの奴らガンガン消えてくから人間関係は大抵一からだよな。」
「そうだな。俺もお前以外は大抵知らない人間だった。しかしどうしていなくなるんだろうな、留学でもしてるのか?」
怖い話を和やかにする2人。どこかしら黒い影が見え隠れするのは気のせいですね。
「お話が弾んでいる所申し訳ないのですが、つまり辞める方法はないんですね?」
「そう言う事になりますね。会長、諦めて会長やりましょう。後、俺らに敬語は禁止で。」
「え、ちょっと難しいです。」
「大丈夫です。」
「無理です。」
「慣れろ。黙って会長やれ。」
「はっはい!」
「あはははは!会長面白え!押しに弱いんすか?ダメですよ、裏は結構アコギな事やらなきゃならないっすから。」
加賀君がいきなり笑いだして失礼かつ怖い事を言い始めました。アコギとはつまりアコースティックギターとやらの略称ですねそれ以外は知りたくありません。それよりも、彼は敬語が苦手であるように見受けられるのが気になります。
「加賀君、敬語やめていいで…いいよ。」
「あ、いい?ごめんねー敬語とか下手くそでさぁ。やってらんねーんだよな。」
「会長、乗せられないで下さい。幼稚舎から裏やってて敬語苦手なんてあり得ません。誘導するような喋り方をしているだけです。」
イタズラっぽい顔で笑う加賀君と、それより一回り大きいいかついガタイで焦る田中君がちょっと可愛く見えてきました。加賀君だけ敬語抜きというのも悪いので、田中君にもお願いしておきましょう。
「田中君も敬語抜きでいいよ?」
「…う、じゃあ公式な場以外はラフでいいか。宜しく、会長。」
少し逡巡した様子でしたが、どうせ同い年だから敬語なんて要らないやという結論に達したのが顔に出ていました。やはり田中君はどこか可愛い所があります。
「そんじゃー会長も諦めた所で、改めてサクッと自己紹介しよう!俺は裏書記の加賀孝介。内部特待枠Aクラス。用事あったらいつでも来てー。ついでにメルアド送っといたから!」
「俺は裏庶務の田中…太郎。同じく内部特待枠Aクラス在籍だ。携帯の番号及びアドレスは送信済み。」
もしかして、2人はツッコミ待ちなのですか。私の自己紹介を待って私を注視しているようですが、先に突っ込ませて頂きます。
「私のアドレスはどうやって知ったの?」
「え、内緒。」「スキミング。」
「スキミング!?」
「結構良くやる手だろう?ほら、知り合いに聞きましたとか嘘ついて。」
「や、聞いた事も見た事もないよ!普通に聞いてくれれば教えるのに。」
「面倒じゃん。はい会長の番。」
加賀君はあっさりと話を纏めてしまいました。倫理の問題や技術の問題、言いたい事は多々ありますが、ここは飲み込んでとっとと自己紹介をした方が賢明なようです。
「裏会長を務めさせて頂きます空井遊です。外部特待枠Aクラス、だったかな?良く覚えてません。で、アドレスは後でメール送るね。何も分かっていませんが、御指南宜しくお願いします。」
「会長、堅い!最後は、遊って呼んでね?位の事は言っちゃおうよ!」
「遊ッテヨンデネ!」
「了解です!ゆーうちゃんっ。」
「棒読みじゃないか…いいのか?遊。」
「ご、ご自由にどうぞ。」
加賀君の企みにようやく慣れてきて、田中君が止めてくれると信じて言ってみたらあっさり名前呼びになってしまいました。いいのか?と聞きつつ名前で呼んでますよね。特に問題ないと言えばないのですが。
「あはっ、あはは、やっぱ遊ちゃん良いキャラしてるわ。会長が遊ちゃんで良かったー!俺は孝介って呼んでな。」
「太郎か………。」
チャラ男っぽく話を進める加賀、孝介君に対し、ボソッと名前だけ呟いて沈黙を守る田中君。何やら不穏です。ピリピリしています。つまり自分も名前で呼んで欲しいと思っているのですが、シャイで口から出せないという事ですね。おーけい、ここは私が会長として何とか空気を取り戻しましょう!
「太郎君って呼んでも良いかな?」
「おい遊ちゃんフォロー違う!真逆に突っ込んでるからそれ!」
「……いや、構わない。太郎と呼んでくれ。」
慌てた様子の孝介君はさておき、太郎君の周りの空気がわずかに緩みました。会長としての初仕事です!やり遂げました!思わず頬が緩むと、それを見た2人がやや目をそらしました。光貴といい2人といい、私の笑顔が嫌いなのでしょうか。確かに彼ら程顔が整ってはいませんが、少し凹みます。
「そういえば、遊ちゃんって何で男の制服?最初声聞いてビックリした。」
「顔見て分からないの!?」
「「分からない」」
またハモった!我ながら女子にはありがちな普通の顔だと思っていたのですが、どうやら男くさい顔の部類に入るようです。ショックです。大ショックです。
「つーか表の奴ら見慣れると頭が狂い始めるんだよな。ホントあいつら顔だけは無駄にイイからさー。ごめんね?」
「もういいです。傷つくのでやめて下さい。」
「違う違う。単に遊が華奢な美少年に見えたってだけだ。」
「太郎天然!?てかお前のフォローはフォローじゃなくて追撃だぞ!?」
「え?正直遊を初めて見た時は新しい表かと思ってた。お前を見た時もそう思ったがな。孝介もそうだろう?」
「いやまぁ…俺と恭介は双子だし似てるのは仕方ないだろ。そうじゃなくてね、あのさ、遊ちゃんも知ってると思うけど、生徒会超美形だらけじゃん?でも遊ちゃんは中性的な美人さんだからさ、いけるなーって思ったんだよ。」
「ふん、しどろもどろだな。表は男しかいないがグッェ」
「今お前のフォローもしてたんだけどわかってるかなー?ああん?」
太郎君の奇声が気になって少し俯いていた顔を上げると、孝介が背伸びをして太郎君にアイアンクローを掛けていました。
「大人と子供みたい。」
「遊ちゃん?アンタの為にも戦ってんだけどー?どっちが子供だゴルァ!」
「孝介に決まってんだろ。いい加減離せ。」
「冷たいっ!もう俺ここでやってけねぇ!」
なよっとした仕草で倒れ、よよよと泣く真似をする孝介。うん、こいつに君は必要ないでしょう。それ位身近に感じます。ん?身近…?
「間違ってたらごめん、孝介って首席かなって思ったんだけど…違う?今日新入生からの挨拶読むはずだったんじゃない?」
「んー確かに俺は内部の首席だけどー。挨拶は外部の首席でしょ?なんで?やっぱ俺の溢れ出る知性が」
「今日首席の方と仲良くなれるって感じたんだ、入学式で。」
「俺も一応首席なんだけどスルー?」
「何故そう思ったんだ?」
「お前ら俺の事なんだと思ってんのー空気じゃねーぞー。」
「いえ、入学はギリギリ、入学式に遅刻、そんな間抜けは私1人かと思ってたら首席さんもだって聞いて。」
「もういいようーばかー!」
孝介が拗ねました。打たれ強いチャラ男かと思っていたのですが、案外メンタルが弱かったようです。
「ごめん、ついわざと。」
「わざと!?ついさっきまで純真だった遊ちゃんが汚れたわよお父さん!」
「誰がお父さんだ?」
ここはもしや私の番なのでしょうか?うう、演技は不得手です。しかし気付いたからにはやらなくてはいけません。
「オ父サン、オ母サンハ悪クナイノ!」
「遊ちゃん…!棒読みでも嬉しいわ…!」
「そこの小僧と小娘、小芝居はここまでだ。そろそろ裏の仕事のお時間だぞ。」
何故か流れでしっかと抱き合う私達に、太郎君はすっきりした笑顔で鮮やかな一言を浴びせました。つい、太郎君のように私も空気を悪くする事なく止められたら、と憧れてしまいました。こんな腑抜けな私にしっかり仕事がこなせるのでしょうか…不安です。
順従謙黙
意 味:相手にすなおに従い、控え目であまり自説などを主張しないこと。
いやただの雑談だろう!って言われたらごめんなさいなんか小難しい四字熟語が使いたかったの!と返すしかないタイトルですね(笑)
追記:太郎、という名前が彼自身あまり好きではないのには、古風という事以外にも理由があります。ので、決して「太郎」をけなしている訳ではありません。
理由は追い追いという事でご承知下さいませ。