10年前の奇跡
「——リミテッド……ファイア」
頂点まで達した好奇心に打ち震えながら、眩しい瞳で仮想世界を見つめていた。
AIの飛躍的な進歩により、世界から戦争というものは無くなった。代わりに、AIが人類にもたらしたのは7つのグランドダンジョンと49のアイテム採掘エリア、そしてあらゆる地形を再現した、1区画50平方キロメートルのプレイエリアが343区画。 人類は戦争をやめ、その仮想電脳世界”アンダーワールド”での陣取りゲーム”影絵”で——代理戦争を開始した。
少年の目に映るのは100万の魑魅魍魎。対するこちらは10万の魑魅魍魎。砂漠がメインの第34区画を舞台にアメリカ対日本の10区画を巡る巨大な陣取りゲームが行われようとしていた。
その中で何の変哲もない小鬼のアバターを被る少年はアイテム欄に映る奇怪な武装を見つめて、思わず汚い笑い声が漏れる。
「——刃。本当にやるのか?」
まさに代理戦争が始まろうとしている最中で笑っている少年を指して呆れ顔の女声ぬらりひょんが少年を呼ぶ。
刃はぬらりひょんの呆れ顔を吹き飛ばすほどの満面な笑みで応える。
「もちろん。ゲームは楽しんでこそのゲームだからな!」
これは資源調達のための大事な戦いだぞ……。
そんな言葉を漏らすぬらりひょんだったが、手に入れたアイテムの効果を試したい子供の耳にはまるで入ってこない。
刃にとって、代理戦争などただのゲームでしかなく、ゲームであるならば楽しむべきもの、という認識だった。
「もうすぐ時間だ。せいぜい死なないように楽しむんだな、刃」
「そっちこそ。早々に死ぬんじゃないぞ、南奈!」
……一応、私はお前より年上なんだがな……。
もはや呆れることすら諦めたぬらりひょんがひらひらと手を振って去って行く。
刃は組まれた陣の後方で戦いをまだかとウキウキして待っている。
砂塵荒れる砂漠エリア。隠れる場所などなく、真っ向からぶつかり合う純粋な総力戦。
数的不利な日本だが、その差を埋められるほどに個としての強さに自信を持っているため士気は下がっていない。
定刻。約定を以て日本対アメリカの代理戦争が始まった。
100万と10万の魑魅魍魎が雄叫びを上げながら衝突した。
刃もその高揚に当てられ、吐き出したい好奇心のままに手に入れたばかりのアイテムを召喚する。
「来い——!」
日本対アメリカ。世紀の大勝負を見逃すまいとあらゆるメディアが集い、映像は世界同時中継されていた。
とある屋敷にて、テレビに食い入るように見つめる少女がポツリと脳裏に焼き付いた映像を何度も繰り返し思い出して、感想を絞り出す。
「——すごい」
開始わずか5分。中継映像が真っ黒に染まった。
カメラの故障ではない。一瞬の出来事で映像を見ていた全ての観戦者が開いた口を閉じられなくなった。
魑魅魍魎。アイテム。オブジェクト。その一切合切を余すことなく全て消し去った。
超高度に練り上げられたAIを以てしても処理が追いつかず、テクスチャがバグを起こしたのだ。その結果が真っ黒な映像だった。
少女はプレゼントでもらったうさぎのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて映像を見続けていた。
その後ろでは少女の両親がひっきりなしに電話をしており、やれあのプレイヤーを特定しろだとか。やれこれはどうなっているだとか。幼い少女には理解のできない会話だったが、これだけは確かに理解できた。
——今日。世界の常識はひっくり返ったのだ、と。
強くなろう。強くなりたい。誰よりも強くありたい。そうすればきっと……。
少女は誓う。強くなり、いつの日か必ず——。
——必ず、あの小鬼と友達になるのだ、と。




