101.サーシス王国軍(下)
「そういえば、夜久くんは今日は来てませんの?」
微妙な空気の中、ふと思い出したように千寿が声を上げた。
その問いに蓮水先輩が少し残念そうに答える。
「それが……一応声はかけたんだが、用事があると断られたんだ」
「そうなんですの? 意外ですわね、来ないはずないと思っていましたのに」
千寿がそう思うのも無理はない。
今回こうやって集まった目的は誘拐事件の全貌の共有、および転生騒動の原因についての話し合いだ。夜久先輩も弟を誘拐された被害者の一人、事件の真相を知るため時間の都合をつけてでも絶対に来るとオレだって思っていた。
「学校も辞めたのに本当に忙しいのかねえ。絶対暇だと思うんだけど」
「きっと外せない大事な用事だったんですよ」
不審そうに眉を寄せる矢吹先輩を八千代がまあまあと宥めている。
……真相は分からないが、今回の話し合いよりも優先しなければならない用事があったんだろう、多分。
「あいつからは色々と聞きたいことがあったんだけどねぇ……ま、今回はしょうがないか」
手首を回しながらふーっと息を吐く律。「そろそろ次の説明に入ってもいい?」とオレたちに確認してきたので、オレは小さく頷いた。
「第二軍隊が腕っぷしで戦う戦闘専門部隊なら、第三軍隊は魔法に特化した魔法専門部隊だ」
第三軍隊と書かれたボックスをとんとんと指差す。
「魔法特化か……強そうだな」
「人間の中ではね。魔晶族の魔法に比べれば大したことなかったし、実際全然効いてなかったからすぐに前線からは外されて救護や補給の裏方に回されてたよ。魔法兵器の開発に携わったり重要な役割を担ってたのは間違いないけどね。魔法や呪術の研究機関も兼ねてて、他の隊に比べても学者気質の人が多かったかな」
「へー」
『第三軍隊』の文字の横に『魔法特化部隊、魔法研究機関』とメモをする。学者気質か、今まで聞いてきた部隊の中でも一番インテリが集まってそうだ。
ファンタジーの創作物によくいる黒いローブを着たコテコテの魔法使いが頭の中に浮かび上がる。
「そのトップにいたのが第三軍隊隊長、ダグラス・アスター」
「今世は?」
「香坂先輩」
「……!?」
しかし、頭の中にいた魔法使いの姿は、今世の名前を聞いた瞬間に雲散してしまった。
たっぷりの間を置いた後「学者気質……?」と聞き返すが、律はただ苦笑いでオレを見ているだけだった。
「……一応聞くんだが、ダグラス・アスターってのは魔法(物理)の使い手だったりしたか?」
「言いたいことは分かるよ。でも残念、もやしみたいな男だった」
「もやし」
今世と前世の姿は目や髪の色以外は基本的に同じらしいが、香坂先輩のヒョロガリな姿が全く想像出来ない。
目を瞬かせ「もやし……」と繰り返すオレに、律が補足を入れてくれた。
「ちなみにだけど、第三軍隊だけは例外で単なる戦闘力だけじゃ上の地位には就けないんだ。魔法の扱いプラス魔法の知識や研究成果が必要なの」
「紫藤といい香坂先輩といいなんでこうも性質が真反対になってんだ」
遠い目をするオレに、律も「本当それ」とうんうん頷いている。同意しているがコイツの前世もやっぱり今とは全然違うんだろうな……。
すると、オレたちの会話を聞いていた矢吹先輩が「しっつもーん」と気の抜けた声と共に手を挙げた。
「そのコーサカ先輩って前に綾斗んちで糸目女に電話かけてきた人?」
「ええ、そうです……あっ!」
「ん?」
その問いに千寿が頷いた――瞬間、何かを思い出したかのように声を上げる。不思議そうに首を傾げる矢吹先輩に、千寿は両手を合わせてにっこりと笑いかけた。
「言いそびれるところでしたわ、香坂先輩が貴方と会ってみたいんですって」
「あたしにぃ?」
香坂先輩が矢吹先輩と話をしたがってる? 一体どうなってんだ……?
当人も訳が分からないのかぽかんと口を開けている。
「どういうこと」
「ほら、あの時わたくしたちに頼みがあると言っていたでしょう? アイリーンの転生者と直接話したいから取り次いで欲しいってことだったみたいですの」
あの時がいつかは知らないが、千寿の説明を聞いた律は今までとは打って変わって警戒したように眉間に皺を寄せている。
そんな律を見て矢吹先輩も何か感じ取ったのか「うーん」と考え込むような仕草を見せた。
「話がしたいってことは敵意はないんだよね? どうしよっかなー……」
「会わなくていいです」
だがすぐさま割り込んだ鋭い声に先輩ははっと顔を上げる。
オレも内心びっくりして思わず目線を移動させると、声の主――律が半ば睨みつけるように矢吹先輩を見ていた。その顔を見た先輩はぎょっと顔を強張らせる。
「で、でもさー、その人前世は魔法や呪術の研究者でもあったんでしょ? あたしたちが知らないことも色々聞けそうじゃん」
「絶対に駄目です。あいつは信用出来ない」
矢吹先輩のその至極真っ当な反論も、そのたった二言によってピシャリと跳ね除けられてしまった。
その姿に違和感を覚える。
……妙だな。今の香坂先輩がオレの知る香坂先輩ではない可能性もあるが、そこまでハッキリ拒絶するほど信用ない人じゃないと思うんだが。
香坂先輩の前世が相当ヤベーヤツだったとか……? イヤ、今世での性質は真反対になっているとたった今話したばかりだし……。
しかも今集まっているのは今回の同時多発転生について話し合うためだ。香坂先輩が魔法といった前世の事象に詳しくて敵意も無いのであれば、いつもの律なら参考人としてすぐに呼び出しそうなのに。
相手の強硬な態度に矢吹先輩も戸惑っているようだ。
張りつめた空気の中、千寿が恐る恐るといったように口を開いた。
「樫山。ですが、断ればきっとあらゆる手を使って接触しようとしますわよ。いいんですの?」
「……ちっ、なんでよりにもよってセンパイに興味を示すんだ」
舌打ちをし、苦々しくそう吐き捨てる。何か言いたげに見つめている千寿に、
「先輩の対処については後で考える。今はこっちに集中するよ」
そう言うと律は再び目線を組織図に戻した。
うーん、そこまで頑なに会わせたくない理由がサッパリなんだが、一体どうしたってんだ……?
そんなオレの疑惑の視線に気がついたのか、律は誤魔化すようにゴホンとわざとらしく咳をする。何と言えばいいのか……コイツにしては隠すのが下手というかあからさま過ぎるというか。
「悪いな、続けてくれ」
……まあ、今は流されておくとするか。
コイツにも触れられたくないことくらいあるだろう。それに今は何も分からないオレのためにわざわざ時間取って話してくれてるんだし。
追及されなかったことに律は少しだけホッとしたように息を吐いて、サーシス王国軍組織図の最後のボックスを指差した。
「最後、特務軍隊」
「第四軍隊じゃねーんだな」
「ここが一番特殊で、戦争が始まって急遽出来たんだ。端的に言えば宗教団体の援軍だよ」
「宗教団体?」
そういや以前蓮水先輩と一緒に見た光景でルミベルナがそれっぽいことを言ってたような。名前は確か――
「ルーチェ教。光の神ルーチェを信仰する前世の世界じゃ最も信仰の厚かった宗教だよ」
ルーチェ教。
それだ。確かあの時ルミベルナとルカが話していたのは――
――次の戦い、ニンゲンどもはワタシたちがもう何も出来ないと踏んでいるのか……国の重鎮も呼んで盛大に鑑賞会を開くらしいわ。
――へえ……随分舐め腐ったことをしてくれるね。
――はらわたが煮えくり返りそうだけれど、好機でもある。鑑賞会に来る奴らは皆、サーシス国でも重要人物揃い。国王はもちろん、ルーチェ教会の聖女とやらもいるわ。
あの時はサーシス王国だけの宗教だと思っていたが、世界的に信仰されているものだったのか。
「なんで宗教団体が援軍なんて寄こしたんだ?」
まず宗教団体が独自の軍事力を持ってるってどうなんだ。きな臭過ぎんだろ。イヤ、単にオレがそういう漫画を読み過ぎてるだけか?
「聖女サマのワガママだよ」
「ハイ?」
「『滅亡寸前の国家が最後の力を振り絞って立ち上がろうとしているのに、ただ見ているだけなんて出来なーい!』ってさ」
「何だそれ」
種族は違えど戦争だぞ? 世界的な宗教団体がそんな理由で一国に軍事力を貸すなんて許されるのか? それが出来るほどその聖女の権力ってのは強大なのか?
ツッコみどころ満載な回答に一周回って真顔になったオレに、律はニヤリと笑う。
「……ってのは表向きの理由。真の目的はルーチェ教の影響力拡大――もっと言えばサーシス王国の乗っ取りだろうね」
曰く律の前世であるサーシス王は、自国を滅ぼすため国内外に対しかなり好き勝手やっていたらしい。他国に無許可で出入りし軍事訓練を行い仕舞いには資源も奪っていく、抗議する他国には高圧的に出る……等々徹底的に嫌われるように立ち回ったようで、そのお陰で世界的にも危険視される国になっていった。それで制裁を受けても目的は自国を滅ぼすことなのでむしろラッキー。……改めて聞くと、マジで迷惑な国だな。
そんな行いを続けた結果、サーシス王国は急速に衰退していったようだ。
だがストーカー野郎の前世が魔晶族からエネルギーを取り出す技術を開発。その技術を見たサーシス王は自国を再生させる一大プロジェクトとして、真の目的は自国に止めを刺すため、魔晶族との戦争を開始した。
「戦争が始まってすぐかな、ルーチェ教団が援軍の申し入れをしてきたんだ。すぐに分かったよ、滅亡寸前のサーシスに恩を売ることで教団の影響力を強めようとしてるなって。過去にもそうやって宗教国家にした例はあったし」
「マジかよ、怖えー……」
「後は好き勝手するサーシスを抑える目的もあったんだろうけど、それに聖女サマのエゴがまんまと利用された感じだね……でも、聖女サマ本人が周りの反対を押し退けて軍の先頭に立った時はさすがに驚いたよ」
そう言って組織図に書かれてあった聖女の名前をとんとんと叩く。
どうやらルーチェ教の聖女――『アリーチェ・エレナ・ケルニア』のサーシス王国を救いたいという思いは本物だったらしい。自ら軍の旗印になるくらいには。
肝が据わった女傑だと言えばいいのか、自分の命の価値を分かっていない愚者と言えばいいのか……。
「じゃあ隊長はその聖女だったんだな」
「そうとも言えるしそうでないとも言えるね。聖女サマは士気を上げるためのシンボルみたいなもので、実質的に軍を指揮していたのは聖女サマの側近兼護衛役の男だった」
「ああ、だからこの軍隊にだけ名前が二つ書いてあるのか」
どうやら聖女の名前の下に書かれてる『レオナード・フェスマン』ってのがその側近兼護衛のようだ。護衛ってことは多分戦争中はずっと聖女の傍にいたんだよな……教団の思惑があったとはいえ聖女のワガママで戦争に参加させられて軍の先頭に一緒に立たされるなんて苦労して――
……ん?
ちょっと待て。二人で行動……?
それに該当する男女を、オレは既にこの目で見ていなかったか?
いつだったか……そうだ、つい最近見た妙な夢だ。
ちらりとしか見れなかったが、男女のペアがアイリーンと戦っていたはずだ。見覚えがある顔立ちをしていたから記憶に残ってたんだ。
「な、なあ」
努めて何気なく聞こうと口を開くが、出た声はわずかに震えてしまっていた。
「こんなこと聞くのもなんだが……この聖女と護衛役、今世で兄妹になってたりしない……?」
「まあ、よく分かりましたわね!」
あー、やっぱりそうだったか。マジで何なんだよあの夢……。
驚きに声を上げたのは千寿だけではなかった。
「兄妹……!?」
「兄妹だって!?」
「エッ、あの二人兄妹になってんの!?」
オレ以外の六天高校組も目を丸くして身を乗り出している。
「ええ、フェスマン隊長が兄で聖女様が妹。兄は鬼崎七世、妹は七生といいますの」
興味津々な三人に千寿が続けて説明する。前世が主従関係で今世は兄妹か……すごい縁だな。
すると、矢吹先輩の目つきがさっきとは打って変わって鋭いものに変わった。
「ねえ、今更なんだけど鬼崎七生って女はどんなやつなの?」
……随分と鬼崎に対して当たりが強くねーか?
親の仇を見ているかのような形相に、千寿除く全員の顔が引きつる。
「わたくしたちと同級生ですわ。性格も明るくて愛想も良くて……学園のアイドル的存在と言っても過言ではなかったですわね。誰にでも分け隔てなく接するから交流も広かったですけれど……でも、一番仲が良かったのは紫藤さんですわ」
八千代には負けるが鬼崎もかなり整った顔立ちで、加えて愛嬌もあって性格も明るかったから同性異性問わず人気があったし滅茶苦茶モテていた。
そんな鬼崎が学園内でも嫌われている部類に入る紫藤と大の仲良しだったのは、明迅の七不思議の一つである。
千寿の説明を聞いた矢吹先輩の眉間に皺が一つ増えた。
「アイドルぅ? ケッ、まーあの美貌じゃチヤホヤされるよねえ」
スゲー嫌な女になってるんだが……何があったんだ?
困惑するオレに、蓮水先輩が一連の出来事を話してくれた。
どうやら、律にいくつも呪いをかけていたのは鬼崎だったらしい。
まず呪いって、相手に恨みを持っていないとしないものだ。それをいくつもかけていたってことは、相当な怨念が溜まっていたと考えられる。
鬼崎自身とそこまで交流はなかったが、いつも誰かに囲まれて笑顔が絶えないヤツだった。そんなヤツが呪いに手を出すとは……。
「オレの知ってる鬼崎からは考えられないっすね……」
動機として考えられるのは律の前世であるサーシス王への恨み。
自ら前線に立ってまでどうにかしたかったサーシス王国の惨状が、国王自身が敢えてそうしていたのだと分かれば怒ってもおかしくはない。
それでも反動の大きい呪いを連発するのは思い切ったなと思うが。
ともかく矢吹先輩がここまで不機嫌になっている理由は分かった。
「三縁は鬼崎七生とは仲が良かったのか?」
オレの呟きを聞いた蓮水先輩が訊ねてくる。
「イヤ、オレもそこまで……妹よりは兄貴の方と関わることが多かったかな」
「お兄さんの方と?」
「ああ、同じ委員会だったんだ」
八千代も興味深そうに目を瞬かせ「どんな人だったの?」と続けてきたので、薄れかけてきている当時の記憶を必死に呼び起こしつつ口を開いた。
「何つーかスゲー気難しい人で……周りからも煙たがられてたな。相手を怒らせる度に妹が説教と謝罪に入って……その繰り返しだった」
「でもあんたら結構一緒にいなかった?」
律が訝し気な視線を向けてくる。
「オレだって極力関わりたくなかったけど、いつの間にか委員会のヤツらに先輩の相手役にされてたんだよ……」
当時はマジで大変だった。
明迅学園では生徒全員が委員会に入ることを義務付けられている。出来るだけ楽な委員会に入りたいと選んだ保健委員会だったのに、そこには三年の先輩たちですら手を焼く問題児がいたのだから。
仕事が少ないといえど、定期的な会合はあるし体育祭等のイベントの時期は忙しい。その都度高圧的な態度で場の空気を凍り付かせる鬼崎先輩のフォローを必死でしているうちに、気がつけば鬼崎先輩のサポートはオレの役割になっていた。
他の委員会の生徒と関わる時は先輩に相手の機嫌を悪くさせる態度をさせないよう動いたし、普段の会話も胃をキリキリとさせながら必死でおだてた。
将来サラリーマンになったらすることを先取りでやっている気分だった。
話しながら遠い目になっていたのか、ふと二人を見るとすごく同情のこもった眼差しでオレを見つめていた。
「明迅にいた時、たまにすごく疲れた顔で帰って来ることあったよね……大変だったんだね」
「ね、根は悪い人じゃなかったと思うぞ。妹のことは大事にしてたし、オレも一回だけメシ奢ってもらったし」
悪口しか言ってない気がするのでフォローも兼ねてそう返す。……何だかフォロー癖が付いてしまっている気もするが、本心だ。
いつも気難しく周りに敵を作ってばっかりだった鬼崎先輩も、妹だけには優しかった。同じく一つ年下の妹がいる身としてはその部分は快く思っていたし、話題が見つからない時は八千代のことを話すこともあった。
蓮水先輩は「妹はともかく飯に釣られるのはさすがに単純過ぎないか……?」と呆れたように笑っていた。
◆
「さて、後は糸杉千景の前世が所属していた技術局なんかもあるけど今日はこのくらいにしておこうかな」
「そうしてくれると助かる。残りはまた別の機会に教えてくれ」
「了解。資料にもまとめてるから軽く目を通しといて」
「ありがとな」
わざわざ説明してくれた律に礼を言う。前世名は帰って復習しとかないとな……正直まだ覚えきれていない。資料はこれからの話し合いでも使いそうだし、まだしまわなくてもいいだろう。
「じゃあ早速――」
八千代がそう口を開いた時、会議室内に着信音が響き渡った。
「あっいけない、マナーモードにするのを忘れていましたわ!」
どうやら千寿のスマホが鳴っていたようで、図書館内で鳴らしてしまったからか慌ててスクールバックからスマホを取り出している。
だがスマホを取り出しその画面を見た瞬間――はっと息を呑んだ。
「誰から?」
その様子を見た律が訊ねると、千寿はスマホの画面をずいっと律に向かって突き出した。
「香坂先輩からですわ」
「無視して」
即答だった。
「ですが」
「無視して」
「……分かりましたわ」
有無を言わせない顔をした律に押される形で千寿は渋々鳴り続けるスマホを机の上に置く。
数コール後、スマホは音を鳴らすのを止めた。少しの間を置いて画面に『留守』と書かれたタブが現れる。
「あっ、留守番電話が入りましたわ!」
それを見てぱっと顔を輝かせる千寿だったが、すぐに様子を窺うように律を見て「……聞きますわよ?」と留守の文字に指を伸ばす。それを律が再び制止した。
「待って、一応スピーカーモードにして」
「そうですわね」
ちょっと警戒し過ぎじゃないかとは思うが、念には念を入れてってところだろう。
千寿も同意して設定を変更し、留守電を開く。
スマホから流れてきたのは女っぽく作った甲高い声だった。
『アタシ香坂さん。今市立図書館の入り口にいるの』
「……」
ブツリと切れた留守電の画面を全員無言で見つめる。
何だこの一昔前の都市伝説のような電話は。
イヤ、それよりもまずは――
「侑里、どうなんだ……?」
引きつった顔で蓮水先輩が矢吹先輩に確認を取る。
結果など分かり切ってはいたが、矢吹先輩はすぐに硬い面持ちでこくりと頷いた。
「……いるよ、いつの間にか入り口にすっごく派手な髪した大男が」