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中学~大学までの健太の日記  作者: 蔓草登上
13/13

寿樹とおぼろ月夜 後編

挿絵(By みてみん)


 如月(きさらぎじいに頼まれたモノを、赤城家あかぎけへ届ける寿樹じゅき護衛役ごえいやくとして 僕は付いて行っている。

今日も 雨は降っていないものの 春霞はるかすみというのだろうか いつもなら見える遠くの山のカタチすらすっかり もやっていて見えない。


 朝早く かすみもやの出ている山中さんちゅうを 白衣びゃくえほこらへ向かう寿樹。

僕は 朝のおつとめをする寿樹の姿を 目で追う事しか 出来なかった。

 朝が 早すぎて 二度寝をしてしまった。


 如月じいに 起こされて、朝食の用意を手伝う。

みんな 朝の7時には 朝食で顔をそろえる事になっている。


 僕の焼いた 目玉焼きで あとは 漬物やら釘煮くぎに海苔のりでご飯を頂く、味噌汁も無いと味気ない。真正家しんせけの人たちは いつも精進料理しょうじんりょうりを食べているのだと勝手に思っていたが これは 精進料理でもなんでもないと後から聞いてわかった。


 朝食時には 寿樹はすでに 私服に着替えていた。

朝食後すぐにでも 出発できそうだったので、健太は洗い物を済ませると チラッと寿樹の様子を見た。


 如月きさらぎじいから話を聞きながら 長い髪を整えている。

その仕草しぐさは まるで女の子のように、可愛らしく見えた。


 如月じいがこっちへ眼をやると 

「あとは やりますから 健太さん。寿樹さまと一緒にお供をお願いします。」

「道とか 場所とか知らなくても いいんですか?」

「はい、寿樹様に付いてもらうだけでいいんです。」

まるで、道を覚えに行くようだった。



 赤城家までは ここから電車で4時間かかると言われた。

だから、朝早くから出るらしい。

 それにしても 4時間とは ここから歩いて電車に乗り継いでまた歩くという手段の時間だ。

車で行ったら2時間で着くらしい。


 僕に車の免許はあったけれども 車は持っていなかった。

寿樹は 運転しているのを見たことがないので 免許はないだろう。

ということは、朝から歩きで行けという事なのだ。


 歩きでよかったと思える位 桜を見て歩けた。

普段通っている道も 桜があったんだなと 気付かされた。


「僕が車を買ったら 寿樹を乗せてあげるね。」

電車に乗って 寿樹に話した事が のちの運転手役にハマるとは その頃思ってもいなかった話である。


 車両の窓から ほのかなピンク色の桜をあちこちで 見ることが出来て感動した。

寿樹と電車に乗るなんて 久々だな。同じ電車の車両の椅子に座っていることに 小さな喜びを感じた。

 如月に渡された 風呂敷包みを抱えて座る寿樹だが、僕が持とうか?と伺ってもこれは自分の責任だから 離さないと断られた。

軽そうにも見える包みは一体何が入っているのだろう。

 


 寿樹は迷うことなく 赤城家の門をくぐった。

のどかな畑通はたけみちから やはり今日は 遠くの山の尾根おねすら見えない 春霞はるかすみだ。

 僕はくしゃみをする。


赤城家あかぎけは 立派なお屋敷だった。

寿樹のお父さんの従兄弟いとこに当たる家らしく、そこでも 寿樹と同い年位の男兄弟がいるらしい。

出迎えてくれたのは 奥さんで人当たりのいい人だった。


 お父さんは現役議員さんで、長男の息子も議員を目指しているらしい。次男は大学へ行って頭がいいらしい。後の官僚になっているとは驚きものだった。頭のいいレベルが違った。


 僕は 恭司郎きょうしろうという長男と話をした。

「遠いところから スマナイな、昼食を食べながら ゆっくりしていくといい。」

その時は悪い人には思えなかった。

寿樹にも僕にも 一番の天敵になる人だった。


 恭司郎は寿樹から風呂敷包みを受け取るが、寿樹はどこか おびえる感じがした。

それもそのはず、恭司郎の肉体は ボディビルダーのごとく鍛えられていて、出で立ちも凄いが 声も太くて見る人を圧巻あっかんさせた。

 寿樹は用が済むと 直ぐに身を返したが 恭司郎がすぐに腕を掴んで 寿樹の耳元で何やら 話をした。

その時、健太は直感で解った。

恭司郎は、寿樹を女の子だとわかってる 人物だって。


 健太が護衛の体勢に入る。

その様子を見てか 笑った恭司郎。

やっぱり、この人好きになれないかも。




 和風の屋敷には 欄間らんまの上に 歴代の写真がずらっと並んでいた。

そこには 先ほど見た 恭司郎の写真があった、その隣にもっと若い写真がある これは 弟だろうか?

見ていると 後ろから太い声がして 黒い大きな影が覆いかぶさった。

「一番若いのが 弟の清一郎。ここには 功績こうせきを残す者しか 写真にはならない。奴は 官僚かんりょうになる、そして 俺は 議員になる。」

まだ、功績を残していないのに 凄い自信家じしんかなんだと思った。


 昼の時間になるまで、恭司郎に庭の案内をしてもらった。


 大きな岩があり、その上に奇麗にカットされたツツジが生えている。

先に進むと 池にオレンジ色の鯉やら泳いでいて、その先に目をやると 音を立てて流れ落ちる 小さな滝までもあった。

滝の上に 大きな桜の木が生えていて 池に花弁かべんを散らしては 鯉がパクパクと水面にやって来る。

寿樹のお屋敷と比べると 手入れの行き届いた庭と 色鮮いろあざやかな色彩しきさいに お金の掛け方が違うと思った。


恭司郎は 何やら重く話し始めた。


「ある神聖しんせい女子おなご面白半分おもしろはんぶんで抱いたら 罰が当たってしまってな、それ以来 議員選挙に落ちてしまって 父親も変な噂を立てられてしまい 低迷を迎えている。」


その神聖なおなごって……。

健太の集中するところが 一点に絞られた。


「神から見離されたと 神籬ひもろぎを置きなさいと禰宜ねぎに言われてな……。」

寿樹が手渡した 包みの中身は 簡易性かんいせい神籬ひもろぎで、木の箱の中に さかきが入れられていた。

「買わされたぞ、この箱を。」

笑って見せる。禰宜ねぎと言っていたのは もしかして如月じいの事だろうか?


 庭の隅に 囲いをしたほこらがあって そこに箱の神籬ひもろぎを置く。

身体の大きな恭司郎は 身体を小さく丸めて 手を合わせた。


「こうも 低迷したら 後は 神頼みしかないだろう?」

一体いくらで その神籬ひもろぎを購入したのだろう?

寿樹は その様子を眺めていた。


 本来は、この箱を配置したら 祭祀さいしを詠み 奏上そうじょうする、またはおはらいいするといった形になるのだが 寿樹は 普段着であったから そもそも詠むつもりも何もないのだ。

それどころか、恭司郎の箱をまつる様子をじっと静かに監視しているようだった。


 恭司郎は 自ら祠に塩を盛り 持ってきたお米とお神酒みきを供えた。

気持ち若干 寿樹から 「よしっ」という合図をもらうかのように 顔色を伺うと 恭司郎は立ち上がった。

寿樹は 神籬ひもろぎに向かい 筆ペンを出すと 箱の扉に なにやら文字を書き込んで 一礼をした。

健太が見た中で 一番しょぼいおはらいだった。


 それから 僕たちは 昼食を 一緒に囲んだ。休みであった 清一郎ともここで顔を合わせた。僕たちより年下で、恭司郎とは正反対の大人しい人であった。

 寿樹は 何があったかは話してくれない。 

別に いいんだけど 本日の一番気になる1点であることは 間違いないが、 聞けないこと 聞いちゃいけない事ってあるよね。

健太は 自分の中で 封じた。



 電車で帰ると、真正家の屋敷に着くころには すっかり 日が暮れてしまった。

如月じいは 玄関で出迎えてくれた。

「どうでした?」

寿樹は 目で合図したようで、その場を去って行った。


「健太さん どうでした?桜が咲いていたでしょう。」

道中、桜が咲いていた事を思い出した。

「色んな所で 桜が見れました。」

「今が桜の見どころですからね。」 

それにしても、あの恭司郎に木箱を売りつけるなんて、如月じいも意外と凄いひとだなぁ。

あ、禰宜ねぎって呼ばれてたっけ?

「如月さん 禰宜ってなんですか?」

如月じいが一瞬止まった。


「あぁ、禰宜はね。職級でして、宮司ぐうじ権宮司ごんぐうじ禰宜ねぎ権禰宜ごんねぎ出仕しゅっしという順なんですよ。」

「へー、やっぱり如月じいは偉いんだ。」

「いえいえ、昔は禰宜とは祈祷する人の事で、語源がねぎらうから来まして、神の心を和ませ加護を願うという意味なんですよ。」

「なんか、一気に歴史をかいつまんだ気がしました。神社には 必要な人だったんですね。」

「そう覚えといてください。」

のちに、 禰宜も宮司と変わらない教養を持つことがわかるが、如月じいのやっていることを見ていると 寿樹より物知りな事は確かだった。そして、何よりも腰が低い。能あるたかは爪をかくすとはこのことだと思った。



 また、同じ縁側えんがわで寿樹が おぼろ月を眺めていた。

「道中、桜が見れたね。」

近寄って 話しかけると 寿樹が微笑んだ。

え?微笑む?

寿樹が微笑むことなんて あるだろうか?

それとも 今回のことで なにか問題が解決したというのだろうか?

僕は何もしないで、ただついて行っただけなのに。


きっと 寿樹の中で 何か解決したにちがいない。

それは 詳細は聞かなくて いいんだ 寿樹が 笑顔になれることが一番だから。


「満月も一緒に見れた。」

「え?」

桜と満月が一緒に見れたところなんて あっただろうか?

そう考えていると 寿樹は 僕の顔を指指した。


「あ、僕の顔のこと?」

寿樹が笑った。

「このー!」

寿樹が近くなった気がした。



 君が笑顔でいられるなら、僕は月のように いつまでも 見守り続けたい。




 君の満月でありたい……。





 

 









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