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世界を救いたいなら、騎士団長を惚れさせろ!?  作者: 緋原 悠
第三章 レティシアの物語(2)
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41.テネブライとの心理戦-2

 周りが暗闇に包まれ、テネブライが姿を現した。


「無力なレティシア。何回同じ場面を繰り返しても、結局あなたには母親を救うことはできないのね」


 テネブライは笑ってはいるが、少しいらいらしているようにも見えた。

 私は涙を流したままの目でテネブライを見る。


「テネブライ……、気づかせてくれてありがとう」

「やめて、そんな感情、私に抱かないでよ」


 テネブライは首を横に振りながら、真っ青な顔で言った。私がテネブライに歩み寄ろうとすると、テネブライは叫びながら後ずさる。


「私はあなたに絶望してほしくて、さっきの場面を繰り返し見せたのよ。なのに、あなたの心の闇はちっとも大きくならない。それどころか、私に感謝の気持ちを抱くなんて!」


「あの時もう少し違う振る舞いをしていたら……って、当時を思い出すたび何度も自分を責めてきたわ。もう一度あの時に戻れたら、お母様を救えるはずだって、ずっと思ってた」


 誘拐された場面を何度も繰り返したためか、まぶたを閉じればお母様が私を思って泣く姿が今でも見える気がした。「レティシア逃げて」と叫ぶお母様の声も耳に残っている。


「でも違った。最悪な結果だと思っていた現実が、実はお母様とお兄様が私のために動いてくれたからこそ起こせた奇跡だった。そのことに気づかせてくれたテネブライには、感謝しても感謝しきれないわ。

 今までは誘拐された時のことを思い返すと自分への後ろめたさしかなかったけれど、今は自分の不甲斐なさを感じると同時に、私を支えてくれてた周りの人への感謝の気持ちで心が温かくなるの。

 お母様を救うことはできなかったけど、私だけは助かってほしいっていう、お母様のせめてもの願いだけは叶えることができてよかった」


 テネブライはよろめいて、その場に座り込んだ。震えながら、青い顔で私のことを見上げている。

 テネブライの顔がどことなく若返っているように感じられた。目の前の彼女は、私と同い年くらいに見える。


「あんたの母親、あんたさえ無事ならそれでいいって言ってはいたけど、それが彼女の本心だったと思う? あれはあんたを傷つけないために言った、ただの嘘よ。あんな嘘を信じられるなんて、お気楽でいいわね。本当は自分も助かりたかったに決まっているじゃない」


 テネブライの後ろから、お母様に似た女性と、お父様に似た男性が現れた。


「なんであなたの代わりに私が死ななきゃいけなかったのよ。あなたなんて、産まなければよかった」

 お母様に似た女性が言った。続いて、お父様に似た男性も言う。

「紫色の瞳の子どもが生まれてきたばかりに、大事な妻を失う羽目になった。お前はわが家に不幸を運んできた」


 目の前の二人の姿に、私は懐かしさを感じた。彼らは、幼い頃の私の夢によく出てきた。当時の私は、これがお母様とお父様の本心なのだと信じ、一人で勝手におびえていた。

 二人を見つめたまま何も喋らないでいると、テネブライはしびれを切らしたかのように怒りながら叫んだ。


「だからなんで、あんたの中の闇は大きくならないのよ。あんたの中の負の感情、私にはしっかり見えてるのよ?」


 私はお母様とお父様の姿に似た二人の手をとり、微笑んだ。二人はそれ以上何も喋ることなく、静かに消えていった。

 消えて当然だ。なぜなら、彼らはただの幻想にすぎないのだから。


「私は実際に目にしたものだけを信じるの。本心ではどう思っているかなんて、実際にその人にならないかぎり正しくは分からないわ。考えようとしたって、不安な気持ちが大きければ大きいほど、悪い方にしか考えられなくなってしまう。

 ――だから私は、私に逃げろと言ってくれたお母様の命がけの言葉を、陽気なお父様が泣きながら私を励ましてくれた言葉を信じるの。自分の弱い心が勝手に作り出した幻想ではなくて、当の本人から聞いた生きた言葉を信じるの」


 気づくと、テネブライは少女の姿になっていた。まばたきをして確認したが、見間違いではなさそうだ。


「あなた、テネブライよね?」

と驚いて聞くと、目の前の少女は

「そうよ。具現化した邪気の塊が少なくなると、大人の姿を保っていられなくなるの」

と答えた。つい先ほどまでは苦しそうな顔をしていたのに、今はすっきりとした表情をしている。


 幼くなったテネブライは、可愛い声で私に聞いてきた。


「人間はみんな、負の感情を嫌うの。頑張って打ち消そうとしたり、見ないふりをしたりするのよ。だけどあんたは、心の奥に大事にそうに負の感情を抱えてる。過去に感じた自分の無力感や後悔の思いを、消し去りたいとは思わないの?」


「私がお母様のことを大好きなかぎり、どんなにあがいたところで、お母様を救うことができなかった自分に対する、無力感や後悔の思いを消すことはできないわよ」


 私は当時の自分を思い出しながら話す。


「幼い頃は何度も自分の感情に負けそうになった。誘拐に遭った時の記憶を消し去ってしまいたいと思ったこともある。だけど、忘れられなかった。

 忘れたい、忘れたい、と繰り返し心の中で唱えても忘れられない。過去を思い出して苦しみ、その過去を忘れられなくてまた苦しんだ。そしてある時気づいたの」


 暗闇の中に一筋の光が差し込んできた。光の筋は、テネブライと私の間を分断するかのように輝いている。

 光を見ることはせず、私はテネブライの顔を見たまま話し続ける。


「嫌な記憶だけ忘れることなんてできないって。お母様を救うことができなくて苦しいのは、私がお母様を愛しているから。

 悲しんだり、不安になったり、後悔したり、時には自分を責めたりすることもあるけど、負の感情の根本は――愛なのよ。

 お母様を愛する気持ちは、少したりとも失いたくないから――私はこの先もずっと後悔の思いを抱えて生きていく。後悔の思いをずっと抱えて生きていくのは楽ではないけど、私はそれでいいの」


 テネブライは曇りのない笑顔を浮かべながら私の話を聞いてくれていた。


「目をそらさずに自分の負の感情をずっと見続けてきたあんただから、そう考えることができるようになったんでしょうね。闇の先にもずっと闇が続くとはかぎらない。あなたは自力の力で闇を抜けたのよ」


 暗闇に差し込んでいた一筋の光が、徐々に太く大きくなっていく。光の量が増えていくのとともに、次第にユベールやお兄様の声がどこからか聞こえてくるようになってきた。


「邪気の塊たちが、全部倒されてしまったみたい。当分お別れよ、レティシア。また会いましょう」


 あどけない笑顔でテネブライが手を振った。周りがどんどん明るくなっていく。真っ暗で周りが何も見えなかった状況とは一転し、今度は逆にまぶしくて周りが見えなかった。まぶしさに耐えられず、私は目をつむった。

昨日評価してくださった方、ありがとうございました……!

私にとって初めての評価ポイントで、喜びで胸が震えました(;;)


あと4話で完結です。

昨日の夜、活動報告も更新しましたので、よろしければご覧ください(^^)

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