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「お、幸一。こんなところで会うなんて。いつもより出るの遅かったのか?」
学校に向かう途中でいつもより早く武蔵と合う。
「おはよう、武蔵。蓮二は?・・・って聞くまでもないか」
「おう、いつも通り」
蓮二はあの入学式以来、美鈴さんに生活のほとんどを管理されている。
まあ、ある程度は融通を聞かせてくれるみたいだけど、外食する際は前日に予め行っておき、何を誰と食べたかの写真を送らなくていけないらしい。
放課後は部活や委員会で忙しいので自由にしていいらしいが、実はそれがAランク傭兵退魔師である蓮二に約束をほおっておかれたくないから、事前に忙しくして寂しさを紛らわせるためにしていることらしい。その代わりお昼はいつも一緒のようだし、に中の時間さえあいていれば蓮二は美鈴の手伝いをする。
なんだかんだ言ってラブラブなのだ。
「なんだかんだ言って仲いいもんな・・・。はぁ」
「どうしたんだ、ため息ついて」
「いや、僕は思い人である彼女たちを世界の為に自らの鎖にしばりつけていることに・・・罪悪感がな」
「そうか?傍から長い間見てきた俺から言うと・・・うーん。まあいっか」
「なんだよ、気になるじゃん」
「いや、別にその『巫女』だっけ?それは同意の上でなり立っているならいいんじゃないかってな。それとなんで、最初から7人いないのかなと思ってな」
「同意は確かに取れてるが・・・。それと、最初から7人いない理由?それは素質ある者が見つからない・・・」
そこまで言って僕は昨夜のオルトラの言葉を思い出した。
―――「大罪、美徳なんてものは似たものなら誰でも手に入る」
巫女は、魔王に自らの力が呼応して美徳を取得した存在。
僕を三罪を封印した3人は美徳を所得した際にスキルを一つ失っていた。
それはどれも、僕と出会った後で取得したスキルであり多くの、それもベテランの退魔師なら持っているであろうスキルばかりであった。
もしそれが巫女となる条件だとしたら?
「まあ、俺も自分の生殺与奪権を握られるなら気心の知れた奴がいいけど」
「そうか?相手に罪悪感を抱かせるから俺としてはいやなだが・・・」
「そうか、そう言う考え方も出来るのか。・・・まあ、死なないことに越したことは無いってことだな」
「はぁ、なんだそれは。まあ、それはそうだが」
そんなおかしな話をしているうちに俺たちは学校に着いた。
「あ、二人とも。おはよう」
「おはよう、・・・蓮二?ああ、そういう。わかった、もういいよ。美鈴さんはもう?」
「ああ、もう自分の教室に戻ったよ」
「なんだ、蓮二。その生気の抜けたような老けた顔は?」
そう武蔵の言うとおり、蓮二の顔は老人のようにしわしわに干からびて、倒れていた。
まるでサキュバスに生気を吸われたかのように。
「ほっておいてくれ。・・・もう、同棲なんてするんじゃなかった」
「初めてでもないんだろ?」
「それが、引っ越しの片付けで先週は一回もしなかっただけど、昨日僕がぼろぼろで帰ったら、理性が決壊した美鈴に襲われた。まあ、紋章が刻まれているからできることは無いけど、徹夜で繋がり続けてなんとか学校に来たところ。もしこれなかった今日はこのあと一日中繋がっていたかもしれない・・・やばい、美鈴は僕を殺したいの?」
「お、おう。ほどほどにな」
「睡眠と栄養不足か。・・・カロリーメイトを買ってきてやる」
「おお、ありがとう幸一」
「じゃあ、俺はジュースおごってやるよ。ブドウでいいよな?」
「ああ、頼む」
※※※
「あ、高野君。坂本君」
「美鈴さん・・・おはようございます。購買に買い物ですか?」
「宮本、蓮二が枯れかけてぞ。加減を考えろ」
「・・・!坂本君、高野君。そう言うなら、彼を巻き込まないでください。わたしだって」
彼女はそう言って購買のおばちゃんから商品を入れた袋を持って帰って行った。
確かに今回の原因としては俺たちの巻き込まれたオルトラ襲撃のせいだ。
あきらかにオルトラは俺を狙っていたし。
「幸一?」
「あ、すまない。おばちゃん、栄養ドリンクも追加で。あと、サンドイッチとウーロン茶」
「あれ?追加か?」
「こっちは俺の昼食。弁当を家に忘れたみたいだ」
「なんだ、昼に弁当かわないのか?」
「さすがに僕は弁当戦争に乗り込む気はないよ」
弁当戦争。
それはこの学校における昼休み開始5分に行われる昼限定で売られる安くてうまくて、おなか一杯になる魅力的な日替わり弁当をめぐる壮大な戦いの事である。
一日30個限定なので、毎日に壮絶な戦いが行われる。
その場では男女構わずバーサーカーになるこの戦いは下手に参加すれば病院(保健室)送りは必須で毎日気絶者が絶えないイベントである。
「まあ、危ないのは認めるがおいしいからな。俺は今日も狙うぜ」
これは余談だが、弁当戦争において弁当を5回連続または一月に通算10回手に入れたものには二つ名がつくらしい。
武蔵は先週から昨日で通算5連続で弁当を獲得している。
それによって二つ名がつけられた。
新一年生最速記録者の称号『新星』とそのフィジカルを生かして最速にして軽やかにとることから『軽業師』と呼ばれるようになっていた。