プロローグ
30XX年、地球は死に瀕していた。
作り続けられた戦争兵器、肥大した人間の支配欲、そして繰り返された戦争の末、消えることの無い雲が太陽の光を遮り、生物は殆ど死に絶えた。
人類は、機械に再興を託した。何台も何台も、問題を解決すべく作られ続けた。しかし、超常技術であっても、自然を操作することはできなかった。正確に言えば、それは地球の状態を悪化させることはできても、元には戻せない、ということだ。
残された人類は考えた。どうすれば生き延びられるのか、と。
結論は「どうすることも出来ない」だった。
太陽系の外まで開拓された宇宙。そのどこかに人間が住める場所がある。人々は「新天地」や「希望」と呼び、すがっていた。
しかし3000年以上も増え続けた人類は、同時に地球に愛着も抱いていた。
人類は二度目の結論に至った。
「いつか帰還するその日まで、人類の歴史の記録と保管をする必要がある」
しかし、その必要は無くなった。
見つけた、いや、
見つけてしまったのだ。
科学では説明のつかない地球の深奥に。
原典を。
────。
300年ほど未来。
新天地を目指し人類は宇宙へ飛び立った。
かつて暗い雲に閉ざされていた大地には陽の光が射していた。
そして復興を託された機械たちは殆どが壊れるか、機能を失い地上を彷徨っていた。
しかし正常な機能を保ったまま、学習を繰り返した結果、原因不明のエラーによって自我を持った個体が現れた。
その内の1機が、『PJ.The Earth 』個体識別番号63-Rb
人間たちによる呼称は、「リボン」。
というよりはすべての機体の呼称がそうであっただけだ。
役割は、復興と記録だが、復興に関しては自我が芽生え始めたあたりで諦めた。
人類が残っていた頃の記録はもう殆どが失われていた。
一番古い記録は、音声がなく、何かに怯えるように、何かから逃げるように、自分の何百倍もある大きさの宇宙船に搭乗していく人間の姿。
一番古い音声は途切れ途切れで、よく聴こえない。何度も再生すると、
「ザ………ザザ…………」
「き………なみ………とび………」
「…………かく……………ならない………」
と微かに聞こえる。
リボンは心底どうでもよかった。
自我は作業に必要の無いもの。人工知能に『心』が宿り、人間を越えた前時代、自分達を創ったハカセは敢えて旧式の機械を選んだ。記録に自我は必要ないと判断したのか、或いは…。
もう知る術は無い。ハカセから送られる通信履歴は、300年ほど前に既に更新が止まってしまったからだ。
人類は何処までいってしまったのか。栄光は遥か遠くで瞬き、虚空が呑み込んだ。
リボンのカメラは星を見られない。
あるのは、ただ、
行先の分からない自由意思のみ。
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────────。
行き場を失った形代は、荒野を往く。
名も無き勇者は、明日を観測する。
記憶無き愚者は、始まりを求めている。
生誕は目前である。
終点は貴様が行き着く先にある。
廻り、巡り、結び、解れる。
いざ往かん、黄金の想いよ。
我が憧れは、王の眠りを妨げぬ。
────『原典』の一節より




