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その五 玉砕

さしもの立花の突進力にも翳りが現れ始めていた。


立花の突撃銃はすでに鍋島の七段目にまで達していた。


しかし両袖に逃れた鍋島の鉄砲は健在であり、新たな砲列を作り射程のぎりぎりから立花の側面に対して再び十字砲火を浴びせてきた。


立花は射撃手が負傷したり倒されても槍や弓を捨て鉄砲を引き継ぎ、たとえ頭数が減ってもその火力は衰えない仕組みだった。


あくまで鉄砲あっての立花である。


ただしそれまで前方に集中していた砲火を側面や後方にも振り向けなければならなくなった。


敵陣深く刺さり過ぎたことが災いして立花の第一陣は孤立しかけた。


周囲は全て鍋島軍に遠巻きに囲まれていた。


そこに後方から銃声と歓声が轟き、立花第二軍が一軍に追いつき側面と後方の支援に回った。


勢いを盛り返した立花は進撃速度を落としながらも、尚も鍋島の本陣目指して前進を続けた。


立花の一丁一丁の銃口からは連発銃のように次々と次弾が放たれ、たとえ取り囲んだとしても鍋島勢は立花に槍を付けるまでには至らなかった。


膠着状態の中、しかし多勢に無勢、回りを取り囲まれてしまった軍勢に逃げ道は無く徐々に戦力を殺がれ包囲陣は縮まりつつあった。


もはや射撃手を代われる余力も奪われ、今度こそ終わりかと思われたそのとき!


鍋島の後方の囲みを破って立花統次率いる最後の立花第三軍がなだれ込んで来た。


新たな援軍を加え再び勢いを盛り返した立花鉄砲隊は包囲されたまま進撃を続け鍋島の八段目を抜き九段目と対峙するに至った。


もはや消耗戦の様相を呈し、ここが最後の前線になるのは誰の目にも明らかであった。


立花の火力は前方に集約され全員前を向いての討ち死にを覚悟した。


死を決意した手負いの虎を前に、勝利を目前にしながらも鍋島九段目は面子を捨てて道を空けた。


しかし立花には進撃を維持する戦力は残されていなかった。


薄まった弾幕をかいくぐり敵の剣戟が真近に迫った。


鍋島三万二千の十二段構えの九段まで撃破した立花統次は、もはやこれまでと単騎駆け抜け小川の向こうに布陣する鍋島十段目に斬りかからんと突進した。


鍋島の兵達は敵ながらその執念に心動かさざるを得なかった。


恐らくや鬼神のごときであろう、立花統次の表情が窺い知れるほどまでに迫った。


その表情は意外や不敵な笑みであった。


統次が小川を飛び越えんとしたところで、「てー」の合図と共に斉射が統次に浴びせられた。


統次の姿は小川の窪みに消えたきり二度と現れなかった。


ここに立花鉄砲隊の突撃は(つい)えた。


あと三段破れば敵の本陣であった。


立花宗虎が徹底抗戦の覚悟で立花全軍の一万三千を投入していれば数で倍する鍋島とて物の数ではなかったはずである。


半島では二十万の明軍をも圧倒した立花である。


立花の攻撃を退け、勢いに乗った鍋島勢に総大将の小野鎮幸(しげゆき)の本隊もみるみる包囲され、消耗戦の果てに小野らは兵が14、5人になるまで討ち取られた。


小野自身も左胸に銃弾を受け足には矢傷を負い、あわや戦死寸前となっていた。


「小野を死なせてはならぬ」


柳川城の宗虎の命を受けた立花成家は僅か三百の兵で小野を取り囲む鍋島の包囲を突破。


自身も顔面に銃弾をうけつつ小野を柳川城に連れ帰った。



かくして立花の面目は立った。



鍋島は柳川城を遠巻きに包囲するにとどまった。


立花の鉄砲の威力を身をもって味わった鍋島勢には、網の目のような堀と水路に囲まれた柳川城まで攻略し得る方策も勇気もすでに持ち合わせてはいなかった。


ここで予定通り清正が講和の使者として乗り出した。



手打ちである。



宗虎は城を明け渡し僅かの近習と浪々の身となった。


勇猛を誇る立花の将兵達は肥後の清正に預けられた。


宗虎の恩義に報いるために島津義弘はすぐさま柳川へ援軍を送っていたが、援軍が到着したのは開城三日後であった。


余りの進展の早さに義弘は立花が密かに徳川の軍門に下り手打ちとしたことを悟った。


このままでは島津が九州で孤立することも ・・・・



すべてが正信が描いた筋書き通りに済んだ。

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