第10話 野を駆ける牙獣 ~かつての仲間~
ギルドに向かう途中、メインストリートについた二人は異変に気付いた。
昨日までの活気が無かったのである。
ミレスは原因に心当たりがあった。
「うへぇ、アイツら帰ってきたか……」
リフィアの町の嫌われ者、野を駆ける牙獣の帰還であった。
しかし、レオネスはミレスには悪いが、噂の真偽を確かめるいい機会だと思った。
「ねえ、レオネス。回り道しない?」
ミレスがレオネスに提案する。
「レオネス? 珍しい名前だな。まさかお前、チビのレオネスか!?」
二人は不意に後ろから声を掛けられ、振り返り声の主を見る。
そこには四人の冒険者と一人の回収者が居た。
「アランさん、それにクラムさん、ラントンさんにファニアさん……」
思わぬ再会にレオネスはかつての仲間の名を呟く。
「全然見ないから、死んだと思ってたよ」
ラントンが平然と言う。
「しばらく町を離れてましてね」
「まあいい、生きてたんなら戻ってこい。また使ってやるぜ?」
アランはレオネスに再び野を駆ける牙獣に戻るように命令する。
「何言ってるんです、俺が必要ないといったのはあなた達でしょう? それを戻ってこいなんて、今さら遅すぎやしませんかね」
レオネスはアランの命令を拒否する。
「戻ってくる気はないか。分かってねえな、お前に拒否権なんてねぇんだよ!」
いうや否や、アランはレオネスに殴りかかる。
言葉ではなく、力でレオネスに分からせようとしたのだ。
しかし、レオネスもかつてのレオネスではない。
レオネスはアランのパンチを軽々と躱す。
まさかパンチを避けられると思っていなかったアランは、勢い余って地面へと転がる。
「大丈夫ですか?」
地に転がるアランに向けてレオネスは言葉を掛ける。
「テメェ、ただで済むと思うなよ!」
起き上がり、レオネスを睨み付けるアラン。
「これは野を駆ける牙獣に対する敵対行為と見た」
ラントンがアランの横に立ち、構えを取る。
「安心しろ、命までは取らん」
続いてクラムも構えを取り、アランと肩を並べる。
「先に仕掛けてきたのは、そっちでしょう。だいたい、俺は何もしてないし」
レオネスは構えを取らずに、三人に言う。
「あんたは黙って言うことを聞いていればいいのよ」
「そういうことだ!」
アラン達の後ろにいるファニアの言葉にアランが続き、三人はレオネスに向かってくる。
「なんでこうなる。いや、今だからこそこうなるのか?」
向かってくる三人に対して、未だに構えを取らないレオネス。
それを余裕の挑発だと受け取った野を駆ける牙獣の三人は怒りが芽生えていた。
正面からは体格の大きいクラムが、両サイドからはアランとラントンがレオネスに襲い掛かるが、レオネスは跳躍し三人の攻撃を避ける。
予想外の回避方法に、三人は止まる事が出来ず、仲間同士で衝突し、地に転がる事となる。
レオネスは少し離れた位置に着地する。
「この!」
魔法使いであるファニアが炎魔法・ファイヤーボールをレオネスに放つ。
炎の弾はレオネスの目の前で剣魔法により真っ二つに裂かれ、掻き消える。
「魔法は反則でしょ!?」
レオネスはファニアに抗議する。
一切反撃をしてこないレオネスに、遊ばれていると思った野を駆ける牙獣の面々はついに本気を出し、武器を取る。
「テメェ、生きて帰れると思うなよ!」
「街中で武器はマズいですよ」
レオネスの言葉に耳を貸さず、アランは槍でレオネスの頭を狙う。
レオネスは身を屈め、槍の穂先を躱すが、そこをクラムの戦斧がレオネスを両断せんと襲い掛かる。
レオネスは横に転がり、戦斧の一撃を躱す。
レオネスが居た場所に直撃した戦斧は地面に亀裂を作っていた。
「本気で俺を殺すつもりか。だったら、こっちも反撃させてもらうぜ」
レオネスに敵対の意志はなかったが、相手が武器を持ち、殺意を以って襲ってくるのならば話は別である。
ついに構えを取るレオネス。
「レオネスの分際でなめやがって、ぶっ殺す!」
激情したアランはレオネスの心臓をめがけて槍を突き出すが、レオネスは槍を見切り、槍の柄を掴んでアランの攻撃を封じる。
槍を引っ張り、アランを自身の元へ引き寄せ、無防備な腹部に掌底を繰り出し、吹き飛ばす。
ラントンはレオネスの頭を狙い、矢を放つ。
しかし、レオネスは矢を見切り、剣で叩き落とす。
「馬鹿な!」
矢を見切ったレオネスに、驚愕を隠せないラントン。
レオネスがラントンの矢に気を取られている隙に、背後から戦斧を振り下ろすクラム。
しかし、振り下ろされた戦斧はレオネスの剣によって弾き返される。
「こ、これは!?」
クラムは戦斧を取り落とした。
腕が痺れて力が入らないのである。
──アルハザード流・剛衝破。
剛剣により衝撃波で敵を吹き飛ばす剣術だが、衝撃波を敵に叩き込むことにより、一時的に相手の筋肉を痺れさせることが可能である。
「こいつ!」
ファニアは再びレオネスに魔法を放つが、レオネスは剣で魔法を斬り裂く。
「魔法を斬り裂くなんて聞いたことが無い! 何よそれ!?」
レオネスの技に驚愕と怒りを隠せないファニアはレオネスに問う。
「秘密ということで」
レオネスは答えなかった。
「お前たち、何をしている!」
「くそっ、邪魔が入ったか!」
憲兵の登場により、野を駆ける牙獣は急いで立ち去る。
レオネスも剣を納める。
「冒険者同士の喧嘩か、これだから冒険者というものは……。貴様、次は無いと思え!」
憲兵はレオネスに注意し、事態が収拾したことを察知して悪態をつきながら、帰っていく。
「レオネス! 大丈夫だった!?」
「見ての通りさ。というか、息切れしてるけど大丈夫か?」
「大丈夫じゃないわよ! あんたのために憲兵を呼びに行っていたんだから!」
ミレスは野を駆ける牙獣に絡まれたレオネスの身を案じ、憲兵を呼びに行っていたのだった。
「心配かけたな」
「まあ、無事ならいいんだけどね!」
ミレスはレオネスが無傷であることを確認し、安心する。
「でも、野を駆ける牙獣を相手に無傷って、レオネスって実はAランク以上の冒険者?」
「俺はしがないBランク冒険者だよ」
「ほんとかなぁ? それより今日は疲れたよ、精神的に」
「そうだな、今日は休業するか」
そういい、レオネスとミレスはギルドではなく、レストランの方へ歩を進める。
二人で依頼をこなし、それなりの蓄えは出来たいるため、一日休んだ程度ではさしたる支障にはならない。
「そうだ、レオネス。私に魔法の小袋買ってよ」
「お前、まだ買ってなかったのか……」
「だって、レオネスが持ってるし。別に急がなくてもいいかなー、って」
「そうだな、昇級したら買ってやる」
「やったー! 約束だからね!」
◆◆◆
レオネスとミレスがメインストリートを離れたのち、レオネスと野を駆ける牙獣の戦いを見ていた冒険者たちはレオネスの話題で持ちきりだった。
ついに野を駆ける牙獣を倒せる者が現れたのだと。




