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みじん娘っ!  作者: スタイリッシュ土下座
12/12

さよなら

 僕が一番大切にしているものは何だろうか。勿論、昔は自分自身と答えていた。しかし、今は何だか違うように思える。あの『超生物進化薬』をかけた、その瞬間から────。

「貴様……やりやがった!」

「僕がどうなってしまっても構わない……今までの僕の全てを賭けて、お前を倒す!」

 全ての始まりは仁子が誕生した時からだろうか。自ら進化薬を被り、人間まで成長した彼女は僕の事を好んでいた。あれから僕達は家族になり、沢山の仲間に支えられて、今を生きている。

「ただ、その仲間も!お前によって殺されたんだ!絶対お前を許す訳にはいかない!」

「フン、そこまで言うならやってみろ!お前がもたらした結果だ、せいぜい足掻いてみせろ!」

 そう、あの進化薬はミジンコを人間サイズまで進化させることができる。つまり、人間である僕が進化すれば、ゲノムを倒すことも不可能ではない。

「やるしか……ないんだ!」

 僕は力を解き放ち、決意した。必ず、邪智暴虐の生体神を倒さねばならぬと。僕の身体を光が包み込んだ────が。

「嘘だ……何も起こってない!?」

「ええっ!?確かに光一くんは、進化薬を……!?」

 あまりの出来事に緑ちゃんも驚愕した。僕は何も進化していない。僕は愕然とした。

「フハハハハ!やはり光一なぁ、お前は進化に値する器じゃなかったのだ!もしくは人間がこれ以上進化する個体なのか?それは考えられまい!」

「くっ……!」

 彼から言われた言葉に手も足も出ない。やはり僕はこのまま負けてしまうのか。いつか皆と一緒に平和を取り戻したかった。それは単なる幻想に過ぎなかった。

「長かったが、これでフィナーレだ!光一!」

 彼の一閃は僕を激しく貫いたことすら、僕は知らない。しかし、貫いたのは彼の方ではなく、僕の方であったことを僕も知らなかった。

「何……?私の腕が、光一を中心に裂けている!?」

 そう、この時やっと彼の繰り出した剛腕は真っ二つに避けているのが見えた。まるでモーセの十戒で海を割ったくらいの衝撃が彼を走る。

「ぐわあああああ!!!」

「えっ……お前、攻撃したのか?」

「まさか、こいつ……"攻撃されたことに気づいていない"!」

 そう、僕の生命エネルギーはリミッターを越え、最高潮の高ぶりを見せていた。それによって彼が繰り出した拳は炸裂せず、僕の肌に触れた瞬間、ノコギリを殴ったかのように真っ二つになっていたのだ。つまり、進化は成功していた!

「光一!食らわしなさい!」

「わ、わかった!」

 僕はその細い腕から思いっ切り奴の胴体を打ち抜いた。彼の胴体に巨大な穴がくり抜かれ、廃墟のビルに激突した。しかし、僕にこんな力が眠っているとは信じられない。

「進化と退化、二つの相反する力が激突し、相殺したのよ」

「貴女は……!彩香さん!?」

 福利の姉である彩香が姿を現したのはこの時である。彼女は続けて応える。

「貴方は間違いなく進化した。しかし、その莫大なエネルギーに耐えられず、自動的にそのまま退化し、エネルギーを相殺させたのよ。その時に残っていた莫大なエネルギーによって、ゲノムを打ちのめした。ただの人間である貴方がそんなことできるとは到底思えないですけどね」

「貴女がそこまで知ってるとは思わなかったです。しかし、何で僕はわざわざ退化を……?」

「元々、貴方はそのままの貴方でいたかったのでしょう。愛するあのみじん娘の為に」

 彼女に諭されて、僕は少し赤面した。まだ戦いは終わってない。僕は顔色を戻し、警戒を続ける。

「貴様ぁぁぁぁ!!!畜生……そんな事していいと思っていたのかぁぁぁぁ!!!」

 廃塵の中から声が聞こえる。ゲノムは相当怒り狂っていて、どうやらまだ生きている。煙から出てきたのは上半身だけ浮いた、散々たる生体神の姿だった。

「お前が……その手を使うなら……!こっちも禁じ手を使わせてもらうぞ!」

「何だと!?」

心臓炸裂ハートディストラクション!」

 すると、僕以外の微生物が全員倒れ込み、苦しそうな声を上げた。一体何が起こっている。

「何をした!?ゲノム!?」

「いいか、お前以外の微生物共の心臓を間接的に掴んだ。お前の心臓は進化によって硬すぎて握れないからなぁ?お前がこれ以上私に攻撃するというのなら、こいつらを殺す!」

「勝てないからって悪足掻きもいい加減にしろ!お前自分のやってる事が何なのか分かってるのか!?」

 僕は正論を並べあげたが、彼は聞く耳を持ってない。あるのは人質に対する殺意のみだった。

「勿論、この時点で私を殺しても彼女達の心臓が固定されているから私と一緒に共倒れだ、さぁどうする?光一!」

「いや……それだけはやめてくれ……奴らは本当に家族なんだ……!」

「ころせ」

 この状況に声を上げたのは血を流して倒れていたはずの仁子だった。恐らく、最後の力を発揮して喋っているのだろう。

「仁子!そんなこと言うんじゃない!」

「わるものがわたしをひとじちにするんだったら、はやくわたしをころせばいい、そのあとこういちがおまえをぼこぼこにする」

「やめろ!馬鹿なこと言うな!」

 僕の目からは大粒の涙が流れていた。このまま彼女達を死なせてはならない。僕は再び、以前のような泣き虫に戻っていた。

「こういちはいつもわたしをたすけてくれた。こんどはわたしがこういちをたすけるばん」

「だからって……お前を死なせることは……!」

「わかったわかった、お望み通り死なせてやる!さらばだ!ウジ虫どもめ!」

「やめろーーーっっっ!!!」

 彼が手を握りしめようとしたその瞬間、またしてもあの爆撃が彼を襲った。

「がぁっ!?しまった!心臓の固定化が!?」

まさかと思ったが、またしてもトランシーバーが僕の目の前に落ちてきたので、慌ててキャッチした。そこから聞こえた声は未だに信じられない。

「おっす、光一!まだ俺は生きてるぜ!」

「や……山中っ!お前……生きていたのか……!」

「当たり前よ、俺はヘリ墜落の後、パラシュートで復帰し、幸い残っていた軍機に乗り込んだからな!アイツは手痛いことしやがって、今にもの見せてやる!」

 そう言って彼はゲノムに向かって砲撃を繰り返した。あれだけ軍を全滅させられたら、流石にキレるのもわかる気がする。

「相変わらず、お前やる事が無茶苦茶だよ」

「おい、ボサッとしてないでさっさとケリつけろ」

「えっ」

「お前が今生き残ってるということは、あの進化薬を使ったという事だろ?奴が体制を崩している間にお前がケリを付けるんだ」

 彼の意外な言葉に耳を疑ったが、そうすることにした。僕自身の手で、奴との戦いに決着をつける。

「わかった」

 そう言って僕はゆっくりと奴に近づいていく。全てに決着をつける為に。

「や……やめろっ!お前……生体神を何だと思ってやがる!この私が……人間ごときに……!」

「お前は生命の進化を見くびった、それがお前の敗因だ」

「ふ、ふざけるなぁぁぁぁーっっっ!!!」

 僕は進化薬で力を強大化させた腕を力一杯振り絞り、奴に止めをさした。終わった。そのまま風化していく彼の肉体を見ながら、僕は朝日を感じ、そのまま倒れ込んだ。僕らが発見されたのは12時間後の事だったらしい。


「光一くん……光一くん!」

 緑ちゃんの声に起こされ、僕は身体を起こした。辺りは病室で、時計は現在6時半を回っていたところだ。

「仁子は……仁子はどうなった!?」

「貴方いっつもそればっかね、全員怪我はしてるけど無事よ。仁子も今集中治療受けてる」

「何だ……良かった……!」

 そう言って僕は再び眠りについた。どうやら本当に世界が平和が訪れたみたいだ。


「こういちーーー!!!」

「仁子、大変だったな。傷、大丈夫か?」

「うん、こういちがさすってくれてるからいたくない」

「何だよそれ、痛いんじゃないか」

「光一様もご無事でよかった」

「おぉ、福利!お前も無事でよかったよ」

 あれだけの事があって本当に全員が無事なのは驚いた。仁子には少し、肩と顔に傷が付いてしまったが、すぐに治るという話だ。

「さて、帰るか」

 僕は一刻も早く帰りたかった。仁子と、福利と、また一緒にいれることが幸せだった。

「なー、俺も結構活躍したんだぜ?せめて────。って聞けよ!」

「ありがとな、山中」

 何故か僕よりもっと重症を負っていた山中の病室もチラッと見えたが、とりあえず後でお見舞いに行くことに決めた。


「うおおおお!!!俺の家ええええ!!!」

 僕らは駆け足で戻ったが、不幸なことに、家は全壊していた。まぁあれだけの事があった分しょうがないだろう。

「だいじょうぶ、こういち。またいちからやりなおせばいい」

「えぇ、また皆で少しずつ、復興していきましょう!」

「うん、そうだな……!」

 僕は涙目になりながらこの微生物達に応えた。また生活が忙しくなりそうな気がして、心の落ち場がなかったが。


1年経ったある日、仮住居に住んでいた僕に1通の手紙が届いた。差出人は……生体神。恐る恐る中身を読んでみることにした。

「拝啓、光一様。私は新生体神のディーナと申します。ゲノム様は私の兄で、神界でも嫌われ者でした。そんな彼を救ってくれた貴方に心からの感謝を申し上げます。これからは私が生命や進化のあり方を大切にする、そのような事を行ってきます。どうか、私共の不手際をお許しくださいますようお願いします。この度は本当にありがとうございました。」

 どうやら、人柄の良さそうな神が生体神に成ってくれたらしいので、少し安心した。また、桜の花が蕾をつける、そんな時期であった。


 僕の名前は身上みのべ 光一こうい ち。幼い頃から生物科学が好きだった僕は東京の名門一流大学に入学。数々の論文を書き上げ、大学院にまで駒を進め、博士号を取った。あの事件以来、元の人間の力まで加減できるようにリハビリを重ね、そして微生物の研究者にまで職を進めた。今でも山中や緑ちゃんとは連絡は交わすが、山中の方はどうやらSPに所属した為、最近は遊べていない。だけど、僕の娘である仁子、福利は今も成長し続けている。今までと全く変わらないようで大分変わった、そんな日常が続いている。

「光一?今日遊びに行く約束」

「あぁ、ごめん!すぐ行く!」

「光一様、焦らずゆっくりでいいのですよ?何せ、私達の英雄なのですから」

「その言い方ももう聞き飽きたよ!わかったから!今行くから!」

 僕は相変わらず生物に対する新しい薬品を作り続けている。今度は人類のしていい領域を超えないように。この書記が、誰かまた別の人に評価されて、人類の為に貢献できると嬉しい。それが僕の心からの願いだ。

「さぁ、今日はどこへ行こうか」

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