コミック1巻発売記念SS レイスの変なクセ
B's-LOG COMICさんから、コミック一巻発売中です!
完結後にこのような機会を頂き、本当に感謝申し上げます><
活動報告の方にコミックの書影もあげておくので、よかったら見てみてください!
以下は記念にSSをアップしてみました。完結後、愛の重いレイスのお話です。
ちょっとでも楽しんでもらえたら幸いです!
レイスとふたり(と時々一匹)で暮らし始めて早一ヶ月。
私はレイスの、子供の頃にもなかったはずの妙なクセを見つけてしまった。
――それはある日の、麗らかな昼下がり。
領主様のお屋敷での仕事もなく、一日家でのんびりしていた私は、洗濯物を畳み終えた後にソファで読書をしていた。リンスが貸してくれた恋愛小説は最近、庶民の女子の間で絶大な人気を誇っているそうだ。
精霊使いの女の子と、騎士様の仲違いから始まる恋愛物語。
作者は不明だが、どこぞの貴族様が道楽で書いたとの噂。
……設定がなんとなく、私とレイスに似ているのはきっと気のせいだと思う。
「ふわぁ……」
半分読んだところで、つい大口を開けて欠伸が漏れた。文字を追う目がショボショボしてきて、栞を挟んで本を閉じる。
単純に面白いし一気読みしたかったけど、警備団の仕事に出るレイスを早起きして見送ったから、ずっと眠かったのよね。
「ウォルもロアくんのとこに遊びに行っているし、ちょっと休憩……」
そのまま私は、ソファの上で居眠りをしてしてしまった。
それから、どのくらい経っただろう。
私は右手に触れる温かい体温に、薄っすらと目を開いた。次いで狭い視界に入った光景に、密かにビックリする。
いつの間にか帰っていたレイスが、床に片膝をついて、恭しく私の右手を取っていたのだ。
いや、手というより、手首?
私の手首を取って、長い睫毛を伏せて身動ぎもせずじっとしている。
見ようによっては、騎士様がお姫様に忠誠を誓っているようにも映る。レイスが騎士様なことは間違いないんだけどね。あの白い清廉な団服は、今となっては懐かしいくらいだけど、よく似合っていたわ。
ただ今のこれは、そんなロマンチックなものじゃなくて……業務的に、なにかを確認している感じというか……?
「はあ……」
レイスはやがて目を開け、心の底から安堵を湛えた息を吐いた。
私は咄嗟に寝たふりを続ける。
そっと私の手首を離したレイスは、立ち上がったかと思えばすぐにブランケットを持ってきて、音もなく私に掛けてくれた。
赤い瞳を細めて優しい微笑みを残すと、軽食でも準備しようとしてくれているのか、キッチンの方に向かっていく。
彼がいなくなった後で、私はむくり……とソファの背から体を起こした。
「いや……本当になにあれ?」
彼の奇怪な行動はこのように度々見られ、私がうっかり転寝をしていたときはもちろん、朝に隣で彼が先に目覚めた時なんかも、必ず手首をやんわり、だけどしっかり取られる。しばらく取ったままなにかを確認し、満足すると離れていく。
あまりにも行動の意図がわからないため、私は意を決して本人に聞いてみた。
すると、返ってきた答えは……。
「……バレていたのか。あれは、スーの脈を確認していた」
「みゃ、脈?」
想定もしていない返答に、私はスプーンを止めて瞬きを繰り返す。今は夕食時で、テーブルにはパンにサラダ、青豆のスープ、鶏肉の香草焼きが並んでいる。
レイスの帰りが早い日だったので、すべて料理したのは彼だ。
本当に、私より腕がよくて若干腹立たしい……じゃなくて!
「脈って……な、なんでそんなもの看るのよ?」
「……いまだに時々、夢を見るんだ。悪魔に支配された俺が、スーを殺してしまう夢」
レイスの怜悧な美貌に、暗い影が差す。赤い瞳の奥には、確かな焦燥と悲哀が透けて見えた。
彼の脳内ではまだ、体に悪魔がいた頃に夢で見せられたという惨劇が、色濃く巣食っているのか。
「だから私の脈を確認して、生きていることに安堵すると……?」
「ああ、不愉快にさせたなら悪かった」
「別に不愉快じゃないけど……」
「それに夢というなら……俺にとっては、お前が傍にいてくれるこの現実こそが、時々ただの幸せな夢なんじゃないかと思う。スーはいつの間にか消えているじゃないかと疑ってしまうんだ」
「……それは聞き捨てならないわね」
私はムッと唇を尖らせる。
レイスのこれまでの過酷な境遇を鑑みれば、幸せに不慣れな彼の気持ちもわかる。言い換えると、幸せ過ぎて失うのが怖いってことね。
だけど私の存在まで、夢にしないで欲しいものだわ。
まったくもう……と、私は呆れた息を吐いて立ち上がると、椅子に座るレイスの後ろに回り込んで、ぎゅっと首元に抱き付いた。
「スー?」
「ほら、ちゃんと私は夢でもなんでもなく、ここに存在しているでしょ。私はどこにも行かないわ。ずっと貴方の傍にいる。すれ違って離れていた分、これからは一緒にいればいいんだから」
まるで幼い子供相手のように、レイスの首筋に顔を埋めながら優しく言い聞かせる。
彼の不安が一日でも早く消え去るように。
恐ろしい夢を思い返さずに済むように。
そうしてしばらく体温を分け合っていると、レイスの体からフッと力が抜けて、黒髪を震わせながら「敵わないな、スーには」と小さく笑ってくれた。
笑うとちょっと幼くなる瞬間が好きなのよね。
「ふふっ、たまには私が貴方より優位に立たなきゃね」
器用さが桁違いに上だから、料理も裁縫も敵わないし。
だけどそう言えば、レイスは緩く首を横に振る。
「出会ったときから、俺はスーに勝てた試しなどない。……そんな俺でも、お前が傍にいてくれるなら、これ以上の幸せな現実はないな」
彼の耳がほんのり赤いのは、私と己の言葉に照れているからか。
そんな些細なことでもキュンときてしまう私は、やっぱりレイスに敵わない気がするんだけど……まあ、お互い様ということで。
しかしながらーー身に付いた癖はそう簡単に治ることもなく。
私の脈を確かめ続けるレイスを、バッチリ目撃したウォルは「黒頭、変なのー変なのー」と茶化しまくるのだった。





