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荒野へ

一度ログアウトして情報を集めてきたが、多くのプレイヤーは荒野でレベリングをしているらしい。なお、β版より難易度が高く、経験値全損するプレイヤーがあとをたたないとか。そのため最近ではパーティ単位の戦闘が主になってきているようだ。

サービス開始から数時間しかたっていないがプレイヤーたちは協力して攻略する方向にむかっているようだな。

まあ、僕はソロ以外考えてないけどね。

「群れるのは弱いやつらのすることだぜ。」

こら、独り言を言うんじゃない。



ふむ、ここが冒険者ギルドか。でかいな。

考えごとをしていると目的地に着いた。

目の前には明らかに周りの建物よりも立派な建物がある。扉をくぐると中は多くの人々で賑わっていた。左手には掲示板に群がる人々、右手にはいくつかの机を数人で囲み話し込む人々がいた。昼間から酒飲んでるよ。

僕はそのまま真っすぐ進み、正面の受付カウンターに向かう。


「素材を売りに来たばい。」

「かしこまりました。素材アイテムを確認します。」

受付嬢に話しかけ、アイテムボックスから素材を取り出す。

いや、どこの方言だよ!


「合計7万ギルで引き取らせていただきます。よろしですか?」

「かまわんぜよ。」

うむ、もう何も言うまい…。

高いのか分からんなぁ。まだゲーム内通貨の価値がわからんからな。

なぜだ先ほどから心臓の動機がとまらん。

とりあえず目的は果たしたし、武器屋にでも行ってみるか。


チリン。

ん?僕がギルドを出ようとしたとき頭の中に鈴がなるような音が響く。


《荒野のフィールドボスの初討伐者が現れました。討伐パーティは「正義の剣」です。》


ふむ、討伐通知はこうやって来るんだな。自分のときは来なかったからな。

それにしても「正義の剣」はないだろう。

僕がネーミングセンスに呆れていると。


「ちょっと、そこ邪魔なんだけど!」

突然僕の後ろから声がかかる。


しまった!ギルドの入口に立っているのを忘れていた。

僕は慌てて横によけると頭をさげつつ謝罪をしようと口を開いた。


「おい貴様。ゴミ虫の分際で誰に向かって口をきいているんだ!」

「…。」


やばい。言葉と動きがずれ過ぎだろ。というか何を考えているんだ僕の口。

相手を選べよ。

声を掛けられたほうを見てみると、気の強そうな赤髪ポニーテールとその背後に屈強な男たちがいた。全員筋肉ムキムキである。

女一人、男四人の五人パーティだ。

やべぇ。変なのに喧嘩売ってしまったー。と僕がビクビクしていると

フン、と鼻を鳴らし女は僕の前を通り過ぎていった。その後をぞろぞろと男たちが続く。

な、なんだあれ。オタサーの姫みたいなもんか。このゲームの男女比は男のほうが圧倒的に多いからな。


「ま、まあ、いい。ほほほ、本当なら一言いってやるところだが俺様は忙しいからなぁ。」

なんでお前もびびってるんだよ!というかキャラ統一しろよ!

まあ、こいつに関して今更なにを言ってもしょうがないか。とりあえず鍛冶屋に向かおう。


ここで今の僕のステータスを確認しておこう。


-----------------------------------------------

Lv.9 振り分けPt 32


HP : -

MP : 0《固定》(+0)

ATK:1《固定》

DEF:1《固定》

AGI :51

DEX:51


スキル:【吸収】【不死の炎】【再臨】

-----------------------------------------------

ポイントの振り分けをしていないため、レベル以外全く変わっていない。

だが、僕にとってはレベルが最重要だ。調べて分かったことがいくつかある。まず、僕の持っているスキルはすべて種族固有のスキルだということ。通常スキルである【身体強化】【気配感知】【自然回復】などは今のところ覚えていない。今後覚えられるかはわからない。まあ、不死鳥は僕以外いないみたいだしね。というか、中性のレア種族がいるという話すら聞かない。サーバーの関係でいまこのゲームをプレイできるのは5万人。キャラクターメイキングのやり直しはきかないし、その中で中性なんて選んだひとはほとんどいないのだろう。

話が少し逸れたが、スキル効果の強さはレベルに作用される。スキル頼みの僕にとってレベリングは必須だ。

しかし、僕の戦い方はレベリングにむかない。

不死鳥という種族はどんな敵にも絶対負けない。運営がなにを考えてこの種族をつくったか知らないが、明らかにチート。バランスブレイカーだろう。

因みにこんなキャラを使ってゲーマーとしての誇りは傷つかないのかと言われれば、全く傷つかない。僕としてはとにかく強ければいいという考えだ。どちらかといえば満足している。唯一無二の無敵の戦士。満足しかないね。

だが、いかんせん戦いに時間がかかる。道中の敵を手早く倒す方法を考えるのが今後の課題かな。全く思いつかないけど。



ということで鍛冶屋に到着。赤と黄色の派手な看板が掲げられている。


「いらっしゃい。」


僕が扉をくぐると野太い声が掛けられる。壁際に多くの武器や防具が並べられており、店内はかなり狭苦しかった。


「盾が欲しいんだが。」


ドワーフの店主、身長は低いが体の組織全てが筋肉なんじゃないかとおもうほどムキムキでかなりいかつい印象を受ける中年の男に話しかける。


「少し待ってろ」


そういうと店主は壁際にある盾をかき集めて僕の前に持ってきた。


「好きなものを選べ」

「そうさせてもらおう。ふむふむ…ん?それはなんだ?」


盾を眺めていた僕は隅に置かれている黒い革手袋を指さしていった。


「これも一応盾だ。防御力はないに等しいが相手の攻撃を受けとめるくらいはできる。」

ふむ、なるほど。このゲームで敵の攻撃を喰らうときにかかわってくるステータスはDEFとDEXだ。ダメージに直接かかかわるのはDEFだが、敵の攻撃を剣や盾で受けた時にどれだけの衝撃を殺せるかはDFXの値によってかわる。単純に防御力だけ

上げていると敵の技を防いでもかなり遠くに吹き飛ばされてしまうということだ。


「それはいいな。それを買おう。」

「なに?お前さん人族だろう。防具も装備していないようだが大丈夫なのか?」


ふむ、僕の見た目はまんま人族だからな。趣味の悪い髪飾りをしているが。

僕が女形じゃなかったらやばかったな。というか、さっきから話していて気付いたがこの店主プレイヤーだな。もう店をもっているということはβテスターかな。


「俺は神に愛されているのさ。全裸で火山に突っ込んでも死なないよ。」


おいこら!全裸とかいうな、変態みたいだろ!


店主が変な奴をみるような目で僕をみている。


「ま、本人がいいというならいいさ。5万ギルだ。」

「OK」

僕はお金を払うと革手袋を受け取り、そそくさと店を後にした。他にも見たい装備があったが店主の視線がきつかったので。


ゲームを初めて数時間。僕はいま非常に満足している。VRMMOというのは素晴らしい。これほど面白いとは思わなかった。

ルンルン、と僕がスキップでもしだしそうな軽やかな足取りで街を歩いていると、


「すみません…。」

「ん?なんだいお嬢ちゃん迷子か?」

「あ、お、男の人だったんですか。」


猫耳少女に話しかけられた。耳と髪が濃い青、目は明るい赤で切れ長。髪型は腰まであるロングで身長は低い。本物の猫のような印象を受ける少女だ。

僕を女だと思って話しかけたらしいな。髪飾りをしているせいで女に見えるからしょうがないな。


「あ、あの。私とパーティ組んでくれませんか?荒野でレベル上げをしたいんです。」


ふむ。僕的にはもっとレベルが高いところで経験値を集めたいところだが…。

猫耳少女もかなり勇気を出して話しかけたみたいだし、断るのもかわいそうだな。勘違いさせたこともあるし。


「OKだ。俺は女の子には優しいからな。」

「本当ですか。ありがとうございます!」

僕がOKすると、少女が嬉しそうにお礼をしてくる。


ということで僕たちは荒野に来た。


「シオンさん。敵です!」

「任せな!」


緊張感を含んだ猫耳少女、アナのこえに少し気後れしつつ応える。まぁ、実際は威勢よく応えているのだが。

本来の戦闘はこれほど緊張感があるものなのか。

まあ、デスペナルティが重いから当たり前なんだが。

草の陰から現れたのは水色の粘液の塊だった。


《Lv.1 スライム》


やはりスライムか。さて、どうやって戦ったもんかね。とりあえず、


「俺様が注意を惹きつける。そのうちにアナが攻撃してくれ。」

僕がスライムに向かって切りつける。

ぶにょッ。

変な感覚だ。弾力が半端じゃないな。

攻撃されて怒ったスライムが僕にむかって突進してくる。地面を滑っているようだ。あまりスピードは速くない。

僕はそれを刀で正面からうけ止める。突進のスピードを完全に殺しきったところに、横から剣が伸びてきて串刺しにする。アナの剣だ。スライムのHPバーがゼロになり消滅した。


「やりましたね。シオンさん。」

「ああ、この調子でどんどん狩ってくぜ。」

「はい!」


その後も僕が敵の注意を惹き、アナがとどめを刺すということを繰り返し、僕たちはスライムを狩りまくっていた。


「アナ、苦戦している人がいる。助けるぞ。」

「はい!」


スライム10体に囲まれて苦戦している狐女を発見し、僕たちは助けるために駆け出した。


「はっ!」


僕は走ってきた勢いをのせて一番手前のスライムに切りつけた。

ぶにょッ。

やはり効かないか。

僕は気にせず別の奴に切りつける。また、別の奴に切りつける。またまた別の奴に切りつける。そうしてすべてのスライムに切りつけて自分に注意を向けさせる。僕に注意がむいている間にアナが後ろから串刺しにし、一体ずつ確実に仕留めていく。残りの数が半分くらいとなったところで狐女が魔法を発動した。


【氷の波動】


杖の先から放たれた凍えるほどの冷気がスライムたちのHPを一瞬で奪い消滅させる。


「ヒュー。やるな。」

驚いたな。魔法にこれほどの威力があるとは。


「助けてくれてありがと。」

狐女が杖を収めつつ近づいてくる。


「いや、困ったときはお互い様だぜ。」

そう言いつつ改めて狐女を観察する。金髪のショートに狐の耳が生えており目は碧眼で気が強そうだ。身長は僕より高くグラマラスな体つきをしている。


「なんで一人で戦ってたんだ?仲間はやられたのか?」

僕は疑問に思っていたことを口にする。魔導士は本来後衛職だ。魔法を打つためにはタメが必要であり、先ほどのように囲まれてしまうと魔法が使えずやられてしまう。どう考えてもソロにはむいてない。


「サービス開始に乗り遅れたのよ。そのせいでパーティを組んでくれる人がいなくて。」

「それなら俺に良い考えがあるぜ。」

「え?」

「アナと二人でパーティを組めばいいのさ。」

「え?二人で組んで大丈夫なの?」

狐女が心配そうに僕を見てくる。


「アナもお前も立派な戦士だ。問題ない。」

「違うわよ!」


ん?なにが言いたいんだ?


「もしかして俺と離れたくないってことかな?」

待て、僕の口。勝手にしゃべるんじゃない。まだ考えが追いついていない。


「違うったら。あなた弱っちいのに一人で大丈夫かってきいてるの!」


え?よ、よわい?この僕が?


「え?よ、よわい?この俺が?できればそう思った理由をきかせて欲しいんだが…?」

珍しく口とシンクロしている。


「だってさんざん攻撃してたのにスライムの一匹だって倒せてなかったじゃない。見た目も女々しいし。」

た、たしかに。いくら囮になってたとはいえ一匹も倒せなかったのは事実なんだが…。

というか見た目は関係ないだろう。


「私も心配です。」

「ぐぼっ!」

アナにもそんな風に思われていたとは…。今までの僕の言動恥ずかしすぎだろ!

おしゃべりな口も完全に沈黙しちゃったよ!








「今日は助けてくれて本当にありがとう。」

「レベリング手伝ってくれてありがとうございました。」

僕たちは始まりの街の門のところまで戻ってきていた。


「お、おう。俺も楽しかったらいいってことよ。ま、また会おうぜ。」

「ええ。」

「はい!」


こうして僕のVRMMO生活一日目が終わった。



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