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1話 白い鳩はもういない

「メイリー様、明らかに上手くなってますね」

「本当?!わたし上達してる?」

「えぇ、前にお会いした時より格段に上達してますよ!」

「やったぁ!」


1時間の稽古が終わり、芝生に座ってレイと久しぶりの会話をしている。レイは基本的に国境の警備をしているため、会う回数は少ない。こういう何気ない時間も貴重だ。


「レイって…綺麗な青い目をしてるよね」

「っ…!きゅ、急になんですかメイリー様…」

「ん?普通に綺麗だなぁって思って」


レイは褒められるのに慣れていないのをメイリーは知っている。目を逸らして赤面しているレイをニヤニヤ眺めていると、庭の入り口から慌ただしく走ってくる兵士が見えた。リアと表情を戻したレイがすかさず反応する。


「おい!今はメイリー様の稽古中だ。要件は後で聞く」

「ひどく焦っているようですが」

「はぁ…!はぁ…!!きゅ、急報です!!!」


急報という言葉が耳に入り、メイリーも立ち上がって3人の様子を伺う。


「ゆ、ユーガリア帝国との国境の警備にあたっていた第4騎士団が…現在…!壊滅状態にあると!!」

「な、なんだと…?第4騎士団が…」

「それは事実ですか?」


2人の表情が一気に険しくなる。オーランド王国第4騎士団は、精鋭を集めた部隊だ。100年以上敵対しているユーガリア帝国の国境を守備するためである。そんな第4騎士団が壊滅するなどという情報は、王国中に速やかに広がるはずである。しかし、町には警報も響いておらず、国境沿いを統治する貴族からの連絡も入ってきていない。明らかに、異常事態だ。


「レイ様、この事は私が速やかに伝えます。なので」

「あぁ、分かっている。第2騎士団と第3騎士団を動かす」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


王城内が慌ただしく動く。第4騎士団壊滅という情報は即座に共有され、大会議室で緊急会議が始まった。稽古が終わってから5時間ほど経っており、時刻は15時を過ぎたところだ。集められたのは、オーランド国王 テイラー・オーランドを始めとする王族に、貴族の代表として、70年以上オーランド王国ローゼン領を統治するレイド・ローゼン、騎士団から第2騎士副団長のハンス、第3騎士団長のアルベルトである。大きな円卓の中央に国王テイラーが座り、右隣に王妃のマリア、第1王子 ルイ、メイリーと続く。唯一、ハンスだけが椅子に座らず、大会議室の扉の前に立っている。リアは通路側の扉の前で、他の執事、メイド達と並んでいるといった状況だ。

メイリーはこのような状況には慣れていない。周囲を見渡しても、皆険しい顔をしている。特に、いつも穏やかな表情をしている母の、眉間に皺のよった顔は初めて見た。メイリーの視線に気づいたのか、マリアはいつもの穏やかな笑みでメイリーを見る。何も心配することはない、と言いたげな表情で。


「それでは、始めようか」


メイリーの父であるテイラーが会議の開始を宣言した。


「まずは、第3騎士団長アルベルト、君は元第4騎士団に所属していたね?この状況、どう受け取ったか」


アルベルトが立ち、困惑した表情で答える。


「はい、正直なところ、まだ信じられておりません。第4騎士団は敵国の国境の守備という大変厳しい任務にあたっております。ほぼ毎日戦闘が起こるような場所で、100年以上守り続けていた部隊です。それが…一気に壊滅など…」


「しかし、事実である。そうだな?」

「はい…第4騎士団長のワルドと連絡が取れません。副団長、それ以下の階級の者も同様に」

「敵は?」

「確実に、ユーガリア帝国軍でしょう。北部国境以外での被害は確認されていませんし、賊の対処のためにアケーディア法治国側に遠征している第1騎士団からも、目立った動きはないと。ユーガリア帝国はオーランド王国から見て北、アケーディアは南東。方角から見ても、今回の件はユーガリア帝国で間違いありません」


ここで、レイドが挙手して発言を求めた。


「わたくしからもよろしいですかな?」

「うむ、発言を許可する」


長い白髭が特徴のレイドが立ち上がり答える。


「つい今朝のことです…。わたくしの領内で第4騎士団の者と見られる兵士数人の遺体を発見したとの情報が入りました。遺体はひどく損傷しており、見るも堪えないと…」

「それに関しては、現在第2騎士団の者数人を派遣して、確認をとっております」


メイリーは困惑していた。今朝まで平和だった日常が、一気に崩れようとしていることに。さっきまで木刀を握っていた手を見る。これからは本物の剣を握ることになるのかもしれない。そんなことを思っていると、


「僕がなんとかしてみせます!」


兄であるルイが勢いよく立って言った。


「ルイ、戦場に出るつもりか」

「はい!お父様!私はオーランド王国第1王子として第一線に立ち、国を守りたいのです!そのために、今日まで厳しい稽古に取り組んできました」


メイリーからルイの印象は「まっすぐな人」だ。どんな困難な状況でも挫けず、走り抜くことができる人。何かを守るために、自己犠牲を惜しまない。騎士のような精神を持つ人だ。しかし、ルイは病弱だ。18年前、ルイは双子の兄として生まれた。第2王子だった弟は、生まれた数時間後に亡くなった。ルイも危ない状況が長く続いたという。母に聞くと「ルイは肺が悪いのよ」と教えてくれた。短時間の運動でも息切れしてしまうらしい。父が戦場に出ようとするルイを止めるのは、それが理由だ。


「ルイ、お前を戦場に送るわけにはいかない」

「お父様…?なぜです!僕は!」

「現実を見ろ…!」

「っ……」


現実を見ろ。残酷な言葉だとメイリーは思った。会議は長引きそうだ。不意に、窓から見える城下町を見る。とてもゆっくりと、時間が流れているように感じる。王城内とは対照的だ。


「…ん?」

「メイリー?どうかしたの?」


母であるマリアが心配そうに言う。しかし、メイリーは窓から目を離さない。


「メイリー、どうかしたか?」


父も眉をひそめた。メイリーは、窓を見続ける。


何かが、迫ってくる。

黒い何かが。

空を、青から黒に染め上げる。


「あれは、何…」


メイリーは震えた声で言った。皆が一斉に窓の外を見た。




その瞬間、世界が暗転した。












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