第4話 襲撃事件
――当日、昼頃
「98番、飯だ」
紅羽は鉄格子の扉に付けられている窓から、白いレジ袋を受け取った。中にはかつ丼と割り箸が入っていた。
紅羽はかつ丼のふたを開ける。いい匂いだ。紅羽は箸をもって、かつを口に運ぶ。
いつもと違って、両手に手錠がかかっていて食べづらい。一口食べるごとに、手錠がガシャガシャと不愉快な音を鳴らす。
紅羽はかつ丼を食べきった。本当は食後は好きなコーラを飲むのが日課だが、この留置所では好きなものを自由に食べたり飲んだりすることはできない。
昼ご飯を食べた後は、とにかく退屈で気が狂いそうだった。何もすることがなく、させてもらえず、ただ閉じ込められている。
あの時は啖呵を切ってみたが、さすがにここでの生活は紅羽にとってもきつかった。
(超能力さえ使えればこんなところすぐに抜け出せるのに......)
しかし、今超能力を使えば、手錠の電子が紅羽の体に一気に流れ込み、紅羽は感電してしまう。
(この手錠さえどうにかなれば......どうすればいいの?)
紅羽は退屈な独房の中で、考え続けたのであった。
――当日、昼頃 事務室にて
「清滝さん、戻りましたよ」
「あっ、高橋さん。ジェームズの取り調べ、終わった?」
高橋はファイルを持って清滝の隣の椅子に座る。
「はい、組織のアジトと他の構成員の情報を引き出したかったのですが......しかし簡単には口を割らなかったです」
清滝は机に肘をついて言う。
「そりゃそうよね。あの組織は情報を漏らした裏切り者に容赦がない。一生の間、命を狙われ続けることになるわ」
「我々の証人保護プログラムを交渉材料にするのはどうですか?」
「ありね。そっちのほうはまだ交渉の余地がありそう。日野さんのほうはかなり骨が折れそうだけど」
「あの少女......やはりただものではなさそうですね」
「そりゃあそうよ。ただの中学生の身で、あの組織と戦っているんだもの。相当な才能がなきゃできっこない。でも心の強さは人並みでしかない。だからこそ危なっかしいのよ」
「超能力を使いこなせる超能力者は、自分のことを特別なヒーローであるかのように思いがちです。特に若者は」
「ええ。でもその正義感は、簡単に暴走しかねない。いつの間にか悪人相手なら、無益で私的な殺人を正当化する、ただの殺人鬼にすらなる可能性がある」
「だから我々は、あの少女を放置するわけにはいかないですね」
「まあ、ジェームズを倒してくれたのは素直にありがたいことではあるけどね......あれ、篠崎さんから電話。どうしたのかしら」
清滝のスマホが鳴る。清滝は机からスマホを手に取って、電話に出る。
「もしもし、こちら清滝。どうしたの?」
「ジェームズが突然ひどく悶え苦しみだしたんです」
「まさか......!」
「どうしたんですか?」
「篠崎さん!絶対彼に触れちゃだめよ!多分それは金属に触れながら超能力を使うときの感電反応!」
「こいつが超能力を?」
「あなた、周囲の電場読めるでしょ?ちょっとやってみて」
「......確かに超能力の感じがします。電波通信系の超能力ですかね?」
「やっぱり......!」
「どういうことですか?なぜこいつはこれだけ苦しんでいるのに超能力を?」
「多分だけど、この留置所の場所を組織のやつらに知らせてるのよ!」
その言葉を聞いた瞬間、高橋も顔が張り詰める。
「まさか......これほど感電しながら、超能力を?」
「使わされてるんじゃない?洗脳系の超能力とかで。とにかく考えてる時間はなさそうね。本当にそうなら、ただじゃ済まないわ」
清滝は電話を切って、スマホを操作して所内放送のアプリを開く。
「緊急連絡。緊急連絡。こちら看守長。全職員に告ぐ。敵組織に当留置所の場所を知られた可能性あり。至急被疑者の移送を急げ。移送先はC留置所だ」
清滝の声が留置所の中に響き渡る。普段は使わないような固い言い回しに、高橋も思わず面食らった。
「清滝さん、やつらは本当にここを......」
「100%の確証はないけど、その可能性は高いと思う。とにかくここは離れたほうが良さそうね。あなたは移送の方をお願い」
「清滝さんはどちらへ?」
「私は地上に出て敵襲に備えるわ。何かあったらスマホで連絡して」
「わかりました」
高橋は部屋を飛び出し、独房のほうへと走った。
「さて、いきますか」
清滝は関節を鳴らしながら、地上へと続くエレベーターへと向かっていったのだった。




