光芒-⑩
(ど、どうする……⁉︎)
ネムスはここまでノープランで来てしまった自分を呪った。自分が来ても、何の役にも立たない、なんてことはわかっていた。わかっていたが来てしまったものは仕方ない。こう着状態に陥った現場をただ見つめることしか出来なかった。
クララが両手を前につき出して牽制し、魔獣がにじり寄ろうとする。時間としてはわずかだっただろうが、とても長く感じる、その静寂を獣の吠え声が突き破った。中央の獣が大きく声を上げると、二匹の獣が同時に襲いかかる。
「っファイアーウォール!」
クララの前方に、炎が燃え上がり、ゆらめく壁を形成した。一匹はその前でタタラを踏んで止まったが、もう一匹はその壁を跳躍して飛び越えようとする。しかし、炎に包まれ、壁を越えたところで地面に転がり落ちた。
しかし、その獣はそれだけでは斃れなかった。燃え上がる毛皮を纏ったまま、クララに向けて襲いかかる。
「さ、サンダースピア!」
クララの手から迸った雷撃が獣の眉間に突き刺さり、今度こそ獣は痙攣しながら地面になだれ落ちる。しかし……。
「ああっ!」
襲い掛かられて、一瞬、気が逸れたのだろう。炎の壁の勢いが削がれたその隙に、炎の前で立ち止まっていた獣と、後方で待機していた獣が、同時に壁をこえて獣人の赤ちゃんに迫っていく。獣たちの目は血走っており、明確な殺意が宿っていた。
「サンダースピア!サンダースピア!」
クララが慌てて連射するが、片方に命中するのが精一杯だった。雷撃を避けたもう一匹が獣人の赤ちゃんへと駆ける。
「ね、ネムス君!?」
ネムスは茂みから飛び出していた。考える前に体が動いていたのだ。視界の端に、クララの驚いた顔が見えるが、今は説明している場合ではなかった。低姿勢で転がるように全力で走ると、襲いかかってくる獣の目の前へ躍り出て、赤ちゃんの入ったカゴを抱える。勢いのまま滑るように獣の牙を避けると、耳のすぐ後ろでガチン、と牙が合わさる音が響いた。
振り返ると、すぐ目の前に獣が仁王立ちし、今にも自分の首目掛けて追撃しようとしていた。
「ひ、ひいいい!」
ネムスは情けなく悲鳴を上げ、せめて赤ちゃんだけはと抱きかかえて蹲る。
(あぁ、これ死んだわ)
死を覚悟して、固く目をつむってその時の到来を待つ。
思い返されるこの世界での日々。ルルナを助けたこと、エバンを蘇生したこと、走馬灯に現れるのは、どれも誰かを救った瞬間であった。今ここで倒れるとしても、この子と合わせて3人分の命を救った訳だし、まあしっかり命の価値は果たせたのかな、などと考えるが、いつまでたっても死が訪れない。流石に変だ、と思い、うっすら目を開くと、大口を開けたままの獣の首がぼとり、と目の前に落ちた。




