あなたと
「リア、あ~ん」
「あ、あ~…むぐっ」
私とカインは学園の王族専用サロンで、二人仲良く昼食を食べていた。
雨の季節が終わりを告げ、夏本番を迎える。それでも今日はまだカラッとしており幾分か過ごしやすい。サロンの大窓は大きく開けられていて、少し熱を含んだ風が通り抜けた。
あれから一か月が経っていた。
あの後、私は自室で目を覚ました。
カインを捜索するための出立準備を終えたリステンおじさまが、私に挨拶するためメロディ家を訪れてくれたのだが、その時私はまだ、テラスで歌っていたらしい。
声はボロボロで、震えながらも歌い続けていた私に驚いたおじさまは、私を薬で眠らせたのだとか。その際、私はおじさまにカイン達の無事と大まかな場所を伝えたらしく、そのおかげでカイン達を早めに発見できたと、陛下からお褒めいただいた。
私、何も覚えてないのだけど。
のどが痛くて、熱も出て、三日間ほど寝込んでいた。
リィ達にはものすごく心配をかけてしまった。なにせ、どれだけ呼びかけても私が歌をやめなかったらしく、おじさまが眠らせなければ、命が危うかったとお医者様に言われるほど、私の状態が酷かったそうで未だに謝られる。
無事に帰ってきたカインは、私のそんな状態を聞いて屋敷に飛んできたらしい。そのまま、メロディ家に泊まり込んで泣きながら私の看病をしてくれたとか。
目を覚ました時のカインの憔悴ぶりには、変な声を出すほど驚いた。
そのせいなんだろうか。
「リア、これが夏のデザートだよ。涼し気な色合いだね」
「う、うん。そう、だね。キレイだね……」
私は今、カインの膝の上に座らされている。
カインの過保護が増したぁぁぁ!!!
人前ではやめてくれと懇願したからか、さすがに人目のある所では膝に乗せようとはしないが、二人っきりの時はだいたいこうなるようになってしまった。
「どうしたの?リア?このデザートは嫌い?」
「いや、違う。デザートが問題なんじゃなくて」
「なぁに?言ってごらん?」
この距離で顎をつかんでこないでぇっ!
「ちちち、近いよ、カイン」
「問題ないよ。だって僕たち婚約者なんだから」
そう、私たちはこの度、めでたく婚約式を執り行い婚約者になったのだ。
私たちの婚約式は異例の速さで行われた。と、いうのもカインがずいぶん前から用意をしていたらしく、あっというまに準備が整ったのだ。
とは言っても私の方もいくらか準備がいる。私は慌ててリステンおじさまに相談したのだが、おじさまはさらりと
『私どもも準備は整っておりますよ。そもそも、婚約の打診をしてきたのは殿下なのですから。あとはアマリア様のお気持ちを確認するだけでございました』
と、言ってのけた。
いや、聞いてない。なんか色々聞いてないっ!選定するって言ってたじゃない!難しい仕事だって!あれウソだったの?!おじさまの中では決定事項だったの??!
と、色々心の中で反論したものの、カインのお嫁さんになれるのはこの上なく幸せだったので、もう水に流した。
カインはクスクス笑いながら私を膝からおろし、私の背後から包むように抱きしめた。頭を私の首元に埋める。私の婚約者になったカインは、箍が外れたように私とスキンシップをとるようになった。
「可愛いリア。大好きだよ」
そして必ず、甘い言葉をささやくようになった。そして私もその言葉に返すようにしている。
「うん。私も大好き。カイン」
婚約者になったことだし、私も、もう誤解することもないと思うのだけど、これからはちゃんと気持ちを言い合おうと二人で決めたのだ。今回の事でカインかすごく参ってしまったらしい。
「…はぁ。君の気持ちが見えていたら僕はあんな……」
「いや、私は良かったけど。気持ち見えてなくて」
「全然良くないよ!僕は壊れるところだった……」
十分壊れてると思うわぁ。
でも、半分私のせいかと思うと申し訳ないので言わないでおく。
「それにしても、カインっていろんなことが見えてたのね。精霊に死者に、人の気持ちって……」
「それだけ僕の加護は強いんだ。君はさらにその上だけどね」
「じゃあやっぱり、あの時も見えてたの?私の父様と母様」
私はカインとテラスで歌ったことを思い出していた。カインに『歌って』とお願いされて歌ったとき、確かに両親が私の目の前に現れたのだ。そして私は両親と最期の会話が出来た。
謝ることも出来たし、大好きだと伝えることも出来た。
「うん。泣いてるリアのそばにずっとご両親はいたよ。リアにずっと話しかけてた。でも、僕は見えるだけだから。音も拾えないし、ライナス達がリアに何を伝えたいのかわからなかった。必死に口の動きを読んだんだ。そしたら、『歌を歌って』って読み取れた」
あの時、父様はいろんなことを教えてくれた。
歌の加護に場所の制限がないこと。大事な人が出来たら歌ってごらんと言われたこと。
相手を想いながら歌うこと。
「父様は分かってたのかな。私の加護がどんな力を持っているのか」
「そうだね。ライナスは仕事の傍ら、加護についても研究してたみたいだから」
カインは私の髪で遊び始めた。
「僕ね、ライナスのその研究、引き継ごうと思うんだ」
「え?」
私はカインの方へ振り向く。
「リステンに聞いたら『書斎はそのままにしてあります』って。この間、僕、書斎見に行ってたでしょう?資料がきれいに残ってたんだ」
「そうなんだ」
「ねぇ、リア。一緒にやらない?」
私は瞳をまたたいた。そして微笑む。
「いいわね!おもしろそう!」
その言葉を聞いたカインもとろけるような笑顔になった。そのまま、顔が近づいてくる。
「え、ちょっ、んむ」
「ちゅっ」とリップ音を立てて唇を離したカインは意地悪な顔をした。
「このくらい平気でしょう?舌は入れてないんだから」
「……!こ、ここでそのキスしたら、お、怒るからね?!」
「しないよ?屋敷でたくさんするから」
「……!……!!」
「ふふっ。顔真っ赤。僕を甘やかしてくれるんでしょう?」
私はカインの事を『愛しい』と思うようになってから、どうやって甘やかそうかと思案に暮れながら、実践する日々を送るようになっていた。上手くできてないけど。
「僕を喜ばそうとしてくれるのはとても嬉しいけれど、無理はしないで。僕はリアが隣にいてくれればそれで良いんだから。それが僕の幸せなんだよ」
「……それだと今までとあんまり変わらないというか……」
「君が居てくれるだけで良いって言っているのに。まぁ、そんなところも可愛いけれどね」
「そばにはずっと居るつもりだもの。いいのかなぁ。ねぇカイン、何かしてほしいことが出来たらちゃんと教えてね?」
カインはとろけるような、色っぽい笑みを浮かべた。そのまま、また顔が近づいてくる。
私たちはまた口づけを交わした。先程より少し長めのキスだった。
私はカインの幸せのためには、カインを私から解放しないとと思っていたけど、それはカインにとって幸せではなかった。これからどんな風に生きればカインが幸せになれるのか正直わからない。カインは『そばに居て』というだけで、でもそれだと納得できない私も居て。なんだかわがままな私が復活してしまった気もするけど、カインの隣だけは誰にも譲らないようにしようと、そう思ってる。
だから、私はこれからもたくさん考えて悩んでいこう。
カイン、あなたの傍で、あなたと共に。
我が家にお住まいだったつばめさんが巣立ちました。……と、思ったら夜に帰ってきました。巣立ったんじゃないの、君ら。こんにちは。いかがお過ごしですか?
無事に完結しました。こんな感じになりましたが、いかがでしたか?
初めてということもあり、慣れてないし、カインのことはずっと会員と打ち間違えるし、まとまらないし……と書きだしたらキリがないんでやめときます。
読みにくかったり、たった8話に何週かけとんねんと思われた方もいらっしゃるかと思いますが、大変楽しく、また、たくさんの方に読んでいただけて、評価やブックマーク、感想までいただきましてめちゃめちゃ幸福な期間でした。
次回作につきましては、今のところ何も考えていないので何もお伝えできませんが、もしまた何か書くことがありましたら、冒頭の1話だけでも読んでいってください。
では、引き続き小説家になろう、小説を読もうライフをお楽しみください。私も読めてないんで読みに行ってきまっすぅ!
皆様のもとにたくさんの幸せが降り注ぎますように。
ありがとうございます。