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流星は蒼く輝く  作者: たぷたぷゴマダレ
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第11話【愛と矛】

「緑川さま! おはようございますわ!」

「…………」


 智代子からの直接なモーニングコール。沙紀の夏は、これからはどうやらこれで始まるようだ。

 瞼を擦り、沙紀は小さく智代子に挨拶を返す。 部屋に漂う朝の匂いを感じながら、沙紀はあくびをした。

 彼女が自室に来るようになってから、もう一週間は過ぎた。最初は少し遠慮していた智代子も、最近は遠慮が消えていた。

 ドクターが「嫌なら断ると思うよ!」と、智代子に告げ口していたのもあるが、おそらく智代子は、朝の行動が楽しくなってきているのだろう。

 沙紀にとっても、断る理由は特になく。朝のこの時間を少しだけ楽しみに思っているところもあった。


 ——そこの金髪の娘に用があるんだあ


(……サイネ)


 あのあと、紫に聞いたのだが。次元獣が智代子を狙っているということを言っていたと。

 智代子の安全には常に気を付けている。帰る時は常にこちらのメンバーの誰かがついて行っている。

 だが、人型の次元獣に勝てるのはおそらく沙紀と大介のみ。他のメンバーだとよくて足止めが限界だろう。それは、おそらく他のメンバーも理解している。

 だからこそ、一つの正解がある。それをするためにはかなりの時間がかかったが。沙紀としては、可能なら断りたかったが、そうは言えなくなってしまった。


「……ご馳走様でした。さて、会議室に向かいましょう」

「はいですわ!」


 沙紀は今から、ある一言を言われるためだけに、会議室に向かう。それは——


 ◇


「というわけで沙紀ちゃん、君はしばらくチョコちゃんと一緒に暮らしてね」

「……やっぱりそうなりますよね」


 手っ取り早い正解。それは最強の矛のそばに、守りたいものを置くことだ。最強の矛は、最強の盾にもなり得るということを、この場の全員が知っていた。

 だからこそ、この結論は当然の結果とも言える。しかし、沙紀はあまり快くは思ってなかった。

 なぜなら……


「——————っ! み、緑川さま! わたくし、わたくし……!」


 智代子がキラキラした目をぶつけてくる。智代子は今の状況を理解しているのだろうか。

 沙紀は、彼女と共に生活するにあたって生じる問題を一つ一つ想像して、ため息を心の中で吐く。なんにせよ、断れる選択肢はおそらくないだろう。覚悟を決めなければならないか。


「なぜかは知らないが、智代子嬢は狙われている。だからこその、ゼロツーを横に置いて、ボディガードになってもらう」

「そういうこと! もちろん他の次元獣退治は紫ちゃんたちが頑張るから、沙紀ちゃんはゆっくり休んでね!」

「で、それは誰の提案なんですか? まぁ、ドクターあたりだと思いますが……」

「僕じゃないよ? 東雲さんが提案してくれたんだ。一番安全なのは、緑川様の横だって」

「東雲さんが……ですか?」


 東雲の方をチラリと見ると、彼女は小さく頭を下げた。「これからもよろしくお願いします」というあの時の彼女の言葉は、心からの言葉だったのだろう。

 ため息を飲み込み、そして口を開ける。もともとわかっていた、いつかなると思っていたことだから。


「……しばらくお世話になりますね、城ヶ崎さん」

「まぁ! まぁ! ええ、ええ! わたくしもとっても嬉しいですわ! これから末長くよろしくお願いしますわね、緑川さま!」

「末長くならないようにしないといけないんですけど」


 智代子が抱きつきそうになるのを両手で無理やり押さえつけながら、沙紀は今度は聞こえる大きさでため息を吐いた。

 くすくすと、小さく笑う声が聞こえる。綾部と千枝が、とても愛しそうな目を向けて、こちらを見ている。


「まぁでも、沙紀ちゃんも断らないから人がいいよね」

「そうですねえ。 ふふっ。なんだか二人を見ると仲のいい姉妹みたいですう」

「姉妹!? でしたらわたくしは妹ですの? お姉ちゃんですの?!」


 彼女たちはわいわいと騒ぎ出す。姉妹なら確実に自分が姉だなと、沙紀は考えていた。


「沙紀ちゃんは多分妹だよ」

「えっ」


 ◇


「ここが、城ヶ崎さんの家……ですか……」


 お邪魔します。と、小さくつぶやきながら沙紀は智代子の家に入った。いや、大きさを見ると、家というより屋敷という方が正しいか。

 古き良き和風の空気漂う家の中では、沙紀はどこか場違いなのではないかと思ってしまう。

 家の中には、家政婦が何人かいる。彼女たちは、こちらに気づくと、夕方頭を下げて礼をする。


「お嬢様、おかえりなさいませ。隣の方は……?」

「わたくしの友人ですわ。今日からしばらくここに泊まることになりましたの」

「あら、そうなのですね。何かありましたら、遠慮なく私たちにお申し付けください」


 まるでホテルの中にいるかのような扱いに、沙紀は頭がくらくらとしてしまう。そして、智代子は本当にお金持ちのお嬢様なんだな。そんな当たり前のことをまた再度認識した。

 案内されるまま、沙紀は進む。履いたスリッパは、ふわふわとしていて、支部に置いてある薄いものとは比べ物にならない。このスリッパだけでも買えないかな。沙紀は考えていた。

 案内された先は、おそらく智代子の部屋なのだろう。中は思ったよりこじんまりとしており、ぬいぐるみが何個かと勉強机にクローゼット。そして、畳に合わせているのか、若草色のベッドが置かれているだけであった。

 正直もう少し派手な部屋を想像していたが、これくらいの方が気負わなくていいのかもしれない。


「いい部屋ですね。落ち着いてて……私は好きです」

「まぁ、よかった! わたくし部屋に人を招き入れたのは初めてですので……気に入ってくれてよかったです」


 智代子はニコニコと笑いながら、床にクッションを置き、その上に座るように促した。


「あっ! お菓子とかお茶がありませんでしたね。持ってきますので、お待ちになってください」


 バタバタと慌ただしく智代子は部屋から出ていく。彼女は護衛されているということを忘れているのではなかろうか。

 遊びではない。気を引き締めなければ、取り返しのつかないことになる。智代子を使い、何をしようとしているのかはわからないが、止めるべきことなのは確かだ。

 まさか、我々の動揺を誘うためだけに智代子を狙うなんてことはあり得ない。もしそうだとしたら、滑稽だ。

 とにかくいつでも動けるようにしないといけない。食事も最小限に済ませたいし、入浴もしたくない。


「入浴……」


 二人で入れば監視もできるし入浴もできるのでは? そう思った瞬間に、沙紀は頭を何度も横に振る。気を緩めるなと、先ほど自分に言い聞かせたのに。

 智代子に誘われても入るわけにはいかない。せめて扉の前で待機が限度だろう。もしかしたら数日入れないかもしれないが、こればかりは仕方ない。


「緑川さま! お菓子持ってきましたわ!」


 扉が開き、智代子がお盆に乗せたお菓子を持ち込んでくる。小さなカステラと、温かい麦茶だった。

 ありがとうございます、と礼を言い沙紀はカステラを一口食べる。フワッとした食感と共に、優しい甘みが口の中に広がる。味わいの奥には、コクもあり、心に幸福が訪れる。

 高いカステラだからか、それともこの場所の雰囲気のせいか、たまに食べるコンビニのカステラはもう食べれなくなるかもしれないと、沙紀は考える。


「緑川さま、よろしいですか?」

「……はい、なんでしょう」

「緑川さまはなぜD•M•T……大介さまたちと共に行動してるんですの?」

「そう、ですか……いえ、まぁ。気になりますよね。もし裏でゼロワンと手を組んでたら……って思うのも仕方ないです」

「ちがいますわ! ……話したくない内容なら構いませんし、お気に障ったなら申し訳ございません。忘れてください……ただ、少し気になるんです」

「いえ、そんなに難しい話じゃないです。私自身、身寄りがないものでして。大介さんの元で働くのが一番良かっただけです」

「身寄りが……」


 その瞬間だった。沙紀のスマホが鳴り響く。電話のようだった。智代子の方を見ると、彼女はこくりと頷いて、電話を促した。

 沙紀は電話に出る。電話をかけてきたのはドクターであり、少しだけ嫌な予感を感じ取る。


「は、ドクターですか? 一体なんのよう……」

【沙紀ちゃんごめん! 近くに次元獣があらわれたからそっちに向かって欲しいんだ!】

「ひどい慌てようですね。それに私はしばらく城ヶ崎さんを守るために戦わない予定だったはずですが」

【その予定だったよ! でも、次元獣の巣の反応が何十個も現れたんだ! 本当は行かせたくないけど……】

「そうは言ってられません、か……わかりました。場所を教えてください」

【ごめん、ありがとう!】


 場所を教えるね! の一言を告げて、電話は切られる。程なくしてメールが届き、そこに発生地点が細かく書いてあった。

 ここからとても近い距離に一点、ぽつんと発生している。明らかに誘われてるな、というのは見てとれた。

 智代子は置いていくべきだろう。そう考えて立ち上がると、智代子が沙紀の手を握り締めている。しばしの沈黙。離してくださいと、告げる前に智代子は口を開けた。


「わたくしも、連れて行ってくださいまし」

「罠ですよ、確実に。あなたがいると危険です、ここにいてください」

「いいえ、逆ですわ。声が漏れておりましたが……この近くに次元獣の巣ができたということは、相手はわたくしたちがどこにいるか把握しているということ。緑川さまがここから離れればわたくしは確実に狙われますわ」

「だからといって罠に飛び込むと?」

「罠だとしても、ですわ。もし、ここに敵が来たら、わたくしだけじゃなくて、ここの人たちにも被害がかかります。しかし、その罠にわたくしが向かえば、被害を受けるのは誰もいませんよ」

「……誰もってことはないでしょう」

「あら、わたくしを守ってくれるのは誰ですの?」


 そう言って智代子は立ち上がり「行きましょう」と、言葉を投げた。沙紀はとてもとても深くて大きいため息をついて「離れないでくださいね」とだけ言って現場に向かって走った。


 ◇


 あのガラスのようなもので次元を歪められる以外の方法で巣の中に入るのも随分久しぶりだな。ゼロツーはそう思いながら、あたりを見渡した。

 いつもの、何も変哲のない巣の中。少しだけ暗くて、どんよりと思い空間。しかし建物等の風景は変わりない。

 次元獣はどこに潜んでいるのか。ゼロツーは意識を集中させ、あたりを観察する。次元獣のDNAが組み込まれているからこそ、ゼロツーはどこに奴らがいるのかをなんとなく見つけることができる。


「……見つけました。多分あそこ……城ヶ崎さんの家にいます」

「まぁ……わたくしの家……」


 智代子の家はとても広い。故に、あそこのどこかに次元獣が潜んでるとすると、探すのは骨が折れるだろう。いっそのこと破壊でもしたいところだが、智代子の手前、そう言った過激なことはしたくなかった。


「……緑川さま、あそこ見てください。わたくしの部屋の窓……」

「窓……? あぁ、なるほど」


 智代子が指差した先に見える窓に、何かの影が見えた。この世界にいるのは、智代子と自分だけ。つまりあの影は、次元獣の影だということだ。

 誘われてるのかもしれないが、結局は此方もそれ覚悟できている。虎穴に入らなければ虎子を得ることはできない。

 門を通り、玄関の扉を開ける。広い家の中に、人の気配がほとんどないというのは奇妙なモノだ。

 智代子の部屋の方に、歩みをすすめる。ギシギシという床を踏む音が反響する。


「…………」


 パンッ! 智代子の部屋の扉を思い切り蹴りあけた。扉は吹き飛び、ベッドをはねる。しかし、部屋の中に次元獣はいなかった。

 しかし一人、こちらに視線を向けている人物がいた。ダボっとした服を着て、カメラを構えるメガネをかけた女性は、こちらをニヤニヤと見つめている。

 迷い込んだ人間か? ゼロツーは問いかけた。


「あなたは誰ですか」

「うぇひひ……私はベニヒ——」


 ゼロツーはその瞬間に、女性に向かって膝蹴りを放つ。こいつは敵だ。過去、ゼロワンに言われた名前のひとつ、ベニヒメに当てはまる。


「緑川さま、なにを!?」

「下がっててください、城ヶ崎さん。こいつは人型の次元獣です」


 ゼロツーは後ろにいる智代子を確認しながら、彼女を守るように前に立つ。

 ベニヒメの顔にめり込んだ膝の感覚を確かめ、遠くに吹き飛ばされた彼女の方を見る。口か鼻からか。彼女の顔の辺りからは赤い血が垂れ流されていた。

 感触はある。つまり、膝蹴りの一発は確実に彼女にダメージを与えたはず。それに対してどうでるか、ゼロツーは観察した。怒りか、痛みに叫ぶか、それとも命乞いでもするか。

 ベニヒメは、突然、ピクリと体を跳ね上がらせる。そして、操り人形のように、ゆったりと立ち上がる。

 何か仕掛けてくるのか。ゼロツーは彼女を強く睨みつけると、異変に気づいた。血が垂れ流されている彼女の顔は、確実に——


「くひっ、ふひひ……!」


 笑っていた。


「くへへへ! 愛がなせる行動とはこういうことを言うんでしょうね! そこの少女を守るために、ゼロツーさんはなりふり構ってられないんでしょう!」

「何が言いたいんですか」

「わからなくてもいいんです! いや、わからない方が素敵です! なぜなら愛はそういうモノ! そういうもののはずです!」

「……もういいです、死ね」


 ゼロツーは距離を一気に詰めた。ベニヒメの頭を掴み取り、そのまま蹴りを叩き込む。大きく吹き飛ばされたベニヒメは、壁に背中を打ちつけた。

 起き上がる間も無く、ゼロツーは倒れたベニヒメの頭を強く踏み潰す。彼女はギリギリ回避するが、ゼロツーは執拗に頭を狙う。

 ついに起き上がるベニヒメだが、ゼロツーは彼女の鳩尾に拳をめり込ませた。口から飛び散った液体が体にかかるがそんなことはもう気にしてられない。

 その瞬間に、ベニヒメはめり込んだ腕を強い力で握りしめる。


「く、くふふ……貴方からは愛を感じます……!」


 殴られながらも、ベニヒメは笑っていた。


「この手を離しなさい……!」

「次元獣には感情が希薄なはず。なのに、貴方からは愛を感じる……気になる。その愛が! 私はとても気になる……!」

「何を言ってる……!」

「私が気になるのはあなたが愛に目覚めた理由! そしてその答えは……」


 そこにある! ベニヒメは後ろに隠れていた智代子の方に視線を向ける。彼女の小さな悲鳴が聞こえた。

 狙われることを考えたゼロツーは握られた腕をそのまま上に上げて、地面にベニヒメを叩きつけた。ごしゃ!と、音が鳴り、ベニヒメはそのまま床を貫き叩き落とされる。

 下はなんの部屋なのかはわからないが、潰れたような声がした。彼女は死んだのかもしれないし生きてるかもしれないが、なんにせよすぐに動くことはできないだろう。

 床から立ち上がる煙を見ながら、ゼロツーは一息だけ吐く。後ろにいる智代子の方を見て、小さく頷く。

 逃がすわけにはいかない。どうやら、ベニヒメはサイネより弱い。このまま攻めればかてる。

 開いた穴から下に降り立つ。音を立てないように、なるべくゆっくりと。その暗い部屋は、上の部屋からの光が、まるで月明かりのように中を照らす。

 白い煙が噴き上がり、天井から出ていく。


「あらあら。追いかけてきましたか」


 声がした。しかし、どこにいるかわからない。


「隠れないでください。さっさとあなたを殺さないといけない」

「怖いですね……ふふ、それもまた愛ということ……私、愛が気になるんです。愛を覚えるために産まれたのに、愛がわからない……それって悲しくて虚しいんです」

「…………」

「ゼロワン様のためにも、私はあなたを倒さないといけない。そのために必要なのは、あの人間を殺すことだと思ってます。それは間違いない……でも私、あなたたちの愛を間近に見て、考えを変えました」


 ゼロツーは、声が聞こえる方を横目で見る。隠れているのか、それとも見つけてもらおうとしてるのかわからない。

 だが、奴は無防備。殺すならば、今。


「あの子、少しだけ借りますね。愛を知るために」

「なにを……」

「ところでこの煙、なんだと思います?」


 煙? そう言われて立ち上がり、そしてあたりに漂う煙を見る。

 瞬間、ゼロツーは眩暈を覚えた。クラクラと、世界が揺れていく。この煙は、自然に発生したものではないと言うことを理解した時には、あまりにも遅かった。


「煙は下から上に登っていきます。ああ、大丈夫……毒じゃないですよ、少しだけ眠ってもらうだけです」

「きさ、ま……!」

「いい顔……それも素晴らしい、愛を感じる! それではゼロツーさん、おやすみなさ……おや」


 言葉は最後まで聞こえなかった。ゼロツーは、震える体に鞭をして、上を見上げる。あそこにはまだ智代子がいる。

 眩暈がする。吐き気も、頭痛もひどい。しかし、だからと言って倒れていいわけがない。なぜなら、約束をしたから。約束は、守らないといけない。


「うぅ、ぐおおおあああ——」


 その時、ゼロツーの鼻に、何か布が押しつけられた。手の感触と、少しだけ感じる刺激的な匂いを嗅いで、ゼロツーは瞬間に意識を手放す。


「直は流石に無理ですよね?」


 そんなベニヒメの声が聞こえ、それが最後だった。糸がプツンと切れたように、ゼロツーはその場に倒れて、動かなくなった。


 ◇


「っ——!」


 沙紀はベッドから跳ね起きる。クラクラする頭を手で押さえながら、辺りを見渡した。ここはどうやら基地の医療室のようだ。

 夢だったのか。そんなことはあり得ないことは沙紀本人でもすぐにわかる。おそらく、ベニヒメに敗れたあと、ここに運ばれてきたのだろう。



「情けない……」


 バンッ!


 医療室の扉が開き、誰かが入ってきた。大股で地面を踏み締めながらくる彼女は、普段の冷静さは無く見えた。

 ——東雲は、こちらの襟を掴みぐいっと持ち上げる。怒りと悲しみ。色々複雑に重なったような目を向け、こちらを睨みつけている。


「貴様……なぜ、お嬢様を守れなかった! 頼んだろう! 信頼されてただろう! それを裏切るのはどういうことだ!」

「落ち着いて東雲ちゃん、沙紀ちゃんだってわざとやったわけじゃない」


 掴みかかってきた東雲を佐藤は無理やり引き離す。乱れた服を、戻す気にもなれず、沙紀は二人を見つめ返した。

 返せる言葉などなかった。沙紀は、完全敗北をしたのだ。智代子はもうここにはいない。理由は守れなかったから。

 その責任を全て背負う覚悟はある。


「ゼロツー、呆けてる暇はないぞ」

「……大介さん」


 大介が部屋の中に入ってきた。彼は沙紀を見下ろしている。しかし彼の瞳には、責めるような視線を感じなかった。


「お前が戦ってる時の音声は拾えてる。お嬢はおそらく、まだ生かされてる。だからこそ、呆けてる時間はない」

「どこにいるかかわかるんですか?」

「……智代子お嬢様には念のため、ドクター様からもらった発信器をつけてもらってます。それがずっと指し示してる場所がある。おそらくそこにいるはず」

「……そういうわけだ。今回はお前だけじゃねぇ、全員で行く。わかったらさっさと支度しろ……こっちが本来出向くはずだったのに、無理言って現場に向かわせた俺たちにも責任がある。罰則なら後で俺に請求してくれ」

「…………」


 沙紀は、頭の回転が追いつかなかった。智代子は生きている? それ以前に、私はまだ戦うことが許されるのか? こんな失敗をしたのに?

 自分は——

 沙紀はベッドから立ち上がる。ちらりと見ると、部屋には智代子以外全員が集まっていた。

 息を一つ吐く。私は今冷静でいられてるのだろうか。


「私、一人で行きます。場所を教えてください」

「それはダメだ。一人で行かせるメリットがない」

「被害が私だけで済みます。それに私のミスは、私が挽回すべきです」

「そんな古い考え捨てろ。いいか、お前が一人で行くならお前を置いて行く」

「なぜ……」

「矛にはなり得るが同時に盾にはなりきれない。だからお前が矛の時は、他の奴らが盾になる」

「それは、他の人たちを犠牲にしてでも戦えってことですか?」

「……どちらにせよ、智代子嬢を助けないと俺ら全員の首が飛ぶんだ。だからお前ら、死ぬ気でやれ」


 大介がそう言うと、紫たちはこくりと頷く。


「智代子さんは、いい子ですから……千枝、見捨てたくないです」

「女の子が泣いてるなら助けないとね。男の名が廃るってものさ」

「チョコちゃんだけじゃないっス。沙紀さんのためにも自分達は戦うっスよ」

「皆さん……」

「そういうこった……では、敵の場所を伝える。なに、作戦は簡単だ」


 大介は丸がついた地図を見せた。そこに、智代子がいるのだろう。ごクリと、誰かが生唾を飲み込んだ。


「智代子嬢を取り返してこい」


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