秘密会議よ。
「始めましょう」
麻里の言葉に真夏と愛佳が頷く。
ここは麻里の家のリビング、期末試験が終わり試験休みに入った愛佳の帰宅を待って始まった秘密会議である。
議題はもちろん、
「まさか川井さんが謙一をね...」
驚いた様に呟く麻里。
川井涼子の事を余り分からない麻里にとって謙一に好意を抱いているのは意外であった。
川井涼子は敷島香織から話を受けた翌日に愛佳や麻里、真夏の3人にメールを送った。
それは衝撃の内容で、
『香織は謙一が好きだが告白はせずに後を私に託した。
私も謙一が好きだが香織の事を思うと先に進んでいいのだろうか?』
そんな内容だった。
「私、謙一は香織ちゃんと付き合うとばかり思ってたよ」
真夏にとっても今回の事は驚きだった様だ。
「私は涼子ちゃんが謙一に好意を持ってるのは薄々気づいてたけどね」
愛佳だけは余り驚く事なく事態を受け止めていた。
「香織ちゃん可哀想...」
真夏が悲しそうに呟く。
「そうね、恋愛に朴念仁な謙一が変わったのは敷島さんのお陰よ。なのに黙って卒業するなんてあって良いの?」
「良くないよ麻里ちゃん!」
「真夏!」
「麻里ちゃん!」
何故か手を握り合う2人、完全に謙一を秀一に香織を自分に置き換え考えていた。
「香織ちゃんの気持ち、謙一は本当に気づいてないのかな?」
「どういう事、愛佳?」
「だって謙一は香織ちゃんに説得されて生徒会に入ったでしょ?
光希ちゃんの件でも直ぐに香織ちゃんに連絡したし、頼られても嫌な顔ひとつせずに対応してくれる香織ちゃんが好意を持ってないと謙一は思うかしら?」
「確かに...」
「それもそうね...」
「だから謙一が香織ちゃんに甘えるのはお母さんの幻影だけとは思えないの。
香織ちゃんの好意を謙一自身少し気づいてるんじゃないかな?」
愛佳の推理に真夏達は考えこんでしまう。
確かに謙一が香織の好意に気づいていれば次に涼子と付き合うとは思えなかった。
「謙一のお母さんか」
「まあ、あれは無いね」
「本当、知ってる私達からすればね」
謙一の母を知る3人は顔をしかめる。
『私の居場所はここじゃない』そんな言葉を小学生の息子達に言い放ち家族を棄てた人、それは唾棄すべき行為として3人の心にも刻まれている。
「謙一荒れたもんね」
「うん荒れたね、謙二も」
「私の母さんが居なかったら今頃2人共とんでもない人間になってたよ」
母に棄てられ荒む2人を秀一の母は何かと助けた。
ご飯を誘ったり家に呼んだりと辛さを優しさで包み込んだのだ。
「敷島さんに母性を感じたのは秀一の母に似ている所があったからかな?」
「げ!」
麻里の言葉に真夏は思わず嫌な声を出す。
しかし2人は立ち直ったのは事実である。
謙二が真夏に惹かれ始めたのもこの頃だが。
「それじゃ涼子ちゃんの芽はないの?」
真夏は苦しげに呟く。
「涼子ちゃんはどちらかと言うと謙一のお母さんにほんの少しタイプが似てるけどあんな屑な人じゃないから絶対にチャンスはあるわよ」
「それが敷島さんが感じた違う母性かな?」
「きっとそうだよ、涼子ちゃんが素直になったらって事だよ」
「やっぱり素直が一番よね」
「う...」
「...麻里ちゃん」
輝く笑顔で笑う麻里にたじろぐ愛佳と真夏。
「まあ涼子ちゃんの事は4月に入ってからよね」
「そ、そうだよ愛佳ちゃん!」
何とか話を変える2人。
「それじゃ敷島さんはどうするの、もうすぐ卒業しちゃうよ?」
「それは...」
「どうしよう...」
「無理したら駄目と私は思うんだ」
麻里は静かに話始めた。
「無理したら苦しいだけよ、思考が曇って袋小路に入っちゃう。
最後は...病むよ」
重い言葉だ。
病んでいた麻里の言葉だけに真実味があった。
「それじゃどうしたら?」
「けじめよ」
「けじめ?」
「そう自分へのけじめ、1つの区切りね」
「それって告白?」
「告白じゃなくても良いの、素直になるだけで救われるものよ」
「でもどうやって?」
「敷島さんと話をする必要があるわね」
「誰が?」
「私がするわ」
「麻里ちゃんが?」
「ええ、恋に病む人間を見たくないの」
麻里の強い決意に香織の事は任せる2人。
「それじゃ涼子ちゃんに私が話すね」
「ええ頼んだわよ愛佳」
愛佳の言葉に麻里が頷いた。
「それじゃ私は?」
「真夏は山下さんをお願い」
「そうね桜ちゃんをお願いね」
「は?」
突然山下桜の事を言われ真夏は混乱する。
「私達は山下さんに助けられた。
でも私達は山下さんに恩返しは出来ない」
「ええ、秀ちゃんが好きな私達が桜ちゃんに感謝の言葉を口にしたら彼女は辛くなる」
「私も兄ちゃんが好きだよ!」
疎外感から思わず真夏の声が大きくなる。
「分かってるよ真夏ちゃん、でも秀ちゃんの妹だから出来る事が有る筈よ」
「もちろんよ真夏、でも山下さんの為にお願い」
「分かったよ、元々恩返しはしなければって考えてたし」
膨れっ面で真夏は了承する。
「真夏は家に帰ったら秀ちゃんと一杯甘えられるじゃない」
「そうよ休み中ずっと秀一と一緒でしょ?
羨ましい限りよ」
「そうだね!」
忽ち機嫌の直る真夏、その時携帯がメールの着信を告げた。
「あれ?兄ちゃんからだ」
「「何ですって?」」
『兄ちゃんから』その言葉に2人は食いつく。
「母さん夜勤が入ったから夕飯頼むって」
秀一は全てにおいて器用だ、しかし料理は出来ない。
好きな人を落とすには胃袋を掴むのが一番と信じる3人が幼少期から秀一に料理をさせなかったのだ。
「...麻里ちゃん」
「分かってるわ愛佳」
熱い視線を交わす2人。
「...まさか」
「真夏泊まりに行くわよ」
「先ず買い物に行きましょ」
「やっぱり」
「早く行きましょ、秀一を待たす訳にはいかないわ」
「そうよ急いで真夏ちゃん」
愛佳と麻里はいつのまにかボストンバッグを肩に掛けて真夏を急かす。
バッグの中にはお泊まりセットが入っている。
不測(?)の事態に備えてお互いの家に常備されているのだ。
「全く愛佳ちゃんと麻里ちゃんは」
そう言いながら笑顔になる真夏だった。




