そりゃ凄いね。
あの事件から1週間が過ぎた。
「本当にごめんなさい!」
秀一の家のリビングに入るなり海老名光希が皆に頭を下げる。
「止めなよ、光希ちゃん頭を上げて」
真夏が光希の頭を上げさせる。
秀一に謙一と謙二、愛佳や麻里も頷く。
同じ頃、今回の騒動で海老名和貴と仲間の2人の3家族は秀一の母と謙一達の父親に弁護士事務所で謝罪をしていた。
光希はそれには同行せず1人謝罪に訪れていた。
「まさか光希ちゃんの兄があの時の奴だなんてね」
真夏が呆れた顔で呟く。
あの時、それは秀一が中学時代山下桜を苛めていた事を告発する為教育委員会に行った話である。
苛めの張本人こそ海老名和貴であった。
「情けないよ...」
力無くうつ向き涙を流す光希に秀一達は和貴に怒りを覚えた。
「あいつらはまだ勾留されているの?」
愛佳の問いに光希は無言で頷いた。
「まだ何か他にやってたのか?」
謙一の語気が少し強くなる。
山下桜の心の傷を知る謙一や秀一は当然である。
「警察に押収されたあいつのスマホに写真のデーターが残ってたの...」
「写真?」
「血だらけで土下座する裸の男達の写真です」
「ほう裸の」
謙一が驚いた顔で呟き、女達は顔をしかめた。
「何でも彼女を寝取られた腹いせに激しい暴行を加えていたそうです」
「何故わざわざ写真を撮っていたんだ?暴行の証拠になるだろ?」
「まあ脅迫のネタだな」
秀一の疑問に謙一が答えた。
「脅迫?」
「謙一さんの言う通りです。あいつ等は『写真をバラ撒かれたくなかったら』と金品を脅し取っていたそうです」
光希の言葉に皆唖然とする。
まさかここまで腐った連中と思わなかったのだ。
「暴行に脅迫か、俺達が被害届を出さないとしても年少か鑑別所は避けられんな」
「そ、そんな...」
謙一の言葉に光希の悲痛な声と嗚咽が悲しく部屋に響いた。
「光希ちゃん、静嵐高校どうする?」
「...諦めるよ」
「諦める?」
「兄がこんな事したんだよ?静嵐どころか、どこの高校が入れてくれるの?」
「そ、そんな...」
「ごめんね真夏ちゃん、一緒に行けなくて...」
「光希ちゃん...」
真夏と光希の啜り泣く声が虚しく部屋に響く。
「謙一」
「分かっとるよ」
秀一の言葉に謙一は頷き携帯を取り出した。
「すまん少し席を外すぞ」
謙一は立ち上がり別室に移動する。
「謙一何処に電話を...」
「まあ待て」
麻里が聞こうとするのを秀一は止める。
愛佳は誰に電話をするのか分かったようだ。
十数分後何故か顔を真っ赤にした謙一は部屋に戻って来た。
「海老名さん大丈夫だ」
「え?」
「静嵐高校は事情を聞いてあんたに問題無かったら門前払いはしないとさ」
「良かったな」
「良かったわね光希ちゃん」
笑顔の謙一と秀一、愛佳だが真夏達は唖然とする。
「謙一、一体誰に電話を?」
「麻里ちゃん、謙一さんは敷島さんに連絡したのよ」
「香織ちゃんに?」
「そうよ真夏ちゃん」
意外な名前に麻里と真夏は理解できない。
「敷島さんのお父さんは来年から新しい理事長就任が決まっているんだよ」
「うむ、たが受験はパスせねばならんから勉強は気を抜けんぞ」
愛佳と謙一は優しく微笑んだ。
「良かったな海老名さん」
謙二も優しく微笑み光希に近づいた。
「ありがとうございます!」
「うお!」
感極まった光希が謙二に抱き着いた。
「こ、こら止めろ離してくれ」
困惑しながら腕を離そうとする謙二だが何故か小柄な光希を離す事が出来ない。
「な、何故だ!」
「謙二、光希ちゃんは去年の全日本中学柔道の52kg級2位だったんだよ」
真夏から驚愕の事実が告げられた。
「な、何だと!」
「成る程」
「納得ね」
「真夏ちゃん階級まで言う必要ある?」
こんな時でも冷静な麻里だ。
「おい秀一、兄貴、何とかしてくれ!」
「すまん」
秀一達は動けなかった。
謙二が見たものは危険を察知した麻里と愛佳、真夏によって両腕と体を後ろから抱き止められている秀一と石の様に腕を組み目を瞑る謙一の姿だった。
謙一は動かなかった、いや動けなかった。
何故なら次のターゲットにされる危険を同じく感じていたからだった。
「すまん謙二...」
謙一は静かに呟いた。




