どっちかね?
「貴様!真夏を離さんか!!」
謙二の怒号が響いた。
「いかん...」
謙一は目の前の光景に舌打ちする。
1人の男が女の子の襟首を掴み、もう1人の男が真夏の腕を掴み腰に手まで回していた。
謙一1人で2人(秀一と謙二)を止める事は先ず無理だ。
去年は暴走しそうな秀一を幾度か止めた謙一だが紙一重の連続だった。
謙二の体は謙一の193cmより1回り小さい190cm、何より怪我から回復したばかりで体調も万全では無いだろう。
それゆえ謙一は秀一の後ろに駆け着けた。
「秀一!」
後ろから呼び掛ける。
「なんだ?」
秀一は振り返らず、しかし意外と冷静な声が返って来た。
「無茶はするなよ」
「分かってる」
秀一のしっかりした返事、どうやらキレてない様だ。
「骨の2、3本は覚悟してもらう」
(ダメだキレてる)
謙一は先ず秀一を止めようと1歩踏み出す。
「兄ちゃんダメだよ!」
真夏の悲痛な声に秀一の背中がピクリと反応すした。
「どこ見てんだよ!」
秀一と真夏のやりとりを見ていた謙一を背後から襲う声がした。
(わざわざ叫びながら警棒を振るとは律儀な奴め。
これがあの屑(北川武志)なら躊躇無く木刀で俺の頭を振り抜いただろう)
謙一は冷静な頭で三段式に伸びた60cm程の特殊警棒を難なく掴んだ。
「は、離せ!」
「ふん!」
謙一は警棒を引き寄るが男は尚も離さない。
さっさと離せば良いのだが男は必死に警棒から手を離さず謙一に吊り上げられた挙げ句振り回され放り投げられた。
「返せ高かったんだぞ!」
路上に投げ出された男が喚いた。
謙一は表情一つ変えず男の警棒をくの字に曲げる。
「ああ!俺の警棒が!」
謙一が警棒を返してやると馬鹿は絶叫して動かなくなり1人減った。
「兄ちゃん私より光希ちゃんを、バカ兄から守ってあげて!」
「く、来るな!」
『バカ兄って事は掴まれてるのは妹だな』
秀一と謙一は即座に理解した。
「お、お前は!?」
男が秀一の顔を見て固まった。
「秀一知り合いか?」
「知らん」
「ふざけるな俺の人生を滅茶苦茶にしやがって!」
激昂した男が光希を謙一の方に投げ捨てた。
「よっと」
謙一は素早く光希を受け止めた。
腕の中で呆然としているが怪我は無いようだ。
「謙一!」
「大丈夫だ怪我は無いぞ」
「そうか」
秀一は振り返り確認する。
「余所見すんな!ふざけやがって!」
更に激昂した男が秀一に迫るが相手にならないと謙一は判断した。
秀一が体を変えるだけで男は勝手に壁に激突して失神した。
何て事は無い男の自爆だ。
「や、止めろ!来るな!」
その一方で謙二が真夏を抱えた男に迫っていた。
「こりゃいかんな」
謙二は真夏が好きだ。
真夏の警護を頼まれた前回、真夏は脱臼、謙二は骨折。
謙二の落ち込みは謙一の涙を誘った。
正に今回は捲土重来、挽回のチャンスだ。
それだけにやり過ぎが怖い。
「謙二!!」
謙一の呼び掛けに返事が無い。
謙二の後ろに謙一は回ろうとするが光希がしがみつき動きが取れない。
(何て力だ、意外とこの女やるな...)
謙一は意外な光希の力に驚く。
「秀一!」
「謙二なら大丈夫だ」
「何が大丈夫だ?」
焦る謙一の心配を余所に秀一は謙二から距離を取る。
「痛っ!」
男の腰に回されていた手首を真夏が掴み、手が離れた。
「謙二!」
「おお!」
秀一の声に謙二が走った。
「糞が!」
男の正拳が謙二の腹に当たる。
「ああ...」
謙一にしがみつきながら様子を見ていた光希が呟き体がピクリと動いた。
「成る程」
今度は謙一が呟く。
秀一が安心する訳である。
あんな拳では謙二にダメージは与えられない。
寧ろ男の方が...
「な、何で...」
手首を押さえて男がしゃがみこむ。
余程痛かったと見える。
「俺の番だ」
「や、止めて」
「いいや許さん、真夏の腰に手を入れやがって」
(そっちか、痛めた真夏の腕を掴んだ方では無いのか?)
謙一は弟の純情に苦笑いを浮かべた。
「謙二やり過ぎるなよ」
秀一の声に謙二も少し苦笑いを浮かべる。
どうやら我を忘れてない。
「ふん!!」
気合いと共に伸ばした謙二の手が男の顔に食い込む。
男の顔が真っ赤に変色した。
「ア...ァ...」
謙二の手首を押さえて抵抗していた男の手がダラリと落ち気絶した。
「動かないように!」
気がつくと数人の警官が走って来るのが見える。
近所の誰かが通報したと思われた。
「面倒な事になったかな?」
「大丈夫です」
謙一の呟きにしがみついていた光希が呟き電柱を指差した。
「成る程な...」
光希が指差した先にある防犯カメラを見て安堵した。
これで捕まる事は無いと謙一は確信した。
予想通り秀一達は無事警察から解放され、襲撃した男3人は警察に拘束されるのだった。




