現役だね。
「居るか?」
「おうどうした?」
元日の昼下がり秀一は謙一の家を訪ねた。
「ちょっと家に居づらいんだ」
「なぜだ?」
「うん制裁がな」
「制裁?」
秀一の言葉に謙一は首を傾げる。
その頃秀一の自宅で麻里と真夏による愛佳への制裁が行われていた。
愛佳の叫び声に秀一は背筋が寒くなり逃げて来たのだ。
「まあ上がれ」
秀一の態度でたいした事では無いと思った謙一は家に上げる。
実際愛佳に対する制裁はじゃれあう様な物で、
終われば3人ともけろっとしている。
「お邪魔します」
「兄貴、誰か来たのか?」
秀一が家に上がると謙二が奥から顔を出した。
「よ」
「秀一久し振りだな、元気か?」
「ああ、怪我はどうだ?」
「もう大丈夫だ、ギプスも取れたし元通りだよ」
腕を軽く振る謙二の様子に秀一は安堵する。
去年は真夏を助ける為に大怪我を負ってしまった事をずっと気にしていた。
「ま、真夏は大丈夫か?」
「ああ元気だよ、謙二が助けてくれたお陰だ」
「や、止めろよ、俺は役にたたなかったし」
頭を下げる秀一を謙二は慌てて止めさせた。
「まあ、入れ。今お節を食べた所だ」
「おおそうだ、久し振りに来たんだゆっくりして行け」
2人に促され秀一はリビングに入ると謙一達の父親が笑顔で酒を飲んでいた。
「秀一君おめでとう」
「おめでとうございます。去年はお世話になりました」
秀一は謙一達の父親に頭を下げた。
「気にしなくていいよ、それに夏休みは沢山の女の子と一緒に仕事も出来て私も楽しかったよ」
笑顔で答えた。
「謙一達にも去年は本当に世話になった」
秀一は改めて2人にも頭を下げる。
「止せよ」
「ああ親友だろ?」
斎藤兄弟は困惑気味に秀一の体を起こそうとするがピクリとも動か無い。
「む?」
「やるな?」
忽ち力比べが始まった。
「来い!」
「おお!」
なせが腕相撲、アームレスリングでは無く腕相撲協会の制定する日本の腕相撲だ。
「謙二、やるな...」
「ああ、もう怪我は癒えたぞ...」
肘さえ浮かさなければ体を使ったりしてもOKのルール。なかなかの迫力だ。
「ふん!」
「グア!」
「それまで!」
秀一の気合いと共に謙二の手の甲は机に着いてしまい勝負は終わった。
「親父もどうだ?」
「僕はいいよ、酒も入ってるから」
謙一に聞かれた父親は静かに首を振る。
「親父...」
「おじさん」
謙二と秀一は奥の部屋から小さなクッションと握り棒2つ持ってきて小さな机にセットした。
そうアームレスリングのリングが出来上がった。
「やるかね...」
父親は立ち上がり上着を脱ぎ捨てる。
正にゴリゴリのマッチョボディが姿を現した。
「さあ来い!!」
「俺からだ!」
謙一も負けじと上着を脱ぎ捨てた!
何故脱ぐ必要が?
それは意味の無い愚問だ。
彼等は脱ぎたいから脱ぐのだ。
「まだまだ青いわ!」
10分後右腕を抑えた謙一と謙二、秀一の3人が床に倒れ伏していた。
「親父まだまだ現役だな」
「さすがは元日本チャンプ」
「参ったぜ親父」
漸く立ち上がり服を着た3人は謙一達の父親を讃えた。
「すまん熱くなったよ」
少し恥ずかしそうな父親だ。
その後は雑煮を食べたり和やかな時間が過ぎた、
「そろそろ帰ります」
秀一は立ち上がりコートを手にした。
「おや?」
「どうした?」
「携帯が震えてる」
ポケットから携帯を取りだし画面を見た。
「麻里だ」
「早く出ろ」
「分かった、もしもし」
『あ、秀一?やっと繋がった』
少し焦った麻里の声に秀一に緊張が走る。
「何かあったのか?」
『真夏が』
「真夏がどうした?」
『真夏が友達を送って行ってから帰って来ないのよ』
「「何!」」
隣で聞いていた謙二と声が被る。
「秀一、ハンズフリーにしろ」
「は?」
「貸せ」
謙二は秀一から携帯を受け取りハンズフリーを設定した。
「麻里俺だ」
『謙二?何故秀一と?』
「いいから状況を教えろ」
『分かったわ、真夏は同級生を送る為に1時間前に家を出たけど戻って来ないの』
「そのまま遊びに行ったんじゃないのか?」
『携帯が』
「携帯?」
『真夏の携帯が自宅だから、それは無いわ』
「確かにな」
真夏は携帯をいつも肌身離さず持っている。置いて行く事自体稀だ。
『その同級生って誰だ?』
横手から謙二が聞いた。
「海老名光希って言ってたわ」
「海老名光希?」
「知ってるか?」
謙一は秀一に聞いた。
「知らん、麻里は?」
『ごめんなさい私も愛佳も家までは知らないの』
「分かった...」
謙二が静かに呟く。
「海老名光希だな、俺は自宅を場所を知っている。
前回の護衛の時に1度真夏に聞いた」
「そうなのか?」
「ああ、『この角に親友の光希ちゃんの家がある』ってな」
「行くぞ謙二!」
「ああ!」
携帯のスイッチを切り秀一と謙二は家を飛び出して行く。
「謙一」
「分かってるよ」
父親の声にやれやれと謙一は立ち上がる。
「秀一と謙二か、俺1人で止められるかな?何もなければ良いが」
そう呟きながら謙一は2人の後を追った。




