兄ちゃんは特別だよ!
「真夏いる?」
玄関のインターホンが鳴り元気な声が聞こえた、
「いるよ、光希ちゃん、少し待っててね」
私はインターホンのマイクに向かって元気に返事をした。
「あら真夏お友達?」
制裁を終えた麻里ちゃんが聞いた。
「うん、中学の親友の海老名光希ちゃんだよ!」
「珍しいわね真夏がお友達を呼ぶなんて」
麻里ちゃんは少し驚いた顔をした。
確かに私が友達を自宅に呼ぶ事は珍しい。
何故なら兄ちゃんを友達に見せる事を警戒しているのだ。
数年前自宅に来た私の友人が兄ちゃんを見てしまい毎日入り浸られて麻里ちゃんや愛佳ちゃんにイエローカード(警告)されて以来友人を自宅に呼ぶ事は控えていた。
「うん。だから呼んだ訳じゃないんだけど」
「どういう事?」
「忘れ物を届けに来てくれたの」
「忘れ物?」
「この前年越しコンサートの後光希ちゃんの家に寄った時に忘れて帰っちゃったの。タオルとペンライトを」
「そうなの、なら早く行きなさい」
「はーい」
麻里ちゃんの許しが出たので私は玄関に走った。
「お待たせ!」
「大丈夫よ、はい真夏ちゃん」
光希ちゃんはタオルとペンライトが入った紙袋を渡してくれた。
「ごめんね光希ちゃん」
「いいのよ、この前は夜通し喋っちゃったしね」
「真夏ちゃん玄関じゃ寒いでしょ?上がって貰えば?」
「良いの麻里ちゃん?」
「良いわよ、秀一も居ないし」
成る程兄ちゃんが居ないからお許しが出た訳か。
「良かったら上がって」
「良いの?真夏ちゃん家に上げるの嫌がるのに」
「今日は特別!」
私は満面の笑みで光希ちゃんを自宅に上げた。
「おじゃまします」
「いらっしゃい」
「え?真夏ちゃんってお姉さんいた?」
「ううん、いないよ」
「え?それじゃお母さん?」
「は?」
光希ちゃんのボケに麻里ちゃんの顔に怒りの色が滲んだ。
「私16歳なんだけど...」
ヤバイ麻里ちゃん笑ってるよ、あれは怒りを隠している顔だ。
「もう冗談ですよ冗談」
まるで危険を察知出来てない光希ちゃんに麻里ちゃんは氷の笑顔で呟いた。
「光希ちゃんか...覚えたわよ...」
「あれ?真夏ちゃんあの隅で踞ってるお尻は?」
光希ちゃんは部屋の隅で踞ってる物に気づいた。
「ああ、あれは愛佳ちゃんだよ」
「何で頭を抱えて呻いてるの?」
「制裁よ」
「制裁?」
光希ちゃんの質問に無機質な声色で麻里ちゃんが答えた。
「そう制裁、あの子はルールを破ったの」
「な、なんか怖いね」
「大丈夫だよ!すぐに元気になるから」
私は光希ちゃんに気にしないよう言った。
「先程聞きましたが16歳と言うことは高校生なんですか?」
「そうよ、高校1年よ」
「へーどこの高校ですか?」
「ち、ちょっと光希ちゃん」
いきなり明け透けに聞く光希ちゃんを止めた。
光希ちゃんは良い子なんだけど人と少し距離を測るのが苦手みたいだ。
「良いわ教えてあげる。私は池島高校で愛佳が静嵐高校よ」
「池島と静嵐ですか、凄いですね」
「ありがとう」
麻里ちゃんの答えに目を輝かせる光希ちゃんだけど...
「でも意外だな、池島高校って静嵐高校より偏差値落ちますよね。麻里さんって凄く頭良さそうなのに」
「な?」
あぁ光希、何て事を...それを言ってはいけないよ。
「真夏、制裁良いかな?」
「ダメ!」
笑顔で右手を開いて歩み寄る麻里ちゃんを私は必死で止める。
「あ、私立を落ちて池島になったんですよね、納得、納得」
お願い光希ちゃん黙ってて!
「真~夏~」
「ひえ!」
「や、止めて、麻里ちゃん」
その時愛佳ちゃんが立ち上がり麻里ちゃんを止めた。
額にアイアンクローの痕を付けたままで。
「あ、静嵐の人」
光希、お前は怖くないのか?
「あの愛佳さんって静嵐高校なんですよね?」
「え、そうだけど?」
「私も真夏ちゃんと静嵐高校にいく予定なんです。どんな高校ですか?」
「は?」
「光希ちゃん今それを言うの?」
「だって、先輩に聞けるチャンス何てなかなか無いよ」
「まだ受かってないでしょ!」
「...受かるよ」
「光希ちゃん?」
突然光希ちゃんの声が真剣なものに変わる。
「受かる。受からなくちゃ駄目なんだ」
「どうしたの?」
「何か理由がありそうね」
愛佳ちゃんや麻里ちゃんも椅子に座り真剣な表情で聞いた。
「兄が...」
「お兄さん?」
「兄が帰って来るんです」
「帰ってくるって光希ちゃんお兄さん居たの?」
「ええ真夏ちゃんには言って無かったよね、私には3歳上の兄が居ます。最悪の」
「最悪?」
「ええ、昔から乱暴で気に入らなかったら私を叩いたり蹴ったり、最悪の兄です」
「暴力は駄目だけど兄って妹や弟にするってたまに聞くよね」
愛佳ちゃんが呟いた。
確かに兄弟のいる友人から聞く事はある。
でも兄ちゃんは私を叩いた事は1度も無い。
道場で稽古の時でさえ無かった。
「あいつは私だけじゃないです!両親に手を上げるの事はしませんが知り合いやつるんでいる人には平気で暴力を振るう奴です!」
光希ちゃんは苦しそうに顔を歪ませた。
「でも私何度も光希ちゃんの家に行った事あるけど1度も見た事無いよ」
「ええ、今あいつは黒春高校に居るからよ」
「「「黒春高校?」」」
私と麻里ちゃん、愛佳ちゃんの声が揃う。
黒春高校、それは麻里ちゃんが病んでいた頃に兄ちゃんの為に見つけた最低の偏差値、最悪の人間が集う全寮制の男子校だ。
「その様子なら黒春高校の事は知っているみたいね」
「あ、まあね」
「卒業するのあいつ...」
「光希ちゃん...」
「帰って来るのよ!だから私は静嵐高校に逃げるの!本当は両親と居たいよ!でもあいつが帰って来たらまた私は殴られる、嫌だよ!」
「でも黒春高校で更生したかも...」
「してないよ!中学の時に女の子を苛めて黒春に放り込まれたけど、
この前の休みに地元に帰って来た時に、気に入らない奴をぼこぼこに殴って血だらけで家に帰って来たし。
あいつが更生なんてするもんか!
...いいな、真夏ちゃん」
「何が?」
「素敵な兄さんで」
「え?」
私は驚愕する。光希ちゃんに兄ちゃんの事を話した事は...あったな...光希ちゃんに限らずクラスの子全員に兄ちゃん自慢したな。
「真夏ちゃん?」
いや愛佳ちゃん怖いよ。
「それにすっごく格好良いいし」
「へ?何で光希ちゃん私の兄ちゃんの姿知ってるの?」
「この前見せてくれたじゃん」
「この前?」
「コンサートの後、私の部屋で」
「ああ!」
しまった、あの日私はテンションMAXで夜通し喋ってついスマホの待ち受けの兄ちゃんを...
「真~夏~」
この後私が制裁を喰らったのは言うまでもない。




