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間違ったね。

麻里と別れて秀一は歩き出す。

少し麻里の様子は気にはなったが、すぐ後ろに真夏の隠れている気配を感じていた。


「後は頼むぞ」


秀一は前を向いたままそう呟いた。


秀一が電車を乗り継いで静嵐高校に到着したのは昼前だった。


「やっぱり遠いな」


移動時間3時間20分、成る程、毎日の通学は不可能な訳だ。

秀一は学校の敷地内の校舎とは明らかに別の2棟の左側の建物に入った。

愛佳の説明によれば左は男子寮、右は女子寮と聞いたからだ。


「すみません!」


誰もいない玄関で秀一は大きな声で人を呼ぶが誰も返事をしない。

今日は日曜日で学校が休みの為、この寮で直接入寮の手続きをするしかないのだ。


「仕方ない」


秀一は玄関で靴を脱ぎ備え付けのスリッパに履き替えて寮内に上がる。


「すみません!」


秀一は再度大きな寮内に響き渡る声で呼び掛けた。


「誰です...え!」


廊下に並んだ扉の1つが開いて中から出てきたのは1人の女の子だった。

寝起きの様で秀一の前に現れた姿はパジャマ姿であった。


パジャマの下に手を入れてお尻を掻く仕草を見ながら秀一は(真夏が特別だらしないんじゃなくて女の子は一緒なんだ)と妙に納得するのだった。


一方女の子は秀一を見てようやく目が覚めたようで固まってしまった。


「ふむ」


女の子の様子を見て秀一はまず現状把握に努める。


「先程から何度か呼び掛けたのですが」


「あ...今日女子寮の新入生歓迎会でみんな出てます」


いきなりの質問に本来なら女の子が騒ぎ立てるところだが秀一の余りに落ち着いた態度に女子も毒気を抜かれたようだ。


「そうですか」


(ここは女子寮で俺は不法侵入した事になる)

秀一は即座に理解する。

こういう時は逃げたりするのは賢明では無い。

秀一は次の質問に移る。


「あなたはどうしてここ(女子寮)に?」


「私はじゃんけんに負けて留守番になっちゃって」


女の子はそう言いながら少し悲しそうな顔をした。


「そうでしたか」


「はい...」


「頑張って下さい」


「え!?」


秀一は女の子の頭を優しく撫でながら笑顔を向けた。

これは真夏が落ち込んでいる時、秀一によくせがむのだ。


「元気になりましたか?」


「.....」


秀一の言葉に女の子は真っ赤な顔で頷いた。


「良かった、失礼します。」


秀一は女の子に背中を向けて去って行った。

何だかんだ言っても誰かに見られたらまずい事になると思ったからだ。

急いで玄関を出て隣の男子寮に入る。

女子寮との距離はさほど離れておらず幸いにも誰も目に付かなかったようだ。


「すみません」


「はい」


秀一の呼び掛けに今度はすぐ返事があった。


扉が開き中から大きな男が出てきた。

恐らく2メートル近くある体に無精髭の顔だ。


「あれ?」


「おや?」


2人は顔を見合わせる。


「やっぱり秀一か?」


「まさか謙一か?」


まさかの再会だった。斉藤謙一は秀一の祖父の道場に通っていた1年歳上で謙二の兄だ。

秀一は謙一とも親友だった。


「やっぱり秀一か、入寮者名簿に[広田秀一]とあったからまさかとは思っていたんだか...」


「俺も驚いたよ、まさか謙一の学校がこことは...」


謙一は去年高校の寮に入ると秀一は聞いていたが、学校名までは聞いていなかった。


「まあ話は後だ、入寮だろ?手続きの書類は預かっているから上がってくれ、

まずお前の部屋に案内するから。

スリッパは横にあるだろ?靴は横の棚に適当に並べて置けばいい」


「あっ」


謙一の言葉に秀一は自分が靴を女子寮に置き忘れて来た事に気づく。

今秀一の足元はスリッパだ、しかも先程の女子寮のスリッパと色が違う、秀一が履いているスリッパは赤で男子寮のスリッパは青だった。


「どうした?」


「いや別に」


謙一の言葉に秀一は何でもないように返事をする。

(まあ靴に名前が書いてあった訳じゃないし大丈夫だろ。まだ新しかったから、少し残念だ。

靴はもう一足あるし、スリッパは愛佳に頼んで戻しとけば良いか)


秀一はそう考えて今まで履いていたスリッパを鞄に隠すと横にあるスリッパに履き替えた。

秀一は寮の中に誰もいない事に気づく。


「随分静かだな」


「今日寮は留守番の俺だけだ」


「そうか」


「理由は聞かないのか?」


「歓迎会だろ?」


「知っていて今日入寮したのか?」


「すまん」


秀一は謙一に頭を下げながら心の中で『さっき知ったんだ』と弁解した。


「構わんよ、お陰で秀一に会えたし、さあこの部屋だ」


謙一は2階の一番隅にある部屋の扉を開けた

中は8畳のスペースで一人部屋だ。

机とベッドは備え付けられておりトイレまであった。


「中々豪華だな」


「そうだろう、ワンルームマンションみたいだろ」


確かに4畳半にトイレ共同か4人相部屋を想像していた秀一には驚きだった。


部屋の隅には段ボールが1つ箱置かれていた。

前日に運送屋に頼んだ秀一の荷物で中身は秀一の本や制服、後は携帯電話だ。


「ほれ、入寮の書類だ書いてくれ」


謙一は秀一の机に数枚の紙と筆記具を並べた


「分かった」


秀一は椅子に座り書類を書き始めた


「書きながらでいいから聞いてくれ、簡単に説明するから」


「ああ」


「寮のルールの事は書類に書いてあるから読めば分かるが、気を付けるのは女子寮だ」


「女子寮?」


「ああ間違っても近づくな、外で女子に会うのは構わんが女子寮に決して近づくな」


そう言う謙一の顔は苦虫を噛み潰した様な顔だった。


「そう言う寮規則か?」


秀一は気になって聞いてみる。


「勿論規則じゃ男子が女子寮に入る事は原則禁止だ、しかし、それだけじゃない」


「ないのか?」


「まあ秀一もすぐ分かるさ。

ところで何故秀一が静嵐高校に?謙二の話じゃ池島に落ちて黒春高校と聞いたぞ?」


「その様子じゃ俺の事を大体は謙二から聞いているみたいだな、まあ教えておくよ...」


謙一の質問に溜め息を吐きながら秀一は今までの経緯を話した。


「そうか、麻里が...大変だったな」


「まあな」


「それなら謙二に言わない方が良いかな?」


「いや別に構わないよ、あいつなら喋ったりしないだろう」


「そうか、分かった。謙二には俺が連絡しておくよ、俺は副寮長だから何か困った事があれば俺に言ってくれ」


「ありがとう」


「それじゃな」


謙一はそう言うと秀一から書類を受けとり部屋を出ていった。

秀一は1人残った部屋で荷物の箱を開けた。

携帯のバイブに気がつく。秀一は携帯を見た。


「何だこりゃ?」


ラインやメール、着信が山の様に貯まっていた。全て真夏と愛佳からだ。


(安易に返信すると大変になる)


そう考えた秀一は一言だけ返した。


『すまん』


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