そんな事があったのかね。
秀一が北川達を追って裏口に走る。
謙一は携帯で警察と救急車を呼ぶ。
外からバイクのエンジン音が聞こえた。
「待て!」
秀一の大声が聞こえる。
やはり北川達は移動手段を用意していた。
「玲美しっかりして!」
麻里は意識を失っている玲美を抱き抱えて叫んでいた。
「麻里落ち着け、今救急車を呼んだから」
謙一は取り乱す麻里から玲美を離して床に寝かした。
口の中の血で窒息しない姿勢をさせて脈を取り呼吸を確認する。
やがて救急車とパトカーが到着した。
謙一は警官と救急隊員に状況を説明する。
一方の麻里は玲美の傍を離れないでいた。
そして救急車に麻里と謙一は一緒に乗り込み病院に向かう。
この地域で救急病院は秀一の母親が勤務する病院だ。
やがて救急車は病院に到着した。
玲美はキャスターに乗せられたまま処置室に運ばれ、謙一と麻里は再度警官に詳しく状況を聞かれた。
「謙一君一体何があったの?」
処置室から出てきた秀一の母親が状況を聞いて来る。
謙一は分かっている限りの状況を説明した。
「玲美ちゃんまで巻き込まれるなんて...」
やはり秀一の母親もショックを隠せないようだ。
「玲美はどこですか!?」
そう叫びながら病院に走り込んで来た2人の男女。
恐らく玲美の両親だろう。
警官が2人を呼び止め説明をしている。
「あいつめ!」
玲美の父親らしき男の怒号が響いた。
「北川さん!」
秀一の母親が玲美の母親らしき女性に駆け寄る。
玲美の怪我の詳しい説明をしている様だ。
「何で?何でよ!」
玲美の母の悲痛な声が病院に響いた。
「おばさん...」
麻里が玲美の母親に駆け寄る。
「麻里ちゃん...」
「すみません。私がもう少し早く駆け着ければ」
麻里は玲美の母親に頭を下げる。
玲美の母親は麻里を睨み付ける。
しかし血だらけの麻里の姿に何も言えない様だ。
「やめろ母さん!犯人は武志だ。中山君は玲美を助けてくれたんだ。もし駆けつけるのが更に遅れていたら玲美の状況はもっと酷くなっていたはずだ」
玲美の父親はそう言って母親を制した。
「そうね、そうよね...」
玲美の母親は必死で感情を抑え俯いた。
「北川玲美さんの意識が回復されました」
処置室からそう言いながら看護師が出て来た。
「話は出来ますか?」
警官が看護師に尋ねる。
「はい先生の許可が出ましたから」
警官と玲美の両親、秀一の母親は処置室に入った。
謙一と麻里は処置室前の長椅子に並んで座る。
「麻里お前玲美を恨んでいたんじゃ無かったのか?」
謙一は静かに麻里に尋ねた。
「...ええ、恨んでいたわ。私から秀一を奪った玲美を死ぬほどね」
「そうか」
「私は玲美と元々は友人、親友と言ってもよかった...」
「そうだったのか?」
意外な麻里の言葉に謙一は驚いた。
「中1の時に私と玲美は知り合ったの。
私が秀一の事を相談している内に玲美も秀一の事が好きになっちゃって...」
「俺達兄弟と違って秀一は女にモテるからな」
謙一の言葉に麻里は無言で睨む。
「す、すまん」
「いいの、本当の事だから。
秀一を好きになったって玲美から聞いた時、私は秀一が断ってくれると思って軽い気持ちで『それなら告白すれば?』って言っちゃったの。
私や愛佳も秀一が好きだから
『少しは私達の事も秀一、意識してよ』って自分勝手よね」
「そうだな」
謙一は秀一が玲美と付き合っていた事は謙二から聞いた。それは謙一にとっても意外な事だった。秀一が付き合うのは愛佳か麻里のどちらかだとずっと思っていたからだ。
「結局私が秀一と玲美を焚き付けたのよ。
それで2人は付き合い始めて...秀一を奪われ愛佳や真夏にも悲しい思いをさせて...だから玲美を浮気させる様に仕向けて...
秀一達の破滅も願って...私って最低な奴よね」
「そうだな確かにお前は最低だったな」
謙一は麻里に言った。
「だが麻里お前は秀一に謝った、
心の底からな。
愛佳や真夏の助けもあっただろうが、お前が本当に心の底から謝罪したから秀一も許したんだろ?」
「うん...」
「秀一が許したなんて俺は今でも驚きだ。
麻里よく頑張ったな」
そう言って謙一は麻里の頭を撫でた。
「ちょっと謙一!」
秀一以外に撫でられ麻里は驚く。
しかし謙一の大きな手に少しだけほっとする。
その時処置室の扉が開いた。
警官や玲美の両親が出て来る。
麻里は慌てて謙一の手から頭を離した。
「麻里ちゃん」
処置室から秀一の母親が声を掛ける
「はい」
「中に入って」
「え?」
「玲美ちゃんが呼んでるのよ」
秀一の母親の言葉に麻里は動揺する。
「行って来いよ」
謙一はニッコリ笑って麻里を送り出す。
「分かった」
麻里は意を決した顔で立ち上がり処置室の中に入った。
中でどんな話がされたか謙一には分からないが
『今の麻里ならこれから玲美と向き合う事が出来るだろう』
謙一はそう思いながら立ち上がった。
「ん?」
その時謙一の携帯が震える。
「メール?秀一からか」
謙一はメールを開く。
[数キロ追いかけたが見失った。とりあえず一旦病院に向かう。俺の母親の病院で良いか?]
「ふむ、やはりバイクには勝てんか」
謙一は秀一のメールを読みながら呟く。
[ああそうだ早く来い]
それだけ打ち込み秀一に送信した。
「さて秀一が来るまで謙二の病室でも覗こうかな」
そう言いながら謙一は病棟に歩き出した。




