やっぱり馬鹿だね。
3日後。秀一と川井先輩は再び演劇部の部室を訪れる事になった。
先日の採寸結果で必要な生地の長さが分かったので布地の店に買いに行く為だ。
店にある生地は高い場所にあったり薄手の巻き生地は意外に重かったりする為、男手は必要なのだ。
「ごめんね、秀一君」
「いえ力仕事は任せて下さい」
演劇部部室前で秀一はにこやかな笑顔を浮かべながら返事をする。
「うん、今日も良い笑顔ね。さて...」
「止めて下さい!」
川井先輩が演劇部部室の扉に手を掛けた時、部室内から大きな声がした。
「どうしました?」
川井先輩と秀一は急いで扉を開け部室内で見たものは、涙ぐむ演劇部部員とそれを庇う様に立ちはだかる敷島部長、そして笑みを浮かべながら近づく1人の男子生徒だった。
「涼子...」
「香織!大丈夫?」
思わず下の名前で呼び会う2人、どうやら川井先輩と敷島部長は昔からの友人らしい。
突然の侵入者に邪魔をされた形となった男子生徒は川井先輩と秀一の方を向いた。
「誰だい君達は?部外者は立ち入り禁止だよ」
「涼..この人達は服飾部です、今日は生地購入の為に来て貰ったんです」
「服飾部?やっぱり部外者じゃないか、君達早く出なさい」
男子生徒の言葉に敷島部長が答えるが薄ら笑いを浮かべながら川井先輩と秀一に言った。
「あなたも手芸部でしょ?部外者なら一緒でしょ!」
他の演劇部部員から声がするが男子生徒は全く怯まない。
「何を言ってるんだい?手芸部と演劇部は同じだよ、みんな一緒のクラブ、ファミリーだよ」
『こいつ馬鹿か?』
思わず秀一は心の中で呟いた。
「今日だって僕が部室に入るなり部長を始め全員が笑顔で迎えてくれたじゃないか?」
「あなたと分かっていたら笑顔なんか向けませんでした!服飾部の方が見えたと思ったんです!」
「ほう?」
男は女子部員の言葉に目を細めながら秀一を見た。
先程までのニヤついた目ではなく品定めをするような目だと秀一は思った。
「君が服飾部でハーレムの王様気取りの1年生かな?」
男の言葉に周り全員は思った。
(((何言ってんだコイツ?)))
秀一は静かな目のまま男に近づく、背格好は秀一と変わらないが顔と雰囲気は秀一より劣ると周り全員が確信した。
「確かに服飾部では男は俺だけです」
「ふ、下衆が...」
秀一の言葉に嘲る男。
「俺はカチューシャを作る為と言いながら女子の前髪を触ったり、シュシュを作る為と言って女子の後ろ髪を触りません。ましてやコサージュの位置確認と称して女子の体に触ろうとして製作を断られる事はありませんがね」
続いて話す秀一の言葉に男の顔色は見る見る青白くなり次に赤く変色する。
『リトマス試験紙なら酸性だな』
秀一は興味なさげにそんな事を考えていた。
「お前良い度胸してるな...」
男の口調が変わったが秀一はまるで気にしない。
男は更に睨み付けるが秀一は益々気にしない。
「俺の眼光が通じない?剣道5段の俺の眼光が?」
周りに聞こえる様に段位の自慢を挟む男に秀一は呆れ返る。
「あんた、何歳だ?」
「あぁん?」
「歳は幾つかと聞いている!」
突然の言葉と秀一の睨み、男は腰を落とし(抜かして)て怯える。
「じ、16歳、高2だ」
「そうか大体お前が分かったよ、
そろそろ皆さん行きましょう、服飾部のみんなも待ってますから」
秀一は薄ら笑いを浮かべて男から退いて言った。
「ええそうね、待たしては悪いわね」
川井先輩の言葉に呆然としていた演劇部の部員達も我に返る。
「ま、待て!」
部室を出る部員達を追いながら男が叫んだ。
「男、なんか用か?」
「誰が男だ、俺は北川武志だ!」
「北川?」
男の名前に秀一は思った、『やっぱりコイツが北川か』
「俺も付き合ってやるよ」
「いらん!」
北川の言葉に秀一は即答で答える。
周りの部員達も一斉に頷いた。
しかし北川は秀一の言葉を無視して校門までついて来た。
「遅いぞ秀一」
校門には服飾部の部員に混じって斎藤謙一がいた。
高い棚にある生地を取るのに190cmを超える謙一に今日の同行を頼んだのだ。
「すまんな、少しあってな」
謙一は秀一の後ろにいた北川に気がつく。
「北川、お前一体何の用だ?」
謙一がいた事に気づいた北川の顔色が変わる。
「さ、斎藤、何故お前が...」
「頼まれたんだよ、お前こそ手芸部だろ?」
「関係無いだろ!」
北川は謙一の言葉に叫んだ。
「知り合いか?」
秀一は謙一に尋ねた。
「ああ、同じクラスだ」
「気を付けろよ、コイツは剣道5段だってよ」
「剣道5段?」
秀一の言葉に謙一は首を捻る。
「そりゃ無いぞ剣道の段位は次の段位を取るのに数年かかるぞ?5段ならコイツは大学生以上じゃないか」
謙一の言葉に北川の顔色がまた変わる。
秀一も気づいていた。『コイツはつまらん嘘をついている』と。
「かっこつけに加えて嘘まで最低」
「信じられない」
またしても周りからヒソヒソと話す声がする。
「お前ら覚えてろ!俺を本気で怒らせたな!」
北川はそう叫んで走り去って行った。




