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やれば良かったね。

「ほう、北川がね」


演劇部と服飾部の部員達と布地の買い出しに行く電車内で謙一は秀一から北川の事を聞いた。


「あいつは何者だ?」


「一言で言うなら[卑怯者]だな」


「卑怯者?」


謙一は少し顔を歪めて言った言葉に秀一は思わず聞き返した。

謙一は更に苦い顔になって続ける


「あいつは高1の時に一方的に喧嘩を吹っ掛けて来てな」


「で、買ったのか?」


「いや無視したら」


「無視したら?」


「後ろからいきなり木刀を振り上げて来た」


謙一の話を聞いていた秀一を除く部員達の空気が凍る。


「危ないな」


「威嚇だろう、本気で殺る気じゃないのは分かったからな。で、頭に来た俺は」


「殺り返したのか?」


思わず呟く秀一。


「んな訳あるか!あいつの木刀を奪ってへし折ってやったんだ」


「やれば良かったのに」


「本当」


謙一の話に思わず愛佳と川井先輩が続いて呟いた。


「何故その時に北川は退学にならないんだ?校内で木刀を振り上げたら退学ものだろ?」


「小百合に泣きついたのよ」


秀一の疑問に演劇部部長の敷島が答えた。


「小百合?」


「手芸部部長の山崎小百合、...北川とは幼馴染みよ」


苦し気に話す敷島部長の言葉に秀一を始めとした周りの人達はこの話を止めた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「おい涼子、この生地か?」


「筋肉!気安く呼び捨てするな!」


頭上高くの棚にある生地を掴みながら謙一は川井先輩に尋ねた。

ここは生地や布地を扱う問屋で一般の客からプロのアパレル関係者まで使う店である。

それぞれ4人ペアになって必要な生地を取り揃えて行くのだ。


「愛佳、この模様なら良いんじゃないか?」


「うんイメージ近いよね」


「いや待て秀一、こっちにしろ」


秀一と愛佳の選んだ生地を見た謙一は後ろの棚から別の生地を取り出して見せた。

謙一の選んだ生地の方がメートル単価も安く、柄のイメージも演劇部の希望に近かった。


「ありがとう謙一」


「うむ、生地幅が広いから用尺も変わる、共生地で小物を作ると良いな、後この図案の生地はこっちがいいぞ。芯を貼ればフレアスカートに使えそうだ」


「な、何故?筋肉のくせに...」


すらすら生地や用尺等の言葉を言う謙一に川井先輩は呆然とした。


「誰が筋肉だ」


「謙一の家の仕事は縫製業だ」


川井先輩の疑問に秀一が答え、愛佳も頷いた。


「え?この筋肉バカボールって私の家と同じ仕事だったの?」


「おいこら、筋肉ボールの間にバカが増えてるぞ?」


(筋肉ボールは良いんだ...)


川井先輩が驚いて謙一を見ている横で愛佳はそう思った。


その後も生地の選別や必要な付属の購入等、意外な謙一の活躍は続いたのだ。

会計を済ませた生地や付属の品物と、別行動していた部員達が他の店で買った糸等と一緒にして全て運送便で学校に送る手続きを済まてから、一同は学校に戻る事になった。


「今日はありがとう、帰りにお茶をしない?」


「もちろん私達の驕りよ」


「「「やった!」」」


敷島部長と清水部長の言葉に両部員達から歓声が上がる。


「俺まで悪いな」


部員でない謙一が恐縮して敷島部長に頭を下げた。


「良いのよ、遠慮しないで」


「お、そ、そうか...」


敷島部長の言葉に赤くなる謙一だった。




「へぇ、愛佳ちゃんって秀一君の幼馴染みなんだ?」


学校に戻る途中にあるファミリーレストランで敷島部長が驚きの声を上げた。


「ええ、そこにいる筋肉1号さんも私達の幼馴染みなんですよ」


にこやかに愛佳は敷島部長に教えてあげる。


「あら酷いわ斎藤君でしょ、斎藤謙一君」


「あ、いや筋肉でも何でも良いですよ」


「謙一」


「なんだ?」


「風邪か?顔が赤いぞ」


「何だと?」


秀一の言葉に慌てて顔におしぼりを押し当てる謙一に周り部員達は一斉に笑った。


「羨ましいわ...」


敷島部長が謙一や愛佳、秀一達を見て突然涙を流しながら呟いた。


「香織?」


敷島部長の背中を川井先輩が擦ると意を決した様に語り始めた。


「私と小百合、北川の3人も幼馴染みよ、私の父の経営する会社は小百合の父親の会社の下請けだったの。

でも私と小百合はそんな事関係無く友人だった...」


「だった?」


過去形の言葉に清水部長は思わず聞いた。


「北川よ、あいつの父親は小百合の父親の会社に勤めているのよ。

北川は小学校の途中で転勤になって私達と縁は切れた。

でも去年、高校であいつ(北川)と再会してから小百合は変わってしまったの。

昔なら言わなかった事で私を脅したり、おかしいのよ!」


「香織...」


悲痛な敷島部長の叫びに声を無くす一同、店は悲しみに支配されていた。

秀一と謙一を除いて...


「謙一、やっぱり殺れば良かったな...」


「ああ、俺も後悔してるよ....」


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