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やってやるわよ。

「まったくふざけるな!」


「本当、何考えてるの!」


夏休みを目前に控えた7月のある日、文化祭のクラブ会議に出席していた清水部長と川井先輩が怒り心頭で部室に戻ってきた。

その剣幕に部員達は何か不穏な事が起きた事を感じた。


「何かありましたか?」


秀一はピリピリしている2人に何事もなかったように質問をした。


「ちょっとね!」


「うん!」


怒り冷めやらぬ2人は秀一の質問に答える事なく、少し乱暴に椅子に座った。


「ふむ」


秀一はそう言うと愛佳に目配せをして別室に行った。

愛佳はミシンを止めて立ち上がり、みんなに目配せをする。


「少し早いけど休憩しましょう」


アイロン台で作業していた3年生の山下先輩が部員達に声を掛けながら台の上を片付け始める。

みんな山下先輩に合わせる様にテーブルクロスを持って来たり、お茶菓子を持って来たりと完璧な連携をみせる。

愛佳も椅子を並べて準備をしながら秀一を待った。


「どうぞ」


秀一はいつもの紅茶ではなくホットミルクココアを持ってきた。

リラックス効果と清水部長と川井先輩の好きな飲み物だ。


部室にミルクココアの甘い匂いが充満すると憮然としていた2人も顔を見合わせる。

テーブルにココアが並び、いつもの場所にいない2人に構わずいつもの場所にココアを置いて2人に改めて秀一は近づいた。


「冷めない内に飲みましょう」


真夏が不機嫌な時はこれで機嫌が直るので秀一は2人にも優しくこれをやったのだ。


「...そうね」


「頂きましょう...」


頬が赤くなった2人はいつもの定位置に椅子を動かしてようやく空気が緩んだ。

みんな和やかにココアを飲む。


「やっぱり秀ちゃんの作るココアは絶品だ」


愛佳はそう呟く。

他の部員達も美味しそうにココアを飲み干した。


「お口直しに」


秀一はまた別室に行くと今度はハーブティーを並べた。

ココアを作った時に一緒にお湯を注いだのだろう、飲み頃の熱さで香りも素晴らしい、


「これも真夏ちゃんのお気に入りなんだよね、

良いなあ真夏ちゃん...」


愛佳の呟きは止まらない。



「みんな...ごめんね」


「ごめん...」


ハーブティーを飲んでいると清水部長と川井先輩がみんなに謝った。


「何があったんですか?」


「そうね...みんな聞いてくれる」


部員達に清水部長が呼び掛けた。


「さっき文化祭の打ち合わせに行ったんだけどね

...」


清水部長の言葉がここで止まる、どうやら思い出して怒りがぶり返して来たようだ。


「私が言います。演劇部から文化祭で使う衣裳の依頼があってね」


川井先輩はファイルを取り出してみんなの前に広げた。


「なにこれ!?」


「何人分作らせるつもり?」


ファイルを見た部員達から怒りの声が上がる。

演劇部の要望書には舞台設定と簡単なイメージのイラスト(殆どが手描きでは無く雑誌等のコピー)そして何より部員達を怒らせたのは依頼数だ。


「20人はおかしいわ!」


「去年までは主要キャストの5人だけでしたよ?」


上級生の先輩部員達が清水部長に質問が相次ぐ。清水部長と川井先輩は苦虫を噛み潰したような表情で黙りこくる。


「やっかみね」


3年の山下先輩が呟くと他の上級生達が頷いた。しかし1年の部員達には理解が出来ない。


「去年何があったんですか?」


愛佳が上級生達に質問をした。


「そうね、1年には言っておいた方が良いわね」


清水部長は去年の文化祭での出来事を話し始めた。

去年の文化祭、演劇部の芝居の前座で服飾部は自作のドレスとタキシード等の衣裳でランウェイをした。

その出来映えと演出に観客席は大盛り上がりとなり次の演劇部の劇は冷めた空気の中での芝居となってしまった。


そして文化祭の後、打ち上げの席上服飾部は演劇部から苦情を受けた。

『服飾部の衣裳を見た後の演劇部の芝居を行ったら主役達以外の衣装が学校のジャージに生地を巻いただけの格好だった為に芝居全体がみすぼらしく観客から見えてしまった』と。


「それで出演者全員の衣裳を作れって事ですか?」


「無茶苦茶な理由ね、そんなの作ってたら服飾部が文化祭で発表する衣裳を作る時間が無くなるわ!」


部員達の怒りの声が止まらない。


「それだけじゃないの」


清水部長がもう1枚ファイルを取り出した。

そこには演劇部の衣裳に使うコサージュやシュシュの依頼が書かれていた。


「「「な、何これ...」」」


依頼書を見た部員達が固まる。


「これって服飾部の仕事ですか?」


秀一が先輩部員に尋ねた。


「...違うわ、去年までは手芸部の担当だったよ」


「じゃあ何故!?」


川井先輩の言葉に他の部員達が吠えると清水部長が呟いた。


「手芸部の嫌がらせよ...」


「嫌がらせ?」


「ええ、嫌がらせ。みんな知っているでしょ、手芸部は一部の新入部員をからかって、退部に追い込んだり笑い者にする事を」


清水部長の言葉に一部の部員達の顔色が変わる。愛佳も含め服飾部の数人が以前手芸部に所属していた時にターゲットにされたのだ。


「私達服飾部は手芸部のやり方が我慢出来ず、退部に追い込まれた人達に積極的に声を掛けた。器用?不器用?そんな事関係ないわ。

楽しく物作りが学校のクラブ活動の本質よ!」


清水部長は力強く言った。


「それが手芸部の...手芸部の部長達は面白く無かったみたい。自分達が追い出した人達が服飾部で楽しそうに部活動している事がね」


「腐ってますね」


川井先輩達が告げた手芸部の実情に秀一は思わず呟いた。


「これらの依頼を断る事はできないのですか?」


愛佳達1年生の技術は向上しているとはいえ、やはり大量の衣装作製には時間が足りない、ましてや小物類の作製など不可能と先輩部員達は思い清水部長に尋ねる。


「もちろん出来るわ、但し来年から服飾部の活動予算は大幅にカットされるでしょうね」


「今年の文化祭の不参加もね」


「そ、そんな...」


清水部長と川井先輩の余りに厳しい予想に全部員達は絶句する。

しかし秀一は納得出来ない。


「そんな横暴、よく学校が許してますね」


「...手芸部の部長と演劇部の部長の親族は学校の理事長と理事なのよ」


「彼等は毎年学校に多額の寄付金をしているの、だからクラブの予算配分にも口を挟める...こちらの落ち度があればね」


しかし清水部長と川井先輩はまだ諦めてはいなかった。


「...みんな合宿する?」


清水部長が静かに呟いた。


「それしか無さそうね」


川井先輩の返答に全部員が静かに頷いた。


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