42話
「はあ!」
エーレの剣が、膝をついているレイに向かって振り下ろされる。
誰もがレイの負けだと思った、その瞬間だった。
ガキィン!
「え?」
エーレの剣が弾かれた。そしてその衝撃で少し後退した。
一瞬、誰も何が起きたのか分からなかったが、レイの方を見ると分かった。
レイはもう1本の刀を鞘から抜いていた。
「なあ、エーレ」
そう言って、レイは立ち上がる。
「……何でしょう?」
エーレは、少し警戒しつつも返事をする。
「俺さ、もうこの試合負けたと思ったんだ」
レイはそう言いつつ自分の刀を見る。
「でも、やっぱり勝ちたい。だからさ」
レイはそこで一旦言葉を切り、顔を上げてエーレを見つめる。
「この試合、勝たせてもらうよ」
そう言い切った。
「……私も、負けません!」
エーレも宣言して、レイに攻撃を仕掛ける。
「はああ!」
エーレが水平斬りを放ってくる。それをレイはじっと見ているだけだ。
そして剣が当たる直前、レイが動いた。
「ふっ!」
レイは水平斬りを刀で受けようとした。
「はっ!」
だが、エーレはそれを見て、すぐに剣を下げて振り上げた。
ガキイィィィン!
「なっ!」
しかし、今度はレイのもう1本の刀が、エーレの剣を受け止めた。
「そこだ」
そしてレイはもう1本の刀でエーレに攻撃を仕掛ける。
「くっ!」
エーレはそれを後ろに飛んで避ける。だが、レイが追いかけてきた。エーレはそれを見て、今度は前に飛んだ。
2人は急激に接近していく。
「はああ!」
エーレが剣を振り上げた。
「はあ!」
俺はそれに対して刀で受けようとする。しかし、エーレは俺の刀の軌道を見て、瞬時に自分の剣の軌道を変えた。
「うおお!」
ガキイィィィン!
俺はそれに対してもう片方の刀で対応して、エーレの剣を受け止める。
「はあああ!」
エーレはすぐに剣を振るう。
俺はそれを2本の刀を駆使して対抗する。
それを何回か繰り返す。
「はっ!」
そしてエーレが水平斬りをしてきた。
「ふっ!」
レイはそれを横に飛んで避ける。
「はあ!」
しかしそれを読んでいたのか、エーレもレイが避けた方へ飛び、剣を振るった。
レイはそれを刀で受け、後ろに飛ぶ事でエーレと距離を取る。それにより、一旦仕切り直す形になる。
「師匠、今こそ使います」
俺はそう呟いて、左手は体の前に、右手は右肩に置いて刀を担ぐような格好で構える。
そして、俺は走り出した。エーレは待ち構えている。
俺は全速力で走る。そしてエーレとの距離があと1メートル程となった。
「はああああ!」
その瞬間、エーレが上段に構えた件を振り下ろす。
俺はそれをギリギリまで引きつける。そしてあと30センチ程で剣が俺に届くという時だった。
ここ!
俺はその瞬間に地面を砕きそうな程の力で、地面を踏み抜く。
そしてエーレの剣に、左手の刀を思いっきり当てた。
ガキン!
その瞬間、エーレが無防備になる。俺はそこに、右手に持った刀を一気に振り下ろす。
「心証流奥剣ー紫電」
「……」
バタンッ!
エーレが倒れた。
「試合終了!勝者、難波レイ!」
うおおおおお!
観客が湧いている。
はあ。終わった……
俺はそう思うと、体から力が抜けて、その場に座り込んだ。
「レイが勝ったー!」
「よっしゃー!」
「すごかったね!」
「はい!」
「……あそこから逆転するなんて、本当にすごいわ」
「そんじゃ、レイの所に行こうぜ!」
そう言ってトーレスは立ち上がり、歩き出した。みんなもそれに続いて立ち上がり、歩き出した。
「いいものを見せてもらったよ、レイ君」
「国王陛下があそこまで集中するなど、思ってもみませんでした」
レイが初代国王の柔法を使い始めてから、国王陛下は瞬きもほとんどせずに、試合を見ていた。
「仕方ないよ。ずっと憧れだった初代国王の剣術を見る事が出来たんだから」
「そうですね」
ラルカも、国王陛下がずっと初代国王に憧れていたのを知っているので、それ以上は何も言わなかった。
疲れたな。
俺はその場で座り込んで少し休憩している。
何とか勝ったな。
俺は両手に持つ2本の刀を見る。
どうなるか分からなかったけど、何とか成功したな。
俺はこの試合、色々な事を試した。初代国王が使っていたとされる柔法に二刀流、そして心証流の秘剣を超える剣技である奥剣。
奥剣に関しては一応出来るようにはなってたけど、他はぶっつけだったからな。成功してよかった。
「レイ君!」
そう思っていると、アリアが入口から入場して来た。みんなも後から入場して来た。
「おう、みんな」
「優勝、おめでとうございます!」
「ありがとな」
俺はそう言って立ち上がろうとする。
「あれ?」
しかし、足に力が入らなかった。
「足はもう限界なのよ。あなた、剣技を連発してたでしょ」
「ああ、確かに」
「ほら、捕まれよ」
そう言ってトーレスは屈んで、肩を貸そうとしてくれる。
「ありがとな」
俺は素直に肩を貸してもらい、何とか立ち上がる。
「僕も手伝うよ」
シュウもトーレスとは反対側の肩を貸してくれた。
「そんじゃ、退場するか」
「ああ」
俺はそう返事をして、みんなで歩き出した。
俺達が通路を歩いていると、国王陛下とラルカさんがいた。
「あ、レイ君」
「国王陛下」
「あら、国王様、お久しぶりです」
「え!?国王陛下!?」
「嘘!?」
「ど、どうしよう!?」
「と、取り敢えず跪きましょう!」
俺とミカ以外のみんなが慌てている。
「落ち着けって」
「そうよ」
「落ち着いていられないよ!」
「そうだ!」
はあ……面倒くさいから放っておこう。
「国王陛下は今からお帰りですか?」
「いや、レイ君を待ってたんだ」
「俺を?」
「うん。レイ君、遂に完成させたんだね」
「……初代国王の剣術ですか?」
「そうだよ」
「まあ何とかって感じですね」
「それでも、あれは本に書いてあった初代国王の剣術だった。いいものを見せてもらったよ」
「いえ、こちらこそありがとうございます」
「うん。それじゃあ僕は行くね。ミカ君も、またね」
「それではまた」
「はい」
「またお伺いしますね」
そうして、国王陛下とラルカさんは歩いて行った。
「そんじゃ、行くか」
そう言ってみんなの方を見ると、まだ慌てていた。
何やってんだか……
俺はそんな風に思いつつ、みんなを落ち着かせたのだった。
コンコンコン。
「どうぞ」
「失礼」
俺達はエーレが運ばれた部屋に来ていた。
「あ、エーレ!」
「おう」
「調子はどう?」
「体の方は大丈夫でしょうか?」
「大丈夫よ。ありがとう」
「試合、よかったわよ」
「ありがとう、ミカ。レイ、優勝おめでとう」
「ありがとな。それと俺との試合、どうだった?」
「最高でしたよ。負けたのは悔しかったですけど、それでも今は清々しい気分です」
「俺もだ。最初はエーレと互角だと思ったんだけどな。途中から急にエーレの一撃が重くなって驚いたよ」
「それを言うなら、レイだってそうじゃないですか。私の剣が受け止められて、押そうとしたら手応えがなくて。あれって何ですか?」
「柔法って言うんだ。知ってるか?」
「いえ、知りません」
「私も知らなーい」
「俺も」
「僕も」
「私も知りません」
「私は名前だけならどこかで聞いた事があるわ」
「そっか。まあ簡単に説明すると、相手の攻撃に合わせて技を仕掛けるんだ。例えば、エーレが剣を振り下ろしてきたら、それを弾いたり受け止めたりせずに、受け流すって感じでな」
「何だか難しそうですね」
「ああ。俺のも完璧じゃないからな」
「そうなんですか。あの剣を2本使ったのは?」
「ああ、あれは二刀流だ」
「二刀流って、どこかの流派の事かしら?」
「二刀流は流派じゃないよ。ただ剣を2本使って戦う人の事を二刀流って言うんだ」
「そうなのね」
「レイって、いつも刀は1本しか使ってなかったよね?」
「そうだよな。俺も1回も見たことないぜ」
「そうだな。実は時々練習はしてたんだ。でも実戦で使える程じゃなかったんだ」
「でも試合では使えてましたよ?」
「まああの時は極限状態だったからな。それもあるんだろ」
「ねえ、あの最後の剣技は何かしら?」
「あれは心証流の秘剣を超えた剣技である奥剣だよ」
「まだそんなの隠してたのかよ」
「いや、こっちもまだ実戦で使える程じゃなかったんだよ」
「あなた、よくそんな事でエーレに勝てたわね」
「まあな」
「でも、本当にレイは強かったですよ」
「ありがとな。それと、この後表彰式があるんだが」
「もちろん出るわよ」
「だよな。それなら、表彰式が始まるまでゆっくりするか」
「そうですね」
そうして俺達は、表彰式が始まるまでみんなで雑談をしていたのだった。




