41話
「今のは!」
「国王陛下?」
来賓用の席でレイとエーレの試合を見ていた国王陛下だったが、突然大声を出して立ち上がった。
「今のレイ君の動き……」
「どうかされたんですか?」
ラルカには、レイがエーレの剣を躱して攻撃を仕掛けたようにしか見えなかった。
「うん。今の動き、間違いない。初代国王の剣術だ」
「初代国王様の!?」
ラルカは驚いた。初代国王の剣術に関してはラルカも知っているが、扱う事は出来たかった。いや、ラルカだけではない。今まで初代国王の剣術を扱えた者はいなかった。
「それは本当なんですか?」
「間違いないよ、あれは初代国王の剣術だ。本でその動きを何回も読んで、僕自身も再現しようとしたからこそ分かるんだ」
「そんな事が……」
初代国王の剣術は自由な剣術と言われており、決まった型がない。だからこそ誰も習得できないでいた。
「あのレイさんが……」
ラルカは、レイから国王の剣術を練習していると聞いていた。しかし最後に会った時にも、出来るようになったとは言っていなかった。
「いつの間に習得したんでしょうか?」
「……」
ラルカの問いに、国王陛下は答えない。見ると、レイの動きに集中していて、聞こえていないようだった。
仕方ないですね。国王陛下は、ずっと初代国王の剣術に憧れていましたから。それを扱える人が出てきたとなると、こうなるのも無理はないですね。
そう思い、ラルカもレイとエーレの試合に集中する。
レイさん、頑張ってください。
ラルカは、いつも城の図書館を訪れては、真剣に本を読んでいた青年の事を応援した。
「はっ!」
「くっ!」
レイが初代国王の剣術を使い出してからは、エーレの方が苦戦していた。
エーレはレイの刀を避けて、剣で攻撃をする。しかし、レイはその攻撃を刀で受け止める。そして攻撃を仕掛ける。
いける!
レイはそう考えていた。
初代国王の剣術をずっと練習していたが、結局出来なかった。そもそも初代国王が使っていた自由な剣術とは何なのか、それが分からなかった。でも、ここに来てやっと分かった。
自由な剣術、それは柔法だったんだ。
そう、自由とは剣の型がなく、自由に剣を振るう事ではなかった。そもそも剣術ですらなかった。初代国王は柔法を使用して剣を振るっていたのである。
現実では聞いた事があるが、実際に見た事はなかった。けれど、初代国王について書かれた本を読んだ事で、どう動けばいいのか分かる。
「はあ!」
「ぐっ!」
俺は上段斬りを放つ。それをエーレは剣で受けようとするが、俺はその瞬間に左手に持った刀を手から離す。
「あっ!」
俺は下に添えていた右手で刀を掴んで斬りつける。
「心証流秘剣ー歪」
「ぐうっ!」
今度は俺の剣技が決まった。それによりエーレに隙が出来る。
「はっ!」
俺はさらに攻撃をしようと、剣を振りかざす。
「くっ!」
しかし、エーレはそれを横に飛んで避けた。
よし、もう少しだ!
俺はそう思い、エーレを見る。
「はあ……はあ……」
エーレは肩で息をしており、限界が近いのが分かる。
「そろそろ終わりにするぜ」
俺がそう言うと、エーレは顔を上げてこちらを向いた。
「はあ……はあ……私は、負けません!」
そう宣言したエーレは、力強い瞳でこっちを見てきた。
何だ、まだ何かあるのか?
俺は何か嫌な予感がしたので、早く勝負を決めるべく走り出す。エーレは構えてすらいない。
決める!
俺は刀を逆手に持ち替え、攻撃を繰り出す。
「心証流秘剣ー颯」
俺はエーレの横を駆け抜けつつ、刀で斬りつけようとした。
ガキイィィィン!
「何!?」
俺が横を駆け抜け、刀でエーレの右脇腹を斬りつけたと思った時だった。俺の刀はエーレの剣で防がれていた。
どういう事だ!?エーレは構えてすらいなかったはずだ。それなのに、俺の攻撃が防がれただと……
そう思っていると、エーレが俺の刀を押し返してきた。
「何だ、この力は!?」
俺は何とか押すが、全然動かない。その間にも、俺の刀はどんどん押し返されていく。
このままではまずい!
俺はそう思い、一旦離れた。
何だ?さっきまでは俺が押していたはずだ。それがどうして……
そう考えていると、エーレがこちらに向かって来た。
「なっ!?」
先程よりも速い速度で走って来る。
「はあ!」
そして剣を振るう速度も、さっきまでとは比べ物にならないくらい速い。
「はああ!」
俺も急いで刀を振るう。そして刀と剣が触れた瞬間に柔法で躱そうとした。しかし……
「ぐふっ!」
俺は攻撃を受けた。
今のは……
考える暇もなく、既にエーレは剣を上段に構えて振り下ろしていた。
くそっ!
俺は痛みを無視して、急いで後ろに飛ぶ。すると、一瞬遅れて剣が俺のいた場所を斬りつけた。
もっと遠くに!
俺は出来るだけエーレから距離を取るため、走り出した。
「何だと!?」
エーレが俺を追いかけてきているのだが、その速さが尋常じゃない。
このままだと追いつかれる!
俺は全速力で走るが、エーレを引き離すどころか、寧ろ距離は縮まっていく。
そして遂に俺とエーレの距離が1メートル程となった。
「はあ!」
「うお!」
エーレは剣を振るってくるので、俺は横に飛んでそれを避ける。そして走り出そうとする。
「ふっ!」
「くっ!」
しかし、そうは行かないとエーレの剣が俺に向かって来たので、何とか避ける。
これは距離を取るどころじゃないぞ!
俺はそう思いつつ、エーレの斬撃を躱していく。
「何だよ、あれ……」
「このままだとレイがやばいよ!」
「エーレがこんなに強かったなんて……」
「……恐らくだけど、レイが強すぎたんだわ」
「どういう事ですか?」
「エーレは途中本気だった。そしてレイを追い詰めたわ。でも、レイはそれを上回った。そのせいで、エーレは限界を超えたんだわ」
「そんな事ってあるんですか?」
「滅多にないわ。でも、今はそれが起きてる」
「……レイ君は勝てるんでしょうか?」
「厳しいわね。と言うより、不可能だと思うわ」
「そんな!」
「レイが負けるって言うのかよ!」
「仕方ないでしょ。それに、もうレイは限界よ」
そう言ってミカが指差すので見てみると、レイが膝をついていた。
「レイ君!」
「レイ!」
「そんな!」
「ここまで来たのに!」
「……」
レイ、本当にここまでなの?
ミカは口ではそう言っても、内心ではレイの事を信じていた。
「はあ……はあ……はあ……」
俺は膝をついていた。今にも意識を失って倒れそうだ。
エーレの方を見ると、俺の前で剣を振り上げていた。
くそっ!ここまでなのか!
エーレの動きがゆっくりに見える。時間がゆっくりと流れているようだ。
俺はエーレが剣を振り下ろすのを、じっと見ていた。
このままだと負ける。だが、今攻撃を避けたところで、すぐに次の攻撃が来るだろう。
ここまでだな……
俺はそう思い、そっと目を閉じた。
色々な事を思い浮かべる。この学院での生活や、それまでの孤児院での生活。そして、師匠との事。
あの時、師匠は何て言ってたっけ?
それは師匠が亡くなる1週間前の事だ。確かあの時、俺は師匠に自分だけの剣技を見つけるって言った。
まだ、見つけられてないな。
あれから何百年も経った。それでも、まだ見つけられていない俺の剣技。
他には何の話をしたっけな。
そう思った時、ふいに師匠の言葉を思い出した。
そうだ。師匠は俺に二刀流を勧めてたな。
俺には刀が2本あるが、今も1本しか使っていない。
一応、練習はしたんだけどな。
師匠の見せてくれた剣技は、どれも剣1本で使えるものだ。師匠の武器が剣1本だったからな。
でも、もし師匠の言う通り、2本扱えるようになったとしたら……
俺は、もっと強くなって……そして、エーレに勝てるのかな……
そう思った瞬間、俺はもう1本の刀を鞘から抜いた。




