終章 ~えぴろーぐ~
かくして。
俺はめでたく、エルフの少女リッチェンケルトを救いだし、彼女の村へとやってきた。
三匹の仲間たちも一緒である。迷子の俺たちの足として、なによりそれぞれに、リンのパンツをあげるためだ。
リンは俺に貸すのにはあれだけ渋っていたのに、獣たちにはこころよく、洗い替えをあげるというのである。解せない。
村長の娘を助け出し、村に現れた俺を、エルフたちはまず総出で弓を構えて出迎えてくれた。
全体的に狙いが俺の股間に合されていたのだが、リンが前に出てくれたおかげで、とりあえずその場はおさまった。
村長の目はしばらく険しいままだったが。
リンが一連の救出劇を話してくれると、とりあえず信用はしてくれたらしい。礼を言われ、食事と寝床を与えてくれた。身よりもなく、手荷物ひとつない俺にとって、エルフの施しは心底ありがたかった。
翌日にはすぐに出ていくよう促されたが、俺は頼みこんで、仕事を分けてもらうようにした。
エルフらが苦手とする力仕事はもちろんのこと、地球ならではの遊び、手作りのオモチャも喜ばれた。閉鎖的なエルフにとってよその世界の住人は気味が悪く、同時に稀有でもあった。しだいに受け入れられていくにつれ、俺はエルフたちの好奇心を満たす語り部となっていった。
年寄りたちは、日本の物語が気に入ったらしい。
連日俺のまわりにエルフが集まり、大切にされ、友人となっていく。
なにより、リンがそばにいる。
俺はこの世界を愛するようになった。
「――いくのか。桃尻太郎」
村の出口で――長老が眉をしかめる。
「はい。……ヒトが、エルフの娘と結婚するために必要な試練だというなら、俺は挑戦するしかありません」
そう言って、隣の少女に視線をやる。これから始まる長旅に向け、すっかり支度をすませたリッチェンケルト。
「大丈夫。わたしが護るもの」
彼女は手にした弓矢――精霊王の弓を構えて見せた。巫女である彼女の姉が託してくれた、エルフの秘宝である。
「……では、桃尻太郎にも、これを……」
そういって、長老は抱え込んでいたものを渡してくれる。
――神殺剛柳剣。英雄の兜。女神の盾。風神のブーツ。
「長老様、これは……!」
「これぞ、エルフの村に伝わる真の秘宝。長老であるワシの手元に置いておった。……これを使い、必ず生きて帰ってこい。お前は次に、この村の主となるのだから……!」
「はい!」
俺は溢れた涙をぐいと拭い、さっそく、すべてを装備した。
みるみる力がわいてくる。
これなら、きっと、魔黒竜王神も倒せるはずだ!
「じゃあ! みんな! いってきますっ!!」
手を振る俺に、一斉に檄をとばしてくれるエルフたち。俺は村に背を向け歩き始めた。
大いなる挑戦にむけて、まっすぐに。
隣をトコトコ歩きながら、リンが小さくつぶやいた。
「……しかしあれじゃの。エルフの秘宝にはなぜに鎧がなかったのかの……」
「ん? もしあったとしても着ないよ俺。この開放感がやみつきだもの。全裸サイコー」
「せめてパンツだけでも……」
「リンちゃんが貸してくれるなら」
「いやじゃ。なんだかもう、すっかり見慣れてしまったしな……」
「冒険から帰ってきたら、見慣れたものとは違う状態をお見せしますよ奥様」
俺は笑って、桃尻をプリプリ振って見せたのだった。
――俺たちの冒険はこれからだ!
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――短い間でしたがご愛読ありがとうございました。とびらの先生の次回作にご期待ください。