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 梨月ちゃんが走り去るのを見送り、僕は対峙している 積年の恨みを晴らす

べき敵を睨みつける。



「さぁてと。 アンタの企みもここまでだね。


随分と勝手な真似してくれたみたいじゃない? 血縁者が世界の滅亡を願ってる

厨二病患者とか笑えな過ぎwww …消えろクソ親父。」



 徐々に魔力を放出して、周辺を雪原に変えていく。

ここは魂と精神に左右される特殊な空間。

純粋に、魔力の貯蔵量がものを言う世界。

金瞳(ゴールド)の僕と 銀瞳(シルバー)で秀才止まりの父では、勝負にもならないはずだ。


さっさと、この邪魔者を消して彼女を追いかけよう。



「アンタが、あの駄女神に指示されて 梨月ちゃんに色々と、やらかしてくれた

んでしょ?

まぁ…確認するまでもないと思うけどね?」


「いいや。お嬢さんへの襲撃は、全部 私の(くわだ)てだ。

計画では、あのお嬢さんの体の主導権を奪って、術式は完成させるはずだった。

だが…フン、情でも移ったのかもしれんな…。

ここまで、やって来た事は、全て無意味となった。


…もう、この会話も無駄じゃぁないのか。意味が無い。」



そうだね。

僕らにとって、これは もう意味が無い事なんだろう。 …それでも。


「無駄、ではないと思うよ。

今ならね 分かる気がするんだ。アンタは、母さんに また会いたかったんだろ。

あの子を死なせかけて、僕にも 初めて 痛いほど分かったんだ。


何を犠牲にしても、その人だけは助けたい。そういう気持ち。」


「……。」



 僕を見ているんだか、見ていないんだか 分からないふたつの瞳は、暗く

濁っていて 感情がまったく読めない。


…心さえも、犠牲にしてしまったのだろうか、このバカ親父は。



 僕の母さんは、古の伝承にも登場する 竜の一族の最後の娘だった。

竜と交わり、竜と共存し、竜の血を受け継ぐ人々。 それが”竜の一族”だ。

今でも、山の奥地には存在していると 風の噂で聞く。


フクザツな馴れ初めと障害があったみたいだけど、それを乗り越えて結ばれた

二人は、とても仲睦まじい夫婦だったと、当時の二人を知っていた人は答えて

いた。

きっと、その頃の二人は幸せだったんだと思う。




…それを奪ったのは、きっと僕なのだ。




 母さんは、僕が生まれてから どんどん体調を崩していったんだから。

よく熱を出していたし、咳が止まらない日も年々増えていって、苦しそうだった。


父さんは、それこそ死ぬ気で母さんの看病をしたし、僕も邪魔にならないように

していた。

けれど…僕が8歳になった頃のとある夜に、母さんは 死んでしまった。




 …そこからは、あっという間だ。


次の朝、目が覚めたら 父さんは居なくて、母さんの冷たくなった体もなく

なっていた。


訳が分からなくて泣いた。

誰も家に居ないのが怖くて泣いた。

母さんが死んだ事がなんとなく分かって泣いた。


…父さんに、見捨てられたんだと理解して 泣いた。



けれど、目の前のこの男は 母さんの死を認めなかった。

つい最近まで、西の国のお抱え魔術師をしながら 死者蘇生の方法を探して

いたんだ。

自身の体を、自ら改造し 出来損ないの化け物になってね。




「…親父。

ゾンビ化して 悪評が多い西の国にまで頼って、母さんを取り戻したかった、

アンタの執念は認めるよ。 死を受け入れたくなかったのも、分からない訳じゃない。


けどね、僕にも…ようやく、死んでも守りたいと思える人が出来たんだ。

梨月ちゃんを殺すって言うなら、僕はアンタを絶対に許さない。

父親だからって、容赦しない。


…ここで、終わりにしよう。何もかも。」



手に携えた氷柱の剣をしっかり握り込み、本来なら心臓のある場所 目掛けて

走り出す。


きっと母さんが死んだ時から この人の時間は、止まってしまっていたんだ。

終わりも始まりも、失って。それでも、一人の女性を愛した人。



さようなら、父さん。


遠くから、幼い頃に聞いたきりの、優しい母さんの声が聞こえた気がした。





*****





 『オルヴォ、最後にひとつだけ お願いしても良いかしら?』


うん。 いいよ、ティーア。…いっしょに、がんばろう。




私は、立ち尽くして あの子が飛び去った空を(にら)んでいる、あの日と

全く変わらない背中へ声を掛ける。



「…ネストリ。

今は、呆然としている場合じゃないわ。

梨月達が、まだ諦めずにあの神殿があった場所で戦っているの。


坊ちゃんに頼んで、梨月の体にかけてもらった詠唱を阻害する”獣化の術”と

村から出られなくなる”おまじない”が全て破られたわ。

もうすぐ、世界各地に魔獣が溢れるでしょう。


でも。

私達に出来る事、まだまだあると思わない?」



彼が振り返り、小さな声で『ティーア…か?』と呟き”まさか”という顔をした。

そして一瞬だけ苦しそうに口を開きかけて、首をひとつ振って 私を見据えた

まま、静かに 言う。



『あぁ。そうだな、こんな陽炎のような存在でも やれる事がまだある。

ティーア、手伝ってくれるか?』



「そんな当たり前の事、聞かないで。その為に来たのよ? 私。


…おいで!

貴方達にもお願いしたい事があるの!」



 大丈夫よ。不安がらないで、子供達。

世界と そこで生きる人々は、案外しぶといものなのだから。




*****




ゼーゼー、と肩で息をする私を嘲笑いながら、私の顔をした悪魔が歌うように

話す。



「ねーぇ。いい加減、もう諦めたらぁ? アンタの魂、消滅するわよぉ?

なんで、そんな必死になるかなぁ。ここ、アンタの世界じゃないでしょう?」


 どんな大きな口を叩いたところで、やっぱり私は人間だった。

必死で防壁を作ったって、向こうが一撃 攻撃すれば飴細工みたいに粉々になる。

強化したデッキブラシ程度では、相手に傷ひとつ負わせられない。


幾度となく 彼女が発する疾風の刃で、容易く 私の体は切り裂かれそうになる。

欠片とはいえ、神と人間じゃ 力量に雲泥の差があったかな。



…ううん、それでも!



「ぐ…っ、うるさいっ! 私は諦めないし、消滅もしない。

あなたが、あの世界をどんなに嫌って憎んでいても、私はあの場所で生きて

いたい。

あの場所で生きている人達と、生きていきたいの!!」



 私はボロボロになった体を引き摺って、立ち上がる。

彼女を止められなければ、パールナ村の皆だけでなく たくさんの人が傷付け

られて死んでいくんだ。



そんなのは、絶対に嫌だ!



「あなたの恨みに、誰も巻き込ませない!」


「あらあらあら、随分と生意気になっちゃって…うふふ、ねぇ。

梨月ぃ?もう気付いてるんでしょう?


あたしが あの間違った記憶をプレゼントしたんだって。

どうだったー?素敵だったでしょう?

”悲劇のヒロイン”の梨月ちゃん♪ うふふふふっ!


あのロクデナシの水色頭とくっつけて良かったわよねぇ? オメデトウ?

でも、それって 同情じゃないって言い切れるの?

打算じゃないと、何故思うの?


ふふふふふっ、またアンタ騙されてるのよ、きっと。

あーぁ、かわいそー? まぁた、記憶いじってあげようか?」




 攻撃されながらそう(まく)し立てられ、少しずつ頭が冷えて来る。

冷静に考えてみたんだ。この少女のことを。


彼女は、本当に”神様”なのかな?それにしては、やけに…。



「無駄だよ。もう、迷わない。


私は、あの人が…ラウリという人が、とても愛おしい。

他の人全てが、彼を否定しても 私だけは彼を信じて肯定したい。

ううん、絶対に肯定するよ。


…あなたは、とても悲しい考え方をするんだね。

それに 言葉だけ聞いていると、駄々をこねてる子供みたい…、うわ…っ!?」



 言い終えないうちに、息も出来ないほどの熱風に包まれた。


「…っ! あぁあぁあああぁああああああああああああーーっ!!!!」


その中心たる 私の形をした少女は、獣じみた言葉にならない悲鳴を上げながら

空間に穴を穿(うが)つ。


…一体、急にどうしたというんだろうか。



 一際(ひときわ)大きい衝撃波が来るのを感じて、防壁代わりの岩壁を召喚

するがすぐに削られ、剥がれた破片が頭上に降り注ぐ。


「…っ!」


やって来るだろう痛みが怖くて頭を覆ってうずくまると、衝撃はいつまでも訪れ

ない。

そればかりか、岩が何か固いものに当たってゴロゴロと落ちる連続音。


怖々、顔を上げれば 見慣れた(今は少し小さい)空色。

そして私たちの真上から、半球状の透明なバリアが張られている。



「…りったん。

ただいまぁ…、どこも怪我してない?」


私とあまり変わらない程ボロボロのラウちゃんが、力なく笑いながら私を振り

返る。


「…ラウちゃん! よかった、そっちこそ平気?

あの男の人…お父さんだったんでしょ?」


うん、と少し困った顔で頷いて、彼は独り言のように呟く。



「あの人は、本当にズルイよ。

最初から僕にこうやって消される為に、仕組んでたみたいだ。

僕が気付かないように抵抗するフリまでしてさぁ…。


やんなっちゃうよね…地獄に堕ちろって感じ? あはは…。」




 覇気のない空笑い。今にも泣きそうな顔で(おど)ける彼は、とても痛々しかった。

そっと寄り添って、私と同じくらいになっている、頼りない彼の手を握る。



「帰ったら、たくさん話そう。

今までラウちゃんが、どんなことを思いながら ここまで頑張って来たのか、

私に教えて欲しい。それで、過去の話が終わったら これからの話をしようよ。


ラウちゃんが嫌だって言ったって、私があなたを幸せにしてあげるんだから。」


「…ふふ、なんかカッコイイところ全部 君に持ってかれてるなぁ。

そうだね。この先を、僕も君と生きていきたいんだ。幸せになろう、一緒に。」



私たちは、お互い微笑んで 頷き合った。



「…それにしてもさ。

さっきから錯乱しているのか知らないけど、メチャクチャな攻撃しかして来ない

ねぇ。」


「私にも理由が分からないの。 直前までしっかり意識があって挑発するような

ことを話してたのに、突然この状態になっちゃって…。どうしてかな。」



 私は、ずっと気になっていることがあったんだ。

目の前に現れたときから、少女に絡み付いている”何か”の存在。

正体が全く掴めなかったけれど、とても嫌な感じがするもの。




 …確かめなくちゃ。



「あのね。危険だけど、ひとつ試してみたいことがあるんだ。

手助け、お願いして良い?」


もしかしたら。

淡い希望を胸に、私たちは ひとつの賭けに出た。








…すいません。

後、2回のはずでしたが、書いてみたら思いの外に長かったので、

全32回か それ以上になりそうです…!orz


とりあえず、手抜きにだけはならないように精進します!!

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