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※注意※

ぬるいですが、殺人を思わせる描写やグロテスクな表現があります!


うっかり数分間、注意書きを忘れてすいません!!





闇の中。

歩き出そうとする行く手に、少女の影。

目標の相手が現れたのかと思ったが、次の瞬間されたそれに、僕は呆気(あっけ)にとられる。



*****




 … 振りかぶられた、その刃物が私の胸を貫く様を、私はただ横で見ていた。




「…ここも、同じか。」



 意味のない独り言を 1人呟いてみる。

あの少女の姿をした影に押され、落ちた先がここだった。

どこまで行っても、自分が刃物で刺される光景が続く 悪夢のような世界。

…最悪だ。


肉の塊となった自分を放って 私はドアを開く。



ドアをいくら開いても、そこに広がるのは安っぽいサスペンスのような

場面だ。

そろそろ、心が折れそうだよ…。



「あら。ここで膝を折ったら、あの子の思うツボよ?」

「っ…!?」


 急に発せられた、自分以外の人間の声に驚いて飛び退いた。



そこにいたのは、自分くらいの年頃の赤毛の少女。長い前髪に上半分隠されては

いるが、優しげな笑みを浮かべて、私を観察している。


「だ、だれ…!?」


私は、警戒心全開でそう言った。

ついさっき、少女の姿をした何かに痛い目に遭わされたばかりなのに、と

後ずさる。



だが、少女はただ 笑顔で首を傾げる。


「…あの子じゃないから平気よ?

それより。その話は後にして、この悪趣味な場所を抜けるのを優先すべき

だと思うわ。

こんな状態じゃ、落ち着いて話も出来ないもの。


とりあえず、ひとつずつ なぞることから始めてみない?」




*****





『村へ帰りなさい。 ここは、私と彼等が引き受けよう。 』


 そう言い、エルメル・ヤンネ・オルヴォを下がらせる。

入れ違いに 草むらから投網が投げ込まれ、眼前でリツキを乗っ取って居る()

僅かに戸惑い、動作が遅れた。


『いけっ!』


声を合図に、()の足下に、何重もの魔法陣が出現し()の身動きを封じる。

しかし。



「ふふふふ、あははははっ…!こんな弱っちい束縛術で、このワタシを抑えら

れると、本当に思っているの? ねぇ、ネストリ??」



 苛立ち、怒鳴りなくなる衝動を押さえ込む。

ここに居るのは、アルヴィとその同級生達、そしてエルメルとヤンネ、

その友人のオルヴォだけだ。


アレの影響下にあるとはいえ、リツキの体は人間のそれだ。

ヒトの体は驚くほど脆い。


下手に攻撃など 出来るはずも無く、己に残された手札は 後ろに控える彼らを、

守りきるという選択肢しか選びようが無い。


その様子を見た()は興が醒めたと言わんばかりに口を尖らせる。


『ちぇー…ツマンナイよ、ネストリ?あの日みたいに、ワタシを八つ裂きにして

くれないのぉ?

ほんっとうに何もかも下らないよね?…もうっ!つーまーんーなーいー!!


 …退屈だし、ワタシ行くね〜??』



少女の背に現れた、グロテスクな影色の歪な翼。

()は身を縛る術や結界などもろともせずに、全て破壊し 悠々と羽ばたいて飛び去った。



…その場には、呆然とする彼らと 悔し紛れに空を(にら)みつける私だけが残された。






*****





 通り過ぎて行く、様々な彩り。映し出される過去の幻影。

少女が右手を振るうと、また新しい絵が追加される。



見知った人、知らない人、近い場所、遠い場所、どこにでもある日常たち。

ふと 私は、見つけたひとつのシーンに釘付けになった。




 巨大な水槽の前で、談笑する家族。父と娘と母、ありふれた家族の風景。

娘が大事そうに抱えた、イルカのぬいぐるみには見覚えがあった。


「あぁ、あのイルカね。大事にし過ぎて、どこかに落としてしまったんだっけ。


ひどい落ち込みようを見て、両親が”もっと良いのを買おう”と言っても、

『絶対に探す、あれがいい』と聞かなかったらしいわね。

結局は、見つからなかったけれど…。」


 赤毛の少女が話すそれに、私は正直に(うなず)いた。

そう。あのイルカが良かった。

あれは、いつも忙しい両親が初めて一緒に選んでくれたものだったから。

どこに行くにも、抱きしめていた。とても、大事に思っていた。

なのに…。


「はい、どうぞ。」


眼前に出されたのは、まぎれも無く、あのイルカだった。

そっと受け取って、潰さないように抱きしめてみた。あたたかい…。


「もう、無くしちゃだめよ。」


私は、『ありがとう』と言って  次のシーンを見た。



 両親がケンカしている。 見慣れたそれは、一体いつからの出来事だったか。

きっと、すぐに元通りになると信じていた。でも そうじゃなかった。


どうして、すぐに仲裁に入らなかったんだろう?

あの時に、私は何か出来たんじゃないのだろうか?



「今のあなたなら、止めに入れたかもしれないわね。

でも幼いあなたには 怖かった。自分の心を守ることが最優先されたのよ。」


理屈は、分かる。 それでも、考えてしまうんだ。

あんなにも憎み合う前に、私は2人を止められたんじゃないか、って。


シーンがまた切り替わる。


 あっ、


「嫌…っ! 見たくない!」


 さっきのふざけた光景だ。 必死で、目を覆い隠す。

包丁を振りかぶり、私に突き刺したのはお母さんで、お父さんは下の階で倒れて

いる。


どこもかしこも血塗れで、赤くないところを探す方が大変で。


「梨月。目を開いて、良く見てごらん? あれは誰?」


恐る恐る、目を開いて見つめる。


「おか、あさん」


「それは本当? 本当に、あれは ”あなたのお母さん”だった?」


私は瞬きを繰り返す。 ……本当…とは、なんだろうか。

だって、お母さんは髪が長くて、背が高くて、姿勢が良くて…、



  あれ?


「この人は、だれ…?」


映し出されているのは、髪が肩くらいの金髪で、背が低くて化粧の濃い女性。


「さぁ、今度は刺された方を良く見てごらん。」


刺されている、のは…、あぁ、



「お母さん、だ。」


つぅ…、と涙が一筋すべり落ちた。



 あの日の部屋が そっくりそのまま再現される。

階下での大音量の、怒鳴り声、悲鳴……異常を感じて、立ち上がる私。

壊れんばかりの勢いで、開かれたドア。そこに居たのは、見知らぬ金髪の女性。


手にした刃物からは、赤い液体が滴る。

…その異様さ、恐ろしさで足が(すく)んで反応が鈍った。

振り下ろされた凶器。 



…でも、それを受け止めたのは、私じゃなくて…。



「お母さんは、どうして私を(かば)ったの?」


教えて欲しい。

だって、弁護士だった私の母は、理知的な人だったのだから。

無謀や無茶を絶対しないと思っていたのに。


「逆に、どうして?と聞きたいわ。

娘を大切に思っていなければ、こんなことはしないと思わない?」


その問いに、答えられなかった。

(かば)われた私も、目を見開いて驚いている。

私に被さる母の口から、小さな声が聞こえた。



『ごめんね、梨月、いいおかあさんに、なれなくて。

でもね、一度だって、”生まなければ”なんて思ったことなかったの。

あなたを産めたことは、私の誇りだから…よかった、守れて…。


だいすきよ、りつき。』


私は、泣いていた。

よく見れば、女性の背後で血に塗れ、足を引き摺った父が必死に


『やめてくれ、妻と娘だけは…!』


と、叫んでいる。



しかし、その後は悲惨なものだった。

必死の抵抗も虚しく、私も金髪の女性に刺され、心臓から血が流れ出した。


その刹那。

光が弾けて、狭い部屋の中を暴れ回って視界を白色に塗り潰した。





「さぁ。


ここからは、一体 誰の視点かを考えながら見ていてね。」




 赤毛の少女が指を鳴らすと、急に世界が滲んで見えた。

水の中?…違う、泣いているんだ。 では、誰が?


『間に、合わなかった…。嫌だ、こんな…っ!どうして…!?』


『まだ 悲観する必要はないわ。梨月の中のあの子も、一蓮托生なんだもの。

簡単に宿主は死なせないはずよ。さぁ、さっさと準備して!』



 水の膜が消えると、思いきり死人の顔色の私が現れた。

うわぁ…と思わず声に出してしまう。

微かにだが、まだ息をしていることがおかしく感じるほど、ひどい。




 必死の様子で治療の魔術を行う、小刻みに震える手の平が見えた。

時折、思い出したように歪む世界。


…なんとなくだけど、この視点が誰の視点なのかは分かって来たかも…。



「ねぇ。これは、一体いつのことなの? 

だって私が向こうからやって来たのって、4月9日でしょう? 


これじゃ、まるで…。」


憶測の域を出ない可能性。 でも、間違っているとも思えなかった。


「たぶん、あなたの想像した答えで合っているわ。

あなたたち家族ががあの惨劇に遭遇したのは、3月の5日。


卒業式の夜だった。」


…と、なると1ヶ月近くズレていたことになる。頭が痛い…。




 場面がまた切り替わる。



手を握りしめて、私の寝顔を見ている視点。…うわぁ、なんか めちゃくちゃ

恥ずかしいな。


『…僕は、本当に馬鹿だね。


君が死にそうな姿を見て、失いそうになって、好きだったって気付くなんて。

どうして、もっと上手に助けられなかったんだろう?


…ねぇ、起きて。

鏡越しじゃなく、ちゃんと話が出来るのに、こんなのあんまりだよ。』



 イルカのぬいぐるみが急にブルブル震え出す。 え、まさか…?


私は試しに イルカの尾びれを、雑巾のように力いっぱい絞り上げてみた。



「う、痛たたたたたたたーーーーっ!まって、待ってぇ、僕の話を聞いて!」


イルカが、ビチビチ跳ねて痛がっている。 これは…っ!




「えっ、ラウちゃんなの!? いつから…。

…というか!ちょっとこれ、どういうことよ!?


こんな大事なことを、なんで私は覚えてないのよっ!!

と、いうか大体全部ラウちゃんが話さないせいで私はこんなに怒ってると、

正しく理解してるの?

してないよね?してないでしょう!?

勝手に人が寝てる間に何か言っちゃってるしさぁ…!!


ほんっとに、ラウちゃんは何なの! 絶対に許さないんだからね!

あぁ、なんか無性に今ラウちゃんを殴り飛ばしたい! ここから出たら

真っ先に殴るから!

今までどれだけ、私が我慢してたと思ってるの!?こんのぉお、人で無しがぁああ!!!!」



「痛だだだ、ご、ごめん!ごめんなさい…!」




 積もりに積もった不満が、ここに来て大爆発した。

息継ぎも忘れて、罵詈雑言をぶつけ続ける。

…姿が可愛いイルカなのが余計腹が立つ!

今までどこにこんな力があったのかな!本当に!



ギリギリギリッと、捻り上げられ すっかり原型を無くして絞られているイルカ

を見ながら、赤毛の少女はお腹を抱えて大笑いしている。


気が済むまで笑ったらしいところで、私たちに声をかけて来た。


笑って 乱れた前髪から、美しい黒瞳がのぞいている。

え、まさか…?



「梨月。


婆ちゃんの顔に免じて、それに文句を言うのを先延ばしにしてくれるかい?


今から、とても重要な話をするから。」




ーー少女の姿には、小さい頃に祖母のアルバムで見た、若い頃の祖母の面影が

しっかりとあった。








修正:2012/10/02

誤字脱字を直しました。

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