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飛び火  作者: 梅子


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9/9

飛び火

美有は、

「身代わりなんて思ってない。だけど、いとこだから、あなたを選んだ。」

と言った。

「なんで!?普通、いとこなら避けるでしょ…」

「…。」

「ねえ!?」

「奈良で、家族と暮らしたかった。」

「は?」

「こうするしか…」

美有は、目を伏せた。悲しそうな顔をしていたが、少し、面倒に思っているようにも見えた。

「奈良は、弟と目指してた場所、違う?」

青年は、当てずっぽうで、言ってしまった。その時、美有の目が、はっと見開かれた。

「あなたは、奏人の身代わりにはなれない。」

青年は、美有がきっぱりと言った言葉の意味が分からなかった。

「何!?」

「奏人には、到底、及ばない。」

「美有、自分で何言ってるか分かってる?」

美有は、黒い瞳をどこか遠くに向けていた。もはや目が合うことはなかった。

「施設で調べたら、奈良に家族がいるって分かった。それが、あなた。」

「え?」

青年は、何とか美有を理解しようと思った。

「僕と、家族の僕と、家族を作りたかったの?」

「私も奏人も、一人ぼっちだったから…。お母さんのせいでずっと寂しかった。奏人は、一人で死んじゃったの。」

「美有?」

「家族が作れるか試したかった。見せてあげたかった。」

「美有?聞いてる?」

美有の口調は、淡々としていて、青年に向けられたものではないように見えた。

「子供を生むことができて、どうせ一人だけど、家族が増えたよって教えてあげられる。あなたのことも…」

「美有?」

青年は、美有の肩を揺すった。美有は、ただゆらゆらと揺れるだけだった。

「美有、もう俺、君とは、暮らせないよ…」

青年は、言わざるを得なかった。

「うん。分かってる。」

「美有…」

「私…あの用水路がどこに流れているか知ってるよ。」

美有は、微笑んだ。背中が寒くなるような、そんな笑い方だった。

「は?」

「私も、流されてるの、一緒に。水なのに、火みたいに熱いの。」

「美有?」

「あの水はね、地獄に続いてる…」


 青年は、息子を抱き上げて、病室を出た。赤ちゃんは、火が付いたように泣き出した。耳には、火みたいに熱いの、と言った美有の言葉が残っていた。

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