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序話 ハブられてる俺

5月15日から毎日18時に投稿してます。全9話です。

 ヤッホー、俺だよー。

 

 びっくりしたよね。

 多分今話数確認したよね。

 大丈夫、これ第一話だから。


 はい、こちら。

 まずは足元をご覧ください。


 ……血の海ですねー。

 肉の海にも見えますねー。

 

 一分だけ時間もらって、自己紹介していいですか。

 

 クロウ・クロー。

 確実に適当につけただろ、って名前で千年以上魔族をしています。

 名前つけたのは俺じゃないよ。俺のママ上。『ままうえ』と読んでね。最後にそう呼んだのは千年前だけど、その時はお腹に穴を開けられたね。あれはちょっと死ぬかと思った。この世で二番目に好みのツラして気色悪いこと抜かすな!って、魔力全ぶっぱしてきたの。ひどくない?

 まぁ、そんなわけで。

 多分この世で二番目にかっこいいんだろうと勝手に思っているクロウ・クローです。

 自認する分にはいいんだよ。俺にとっての一番かっこいいは、ママ上の一番、つまり俺のパパ上ではないんだけど。

 

 話を戻して、視線は足元に。

 足先を少し動かしただけで、焦げた腕が靴に当たった。

 ブーツで良かった。サンダルだったらちょっとアレだった、

 少しだけ身を屈めて、指先で足元に広がる血を掬う。視界の隅に、腕の持ち主だろう、オーガの首が見えた。

 数百の死体。

 全て、オーガの一族だ。

 今日をもって、魔界のオーガは死に絶えた。

 魔皇軍の、進軍によって。

 

 風が頬を撫でる。

 魔界の風は、生ぬるくてあまり好きじゃない。

 この間までいた聖界は、涼しくて良かった。

 ……今は、灼熱の地獄に変わってるけど。

 オーガの死体を避けながら戦場を歩く。草も木もなく、空は常に薄赤い膜に覆われ、雷鳴が鳴り響いている。水源は遥か遥か地下深く。力ある魔族しか掘り当てることができない。だから、弱い魔族たちは強い魔族の下に集まる。それはやがて村を作り、町を作り、国となる。

 集団の中でもっとも強い個を頂点に据えた、魔皇国『オブシディオン』。 


 ——それが俺の、ママ上の国だ。


 しばらく歩いていると、ようやくポツポツと味方の姿が見え始めた。

 俺を見て小さく頭を下げる者が二割、残りは舌打ちや無視。今日もとっても活躍したのに。かわいそうな俺。美形すぎるから?ちょっと目は死んでるけど、うなじまで伸びたこの濡羽色の艶々の黒髪と、黒曜石のような瞳。透き通るような肌に、ほのかに赤い唇。上背もあって、程よく筋肉もついている。ちょっとボロい兵士服だって、魔界一似合ってる自信がある。パパ上の顔は知らないから、『今のところ』を一応つけておいて。

 あからさまに悪態をついてくるトロールみたいな奴に「ヤッホー」って手を振ってやろうかと思ったけど、できない事情があるから、そのまま通り過ぎた。ストレスなんかは特にない。千年以上も生きてると、多少のことでは動じなくなる。

 それに、余計な時間を使うくらいなら早く目的地に着きたい。

 俺は今から、この世で一番かっこいい男を拝みに行くのだ。


 ようやく目的地が見えてきた。

 淀んだ魔界の空気の中、白銀の鎧が輝いている。

 後ろで尻尾のように一つに縛った長い髪は、鎧と同じ白銀。俺よりも頭一つ分高く、しっかりとした筋肉に覆われた体を飾る、端正な顔。その瞳は魔界の夜に登る月のような濃い金色で、戦う時は赤みを帯びる。


 ハクラギ・リンフォード。

 オブシディオン魔皇国軍の最高指揮官。


 …………かぁっっっこよ!!

 意味わからん。

 かっこよすぎて意味がわからん。魔界の神が作りたもうた奇跡の造形。あ、魔界の神はママ上によって倒されてた。

 白銀の鎧にこびりついた返り血とか、最高のオプション。サンキュー、オーガ。お前の死は無駄ではなかった。グッジョブ。

 周囲の部下に笑いかけて、その肩を気さくに叩く姿。側近に軽口を言う時の柔らかな笑み。

 太陽とは、まさに彼のこと。

 ママ上も「魔界より上にある世界全てを破壊し、太陽を手に入れる」とか言ってないで彼を飾っておけばいいのに、とさえ思う。……いや、ダメか。ママ上面食いだからな。ただでさえ強くてかっこいいハクラギを気に入ってるのに、側に置かれたら俺が今以上に彼を拝めなくなる。それは困る。新入り扱いの俺は、現状彼から一番遠い戦場に送られることが多い。なぜなら皆、最高指揮官殿の近くで戦いたがるからだ。

 ……別にいいけどね。千年一人で聖界で戦ってきたんだ。スタンドプレイには慣れてる。あそこじゃ、手が千切れようが足がもげようが、一人だった。これも、気にするほどのことじゃない。

 だから、俺はいつもそっと遠くから彼の姿を見ている。

 目の保養で、魔力チャージ。

 ハイオク満タン入ります。


「——クロウ!」


 だがなんと。

 気さくで部下思いで人望ありまくりな最高指揮官殿は、こんなストーカー紛いの俺の視線にもきちんと気付いて、いつも声をかけてくれるのである。

 転がるオーガの死体を跨ぎながら、こちらに歩いてくる。

 白銀の髪が、靡く。

 かっっこよ!!

 好きッ!


「お前がいた場所に、奇襲があった時聞いた。怪我はないか?」

 するり、と指の背で俺の頬を撫でる。実はさっき掬ったオーガの血をちょっと付けておいた。もし気付いて拭いてくれたら、今日は顔を洗わずに寝ようと思って。

 そして予想通り、拭いてくれた。やったぜ。俺は頭脳派の魔族なんだ。

 明日の朝も顔を洗いたくない。

 そんなことを考えつつ、最高指揮官殿からの問いに、俺は無言で首を縦に振った。

 ありませーん!奇襲してきたオーガたちは、全員俺の魔術で炭になってまーす!

「……そうか。だが無理だけはするなよ?声が出ないと助けも呼べないからな」

 心配を滲ませる低い声に、クラッとする。何回でも聞きたい。録音魔法とか誰か発明すべきだ。

 俺が再び首を縦に振ると、ハクラギの背後から彼を呼び戻す声がした。今戻る!と返したハクラギが、「今度飯でも行こうな!」との明るい言葉を残して去っていく。 

 俺の脳内はすでに、そのことでいっぱいで。その場から立ち去る俺を見て嫌そうな顔をする者の視線など、どうでも良かった。

 魔族は自分の感情に正直な生き物だ。彼らを一発殴って言うことを効かせるのは簡単だが、面倒くささが先に立つ。

 繰り返すが。

 千年一人で戦っていると、本当に大抵のことがどうでもよくなっていた。

 


 戦争が終結すれば、俺のような下っ端は後は帰るだけだ。

 撤収が始まった軍の最後尾について、のんびり歩く。先程ハクラギが触れた頬に手を重ねてニヤニヤした後、襟で隠れた首元をそっと指で撫でた。


 喉を十字に切り裂いている、古い傷跡。

 それは物理的なものではなく、ある魔術を視覚化したもの。

 魔術を重んじる魔族にとって、屈辱的で、絶望的な罰。


 この傷があるからこそ、俺を見る魔族たちの目は、ハクラギただ一人を除いて厳しい。

 なぜならそれは、魔皇エルヴァイラから刻まれた罪の証であるからだ。

 声を奪う秘術は、千年の刻をもってようやく赦される。

 魔皇国オブシディオンにおける、死の次に重い罰だった。

 

 ——ママ上、って呼んだだけで、「お喋りクソ野郎は黙ってろ」って、人のお腹に穴開けて千年の術をかける母親ってどうなんだ……。

 おまけにその後、「罰として一人で聖界滅ぼしてこい」って無理やり飛ばされて。無詠唱で戦えるようになるまで、あのきらびやか〜な世界で百年くらい隠れて生きてたからね、俺。聖王倒すのも、結局千年かかったし。

 挙句やっと我が家に帰って来たと思ったら、開口一番「なんだ、そなたまだ喋れんのか?情けないのう。兵卒からやり直せ」ってその日のうちに軍に放り込まれるし。おかげでハクラギというバチくそ好みなイケメンに会えたからいいけどさ!せめて一日くらいは、ちゃんとしたお布団で寝たかったなー!ママ上は自分が布地面積が一センチくらいの服しか着てないから分からないかもしれないけどさぁ、普通の魔族な俺はお布団とパジャマが欲しいわけです!

 それなのに無一文で兵卒としてリスタート。あんまりだ。

 失音の術のせいで「この新入り、魔皇様に対してとんでもない悪事を働いたんだな」みたいな顔で避けられるし、嫌われるし、憎まれるし。

 そんな状態で「いや、自分実は魔皇の息子で。うっかりママ上って呼んだら千年の罰を喰らって聖界に放り込まれてずっと戦わされてたんです」なんて紙にでも書いて説明したところで、信じてもらえるはずもないじゃないか。俺が聞かされる立場ったら「そう思わないとやっていけないんだな……」って可哀想な人認定しちゃうよ。

 魔界とは、なんとも世知辛い。


 ……それでも、ママ上のことは大好きだけどね。


 彼女は、俺が知る限り最も強い個だ。

 強く美しいものに、惹かれる。

 それは魔族に生まれた以上、どうしようもない性だった。

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