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Reborn ― ロイが読み解く真実 ―  作者: ラビリンス
ロイが気づき始める編
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4/30

4.不可能を除外しろ

「犯人が分かっただと?」


トレス警部の低い声が店内に響いた。


「はい。説明する時間をもらえませんか」


「だめだ。さっき荷物を見せたのは特別だ。これ以上、でしゃばるな。これは警察の領域だ」


(やっぱりダメか……)


ロイは唇を噛んだ。

だが、隣から一歩前に出た人物がいた。


「トレス警部。ロイは、俺たちが見落とした点に気づきました。

少しでいい。どうか話を聞いてやってください」


スティーブが深く頭を下げる。


「スティーブ兄さん……」


ロイも続けて頭を下げた。


「お願いします」


「……参考までに、聞くだけならいいのでは?」


サム警部補が助け舟を出す。


トレス警部は鼻を鳴らした。


「フン。早くしろ」


「ありがとうございます」


ロイは一礼し、顔を上げた。


「最初に――シャーロック・ホームズの言葉を借ります」


When you have eliminated the impossible,

whatever remains, however improbable, must be the truth.


「不可能なものをすべて排除したあとに残るもの。

それが、どんなにあり得なく見えても真実です」


「……不可能なもの?」


トレス警部が眉をひそめる。


「この事件で、まず排除すべきなのは――料理が“唯一の凶器”だった可能性です」


「何だと?」


「フィッシュ&チップスは、ただの“保険”でした」


「……保険?」


ロイはロザンヌの空席に一歩近づく。


「三人は、同じ皿のフィッシュ&チップスを食べました。

でも亡くなったのは、ロザンヌさんだけです」


ロイは指を折りながら整理する。


「考えられるのは、三つ。


① 最初から料理に毒が入っていた

② ジョンさんが塩と一緒に何かを混ぜた

③ 後から誰かが料理に付着させた」


「③は可能だろう」


トレス警部が言う。


「はい。でも、それは“本命”じゃありません」


ロイははっきり言った。


「本命は――もっと静かで、確実で、疑われにくい方法です」


ロイの視線が、エリーを捉える。


「……私?」


「ロザンヌさんは、倒れる直前、口元を拭いていました」


「見ていたのか?」


「うん。ほんの一瞬だけど」


スティーブが息をのむ。


(……14歳の観察力じゃない)


「揚げ物を食べれば、指は汚れます。

口を拭く――それは、誰でも無意識にやることです」


ロイは静かに続けた。


「つまり、毒は食べ物そのものじゃなくて、口に触れるものに仕込まれていた」


「……ハンカチか」


サム警部補がつぶやく。


「そうです」


ロイはうなずいた。


「エリーさん。あなたは最初にトイレへ行くとき、ロザンヌさんのハンカチを借りましたね」


「……ええ」


「そのときに“仕込んだ”」


店内が静まり返る。


「毒は、香りの強いものに混ぜられていました。匂いで違和感を隠せるから」


ロイはロザンヌのバッグへ視線を移す。


「この小瓶――香水です。ロザンヌさんの持ち物に入っていました」


「それが何だって言うの」


エリーの声が少しだけ乾いた。


「これは……ロザンヌさんのものじゃない」


「何を根拠に……!」


ロイは落ち着いて言う。


「根拠は、二つ」


ロイは小瓶を見て、次にロザンヌの空席へ目をやった。


「まず一つ目。ロザンヌさんは“強い香りが苦手”だ」


ジョンが驚いたように顔を上げる。


「……確かに。彼女、香水はあまり……」


「結婚祝いの話をしてたときも、ロザンヌさんは食事の匂いを大事にしてた。

香りの強いものを持ち歩くタイプには見えなかった」


エリーの目がわずかに揺れる。


「二つ目。この香水は新品みたいに綺麗です。小さな擦れもなく、キャップも硬い。

毎日持ち歩く小物なら、もう少し生活の跡が出る」


ロイは視線を動かし、エリーのコスメポーチを見る。


「そして、あなたのポーチ。

同じブランド、同じ限定デザインで統一されてる。揃える人は多いです」


「……偶然よ」


「偶然でもいい。だけど、“偶然にしては都合が良すぎる”」


ロイは一歩だけ前へ出る。


「あなたは毒入りの香りを、ハンカチに吹きかけた。

ロザンヌさんが口を拭けば、無意識に体内へ入る」


「……じゃあ、料理から反応が出たのは?」


トレス警部が問う。


「それが“保険”です」


ロイは視線を落とし、さっきの光景をなぞるように言った。


「席に戻ったあと、あなたはわざとスマホを落としましたね」


「ジョンさんが机の下を見る間、テーブルの上は他の誰の視線にも入らない。

その隙に、香水をロザンヌさんのバッグへ戻した」


「そして、もし疑われたときのために――ジョンさんに罪が向く仕掛けを用意した」


「俺が……?」


ジョンの声が震える。


「はい。あなたは最初に塩を振っています」


「そこへ後から何かを加えれば、“最初に触った人”が疑われやすい」


ロイは皿を指さした。


「それに、鑑識の人なら分かるはず。

揚げたてに振った塩なら馴染む。でも、あとから付着した粉は、表面に残りやすい」


鑑識が短くうなずいた。


「油に馴染みきっていない付着が見られます。後からの可能性は高い」


トレス警部が眉間にしわを寄せる。


「……香水は?」


「香水――つまり小瓶の中身からも確認すればいい。

それが見つかったら、ハンカチにも痕跡が残ってるはずです」


ロイはエリーへ視線を戻す。


「エリーさん。あなた、さっきから左手をずっとポケットに入れていましたね」


エリーの肩が、ぴくりと跳ねた。


「……」


「何かを扱った手を、見せたくなかったんだと思う。

それに、ロザンヌさんが倒れた直後――あなたはジョンさんに通報をさせた」


ロイの声が少しだけ低くなる。


「その間、あなたは“保険”を置けた。

料理から反応が出れば、警察の目は料理に向く」


ロイは警部を見る。


「料理から反応

→ 最初に触れたのはジョン

→ 衝動的な犯行……って」


「――そう仕向けるための、二重の罠です」


エリーは、言い返そうとして――言葉を失った。

唇が震え、視線が床へ落ちる。

数秒の沈黙が、やけに長く感じた。


やがて、エリーは崩れるように椅子に座り込んだ。


「……そうよ」


声は、怒りではなく疲労に満ちていた。


「憎かったの。どうしようもなく」


ジョンが震える声で呼ぶ。


「エリー……」


「私は、ずっと彼を支えてきた。なのに……選ばれたのは、彼女だった」


エリーは笑おうとして、うまく笑えない。


「分かってるわ。嫉妬なんて、醜いって」


それでも、目を逸らさない。


「でも――心は、そんなに綺麗じゃない」


ロイの胸が、きゅっと締めつけられる。


“嫉妬は緑の目をした怪物だ”

――シェイクスピア『オセロー』


「警部さん」


ロイはハンチング帽を取り、深く頭を下げた。


「これが、この事件の真相です」


トレス警部はしばらく黙り込み、やがて息を吐いた。


「……ご苦労だった。とても子供とは思えない推理だ」


スティーブが、そっとロイの肩に手を置く。


「よくやったな」


ロイは小さくうなずいた。


事件は終わった。

だが、胸に残る重さは消えない。


(本に書かれた悲劇は、現実より……ずっと優しい)


ロイはハンチング帽を深くかぶり直し、

次のページをめくるように、静かに店を出た。


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