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Reborn ― ロイが読み解く真実 ―  作者: ラビリンス
ロイが気づき始める編
4/11

4.不可能を除外しろ

「犯人が分かっただと?」


トレス警部の低い声が響いた。

「はい。説明する時間をもらえませんか」


「だめだ。さっき荷物を見せたのは特別だ。これ以上でしゃばるな。これは警察の領域だ」


(やっぱりダメか……)


ロイは唇を噛んだ。

だが、隣から一歩前に出た人物がいた。


「トレス警部。ロイは、俺たちが見落とした点に気づきました。

少しでいい。どうか話を聞いてやってください」


スティーブが深く頭を下げる。


「スティーブ兄さん……」


ロイも続けて頭を下げた。


「お願いします」


「……参考までに、聞くだけならいいのでは?」


サム警部補が助け舟を出す。


トレス警部は鼻を鳴らした。


「フン。早くしろ」


「ありがとうございます」

ロイは一礼し、顔を上げた。


「最初に――

シャーロック・ホームズの言葉を借ります」


When you have eliminated the impossible,

whatever remains, however improbable, must be the truth.


「不可能なものをすべて排除したあとに残るもの。

それが、どんなにあり得なく見えても真実です」


「……不可能なもの?」


トレス警部が眉をひそめる。


「この事件で、まず排除すべきなのは――

料理が直接の凶器だった可能性です」


「何だと?」


「フィッシュ&チップスは、ただの“保険”でした」


「……保険?」


ロイはロザンヌの空席に一歩近づく。


「三人は、同じ皿のフィッシュ&チップスを食べました。

でも亡くなったのは、ロザンヌさんだけです」


ロイは指を折りながら整理する。


「考えられるのは、三つ。


① 最初から料理に毒が入っていた

② ジョンさんが塩と一緒に毒を入れた

③ 後から誰かが料理に毒を入れた」


「③は可能だろう」

トレス警部が言う。


「はい。でも、それは“本命”じゃありません」


ロイははっきり言った。


「本命は――

もっと静かで、確実で、疑われにくい方法です」


ロイの視線が、エリーを捉える。


「……私?」


「ロザンヌさんは、倒れる直前、口元を拭いていました」


「見ていたのか?」

「うん。ほんの一瞬だけど」


スティーブが息をのむ。


(……14歳の観察力じゃない)


「揚げ物を食べれば、指は汚れます。

口を拭く――それは、誰でも無意識にやることです」


ロイは静かに続けた。


「つまり、毒は

食べ物ではなく、口に触れるものに仕込まれていた」


「……ハンカチか」


サム警部補がつぶやく。


「そうです」


ロイはうなずいた。


「エリーさん。

あなたは最初にトイレへ行くとき、

ロザンヌさんのハンカチを借りましたね」


「……ええ」


「そのとき、毒を仕込んだ」


店内が静まり返る。


「毒は、香水に混ぜられていました」


ロイはロザンヌのバッグを指さす。


「この香水――

ロザンヌさんのものじゃありません」


「何を根拠に……!」


「ロゴです」


ロイはエリーのコスメポーチを見る。


「同じブランド、同じ限定デザイン。

香水とコスメを同じラインで揃える人は多い」


エリーの唇が震えた。


「香水なら匂いでごまかせる。

揮発性が高く、微量なら違和感も少ない」


「あなたは毒入りの香水を、

ハンカチに吹きかけた」


「ロザンヌさんが口を拭けば、

毒は確実に体内に入る」


「……じゃあ、料理の毒は?」


トレス警部が問う。


「それが“保険”です」


ロイは視線を落とす。


「席に戻ったあと、

あなたはわざとスマホを落としましたね」


「ジョンさんが机の下を見る間、

テーブルの上は誰の視線にも入らない」


「その隙に、香水を

ロザンヌさんのバッグに戻した」


「そして、もし疑われたときのために――

ジョンさんに罪が向く仕掛けを用意した」


「俺が……?」


ジョンの声が震える。


「はい。

あなたは最初に塩を振っています」


「そこへ後から粉末の毒を加えれば、

“最初に触った人”が疑われる」


ロイは皿を見る。


「揚げたてなら塩は溶けます。

でも、この粉末は粒が残っていた」


「――時間が経ってから振りかけられた証拠です」


鑑識がうなずく。


「香水から毒物が検出されました」


「それと、エリーさん」


ロイは静かに言った。


「あなた、左手をずっとポケットに入れていましたね」


「毒を振りかけた手を、

洗う時間がなかったんでしょう」


「ロザンヌさんが倒れた直後、

あなたはジョンさんに通報をさせた」


「その間、

あなたは微量の粉末毒を料理に振りかけた」


「袋を使わなかったのは、

証拠を残さず処分するため」


「もし香水が見破られても、

警察はこう考える」


ロイは警部を見る。


『料理から毒が出た

→ 最初に触れたのはジョン

→ 衝動的な犯行』


「――そう仕向けるための、

二重の罠です」


エリーは、崩れるように椅子に座り込んだ。


「……そうよ」


声は、怒りではなく疲労に満ちていた。


「憎かったの。

どうしようもなく」


「私は、ずっと彼を支えてきた。

なのに……選ばれたのは、彼女だった」


ジョンが震える声で呼ぶ。


「エリー……」


「分かってるわ。

嫉妬なんて、醜いって」


エリーは自嘲気味に笑った。


「でも――

心は、そんなに綺麗じゃない」


ロイの胸が、きゅっと締めつけられる。


“嫉妬は緑の目をした怪物だ”

――シェイクスピア『オセロー』


「警部さん」


ロイはハンチング帽を取り、深く頭を下げた。


「これが、この事件の真相です」


トレス警部はしばらく黙り込み、やがて息を吐いた。


「……ご苦労だった。

とても子供とは思えない推理だ」


スティーブが、そっとロイの肩に手を置く。


「よくやったな」


ロイは小さくうなずいた。


事件は終わった。

だが、胸に残る重さは消えない。


(本に書かれた悲劇は、

現実より、ずっと優しい)


ロイはハンチング帽を深くかぶり直し、

次のページをめくるように、静かに店を出た。


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