10.光る化け物の正体
恐る恐る目を開ける。
光る影はロイたちの横をすり抜け、廊下へ走り去っていった。
(襲ってこない……噂は本当か)
「追うぞ!」
ウィギンズが駆け出す。
「待て、単独はだめだ!」
ロイとジョセフも追う。
階段の前でウィギンズが止まった。
「見ろよ、これ」
赤い液体が、階段から細く流れ落ちている。
「血……?」
ジョセフの声が震える。
ロイはハンカチで少量を拭い、匂いを嗅いだ。
「甘い。……血じゃない。シロップだ」
「なんだよ……!」
胸をなで下ろすジョセフ。
ロイは階段の上を見た。光る影が匂いを嗅ぐように頭を動かしている。
「二階に行く前に、台所を確認したい。あれが“何を食べてたか”は重要だ」
三人で台所へ戻る。
そこには食べかけの肉。腐敗臭はない。
冷蔵庫を開けると、新鮮な野菜と果物、肉が揃っている。
そして、流しには“新しい汚れ”のついた皿が二人分。
ジョセフが呟く。
「……住んでるみたいだね」
「そう。ここは廃墟のはずなのに、生活の痕がある」
ロイはゆっくり息を吐いた。
「つまり噂は“自然発生”じゃない可能性が高い。」
階段へ戻る。
ウィギンズが一段目を踏んだ瞬間――バキッ。
「うわっ!」
「大丈夫か!?」
幸い怪我はない。
ロイは段を観察する。全体に痛みはあるが、壊れた場所だけが不自然に脆い。
「二人とも、端を通ろう。ゆっくり登って」
二階へ。
三人は慎重に二階へ上がった。
二階に着くと、ジョセフが眉をひそめる。
「…薬品みたいな匂いがする」
「カビじゃね?」
「……違う気がする」
ジョセフは納得していない。
そのとき。
「あっ、光る影!」
ウィギンズが指差す。影は部屋へ入った。
床には光る粉が点々と落ちている。
部屋の中には本棚があり、難しそうな本がびっしり並ぶ。
「難しそうな本だな」
「研究者の部屋みたいだね……」
ロイが呟く
部屋の奥で、光る影は座り、尻尾を振っていた。
ロイはゆっくり近づく。
「大丈夫。落ち着いてる」
ロイは手を差し出し、短く言った。
「お手」
「ワン」
前足がちょん、と乗った。
「えっ!?」
ロイは息を吐く。
「この“光る化け物”の正体は犬だ」
ロイが毛を拭うと、白くふさふさの犬が現れた。毛先に蓄光の粉が付着している。
ジョセフが目を丸くする。
「“お手”できるってことは……」
「元は飼い犬だった可能性が高い。首輪の跡もある。今は放浪してるだけだろう」
ウィギンズが唾を飲む。
「じゃあ塗料は……」
「人の手だよ。偶然じゃない」
その瞬間、遠くでドシン、と壁を叩くような音。
「今の……!」
「見に――」
「行くな」
ロイが即座に止める。
「待て。脅して追い出したいんだ。行ったら相手の思う壺になる」
ロイは床を見た。足跡が複数。大きさが微妙に違う。
「……二人いる」
「え……」
「皿が二人分。足跡も二種類。ここに誰かがいるのは確実だ」
ロイはスマホを握る。
「僕、外に出て警察に連絡する。二人はここで待って。危なくなったらすぐ外へ。犬も一緒に」
ロイが外へ出ると、庭の石が目に入った。
色とりどりの石の中に、妙に“光を吸う”ような石が混じっている。
ロイはそれを手に取り、表面を拭った。
一瞬だけ、鋭い光が点のように走る。
(…やっぱり。重さ、質感、そしてこの光……。ただの石じゃない)
ロイは石をポケットにしまい、急いで戻った。




