お兄様
重たい瞼を上げるとあたりは朝日が差し込んでいた。
起きあがろうとすると左右にモゾモゾとする感覚があった。
視線を移せば、映るのは艶々の白い毛並みと、キラキラ輝く薄ピンクの羽。
「ラス、フェル。起きて。」
「んん。ルル、無事でよかったよ。」
「おはよう、ルル(スヤァ)」
二人とも少し寝起きが悪く、スッとは起きてくれないのが悩み。いつも一人で寝ているはずが、目が覚めれば高確率でこの二人がベッドに侵入している。
「全く。お兄様が学園に行ってる時じゃなければまた怒られていたわよ。」
「残念ながら、そのお兄様は帰っているから、手遅れだぞ。」
突然のいるはずのないその声に、扉に目を向ける。
そこには、ネイビーブラックの髪を揺らして立っているお兄様がいた。
お兄様の金色の目には、安堵や怒りが混ざってはいたが、口元は嬉しそうに笑っていた。
「お兄様!なぜこちらに!学園は?」
「ルルが危険な目に遭ったのに呑気に学園に通っていられるわけないでしょう。父上がこっちに戻る時に一緒に戻ってきたんだよ。」
そう言いつつ、ラスをベッドから放り投げ、フェルをベッドから押し落としているお兄様は、少しラスとフェルに当たりが強い。きっと、二人が私のそばを離れないから、ちょっとした嫉妬だと思われる。
「ルルラティア様、目が覚められていたのですね。セイヴェル様も、朝からこちらにいらしていたのですか。」
「お嬢様!おはようございます」
ノックと共に入ってきたのはルルラティアの専属侍女のマリアとメイリ。
茶髪をきっちりシニヨンでまとめているマリアは、ルルラティアが生まれた頃からずっとそばで世話をしてきたベテラン侍女。
後から入ってきたのは、メイリ。メイリは、上品なマリアとは反対に、笑顔が印象的な若手侍女である。
「お嬢様、お食事は食堂でお取りになりますか?」
「お父様もそちらに?」
「はい、旦那様もお待ちですよ。」
「じゃあ、すぐに向かうわ!」
お兄様には先に行くように託け、マリアとメイリに支度を手伝ってもらい、食堂に向かった。
「ルル、おはよう、体調は大丈夫かい?」
「お父様!大丈夫ですわ」
お父様がドアの近くで待っていてくれたことに嬉しさを抑えきれずに、抱きつくと、しっかりと受け止めてくれる。
文官でもありながら、武官でもあるお父様はしなやかな見た目に反して、とてもがっしりしている。
「さあ、食事にしよう。」
お父様の一声で、食事が運ばれ始める。
テーブルにはたくさんの料理が置かれるが、大半はお父様とお兄様の分である。
もともと少食な私の周りには、私が食べれる量を考えて置かれていく。
うちでは食事を無駄にしないように、それぞれに合わせた量の食事が運ばれる。
そして、食事が終われば家族水入らずのお茶の時間。
「王家が謝罪の場を設けたいと言ってきたが、どうしたい?」
謝罪の場。つまりは、また王都に出向かないといけない。
「まだ、お外に出るのは、怖いです。」
「出向く必要なんかないよ。謝罪がしたいなら、向こうがこちらにこればいいんだ。」
お父様は、静かに震える私を、優しく抱きしめ、頭を撫でてくれる。
「無茶を言いますね。王都からここまで、馬車で3週間はかかるんですよ。でもまぁ、出向く必要がないには賛成です。」
お兄様も、呆れ笑いを浮かべつつ、お父様に賛同する。
「謝罪は受け取るが、こちらが出向くことはないと、伝えておこう。あとは向こうがどうするかだ。」
「人は来なくても、物くらいは送ってくるでしょうね。」
別に物なんていらないのに。これ以上、危険に晒されないならそれでいいの。
「ずっとお家に入れればいいのに」
心の中でつぶやいたはずが、声に出てしまっていたらしい。
「大丈夫だよ。外には出たい時に出ればいい」
「無理に外に出る必要なんて一切ないんだ。領地で、父上と僕と、使用人みんなと楽しく過ごせばいい。」
「お家にいても、いいの…?」
目の前に座っていたはずのお兄様が、私の足元に膝をついて、手を握る。
隣に座るお父様も、涙目になり始めた私の頭を抱き寄せ、静かに撫でてくれる。
「もちろんだよ。」
「当たり前だろう。ルルラティアがここに居続けてくれるなら、私とて本望だよ」
大好きな人たちと、大好きな場所で過ごしていこう、この場所を大切に過ごそう。
そう、心に決めた瞬間だった。




