09・不可視の一撃
「姐御、どうすれば良い!?」
私達はホロ少年達の護衛として精錬された金属をゴルダ商会に卸した帰り道で何者かからの襲撃を受けていた。
前回精製した金属を卸した時はあの脳筋が護衛をしていたが、今回は都合がつかないとの事で私とリンが護衛役を買って出たのだが、運が良いのか悪いのか……
「とにかく攻撃を受けたのは左方向からだったね。そちらから攻撃されないように建物の影に隠れて!」
太腿を撃ち抜かれたホロ少年と同い年と思われる子に激を飛ばす。
私が発した激しい声に反応し、ホロ少年は攻撃を受けた少年に肩を貸し建物を遮蔽物にする為に移動する。
肩を貸し、動きが鈍くなっているホロ少年の脛に攻撃を喰らった事を示すエフェクトが表示され、その刹那の後で銃の発砲音が響く。
また不可解な攻撃だ。
攻撃された後にその発砲音が届くと云う事はかなりの長距離からの狙撃である事を意味している。
それはまだ理解はできる。
だが、不可解とするのは撃たれた少年の傷に関してだ。
私の知る限り、攻撃をされた時は傷を負ったエフェクトが表示されるものの特定の部位に傷が残る様な事は無かった。
だが撃たれた少年は太腿に傷を負い、それによって行動が阻害されている。
この世界がエデンと同様のデジタルで構築された世界と同様と思う部分は多いのに、所々でそれらと異なる部分があり、それ故にここが本当にデジタルで構築されているのか自身を不安にさせる。
ホロ少年の行手を遮らない様に盾を構えて追撃を受けない位置取りをするが、相手が見えない状態では手の施しようが無い。
「姐御……多分グレンだけど大丈夫だよな?」
手近な建物に身を隠したホロ少年が尋ねてくる。
「グレンだと思う根拠は?」
「アイツはいつも今の攻撃みたいに姿を見せずに攻撃をして来るんだ」
「姿を見せない攻撃をしてくるのに何故、彼女が赤髪だって分かったんだ?」
ホロ少年が発した言葉に疑問を感じ問い返す。
「それは……」
その問いにホロ少年は言葉を濁し続く言葉は出て来ない。
「それより何とかしてくれるんだよな?」
「さぁね? 相手が見えないんじゃ正直どうしようも無いね……」
ホロ少年の近くに自身の身を置き私は苦言を漏らす。
リンは突然始まった戦闘に怯えた様子だが、何とか体裁だけは保っている感じで少年達の近くで自身の弓を準備している。
「グレイビーちゃん、銃と弓だとどっちが有利なの?」
震えた声でリンが尋ねて来る。
「私の知る限りでは弓の方が有利だけど、それはあくまで熟練を実用レベルまで上げている場合の話だ。リンの熟練は中途半端な状態だし、これから銃にコンバートする訳だから、そう云う意味では圧倒的に不利な状態だろうね」
物陰に隠れてはいるが攻撃されたであろう方向に盾を構えたまま尋ねられた事に応える。
エデンにおいて物理遠距離攻撃は弓と銃の二系統が存在するが、私が言ったのは有効射程内で撃ち合った場合の話だ。
銃器は下限のダメージがある程度保証されているが、逆を言ってしまえば上限のダメージもそれ程でもは無い。
対して弓の射程やダメージは扱う者の筋力に依存するが、数多くの弓技が存在し、それらを絡める事で圧倒的な瞬間火力を叩き出す事が出来る。
それぞれの射程はエデンでは若干銃器の方が有利ではあったが、対人戦を行った場合、その射程は立ち回りで覆せる事も可能だった。
だが着弾の後にその発砲音が届くのは某漫画からの知識でしかないが立ち回りで覆せる様な距離からのもので無く、相当な長距離からのものである。
金策狩りが出来る程度のリンの弓熟練でどうにか出来るものでは無いのは明白だった。
「さて少年、今まではこうやって襲われた時はどう対処していたんだい?」
現状を鑑みれば、こちらが圧倒的不利な状態であるのは間違いない。
故に消極的であるが、過去に似た状況を打破してきたホロ少年に尋ねた。
「あ……売った金属の売上の半分程度を渡す事でそれ以上の攻撃をされる事も無かったんだ。だから安全に逃げられたんだよ。でも今回は姐御達が居るんだから何とかしてくれるんだろ?」
撃ち抜かれた脛の痛みなのか悔しさからなのか、ホロ少年はその表情を歪めながら今まで難を逃れて来た手段を教えてくれた。
推測でしか無いがこの超遠距離射撃を行っているグレンと云う人物は攻撃の自動補正を行わずに攻撃を置く偏差射撃をしているのだろう。
だとすればその予測射撃の精度は神業と称しても相違ない。
最低ダメージが保証されている武器での超長距離からの攻撃なんて受ける側からしたら勝負として成立すらしていない。
その神業に等しい事を行っている相手に対して、まだ何とか出来ると思えるホロ少年は無知故の楽観視なのだろうか。
「正直に言ってしまえば安全に逃げ出せるなら、それを選択す以外の選択肢が無いくらいに絶望的だね。それともうひとつ聞きたいんだが、どこから攻撃してくるかも分からない相手に対してどうやってお金を渡すんだい?」
攻撃を仕掛けて来る方向性は分かっても、その相手が何処に居るのかまでは私でさえ判断できない。
だと云うのにその相手に対してどうやって売上のお金を渡すと云うのだろうか?
その疑問を率直にぶつけてみる。
「こうするの、さ!」
私の言葉にホロ少年は諦めたのか、懐にしまい込んでいたお金の入った袋を先程まで攻撃に晒されていた場所に放り投げた。
「これでオイラ達が金を諦めるなら、それ以上は手を出して来ないって訳さ」
「そうか、ならその諦めた分は後で何とかしてやるよ。だけどやられっ放しってのも性分じゃないんでね、少年達はここから早々に離れて後はアタイ達に任せて貰えないかい?」
そうおどけてホロ少年に言う。
「さっきの姿を見せないのに…… って、姐御は聞いたけど、投げたお金を拾いに来たグレンを離れた場所から見た事があるんだよ…… それでどんなヤツなのかを知る事が出来たんだ」
ホロ少年は悔しそうに漏らした。
「さっきソレを言わなかったのは弱さからの後ろめたさかい? それと自身の格好悪さからかい? どちらにしても生き残っていれば勝利の芽は摘まれた訳じゃない。相手の姿が分かっていれば反撃のチャンスはあるさ。後はアタイに任せな」
そう言って少年達をこの場から離れる様に促す。
「さぁリン、この分の悪い対人戦に決着を着けようじゃないか」
「え? グレイビーちゃん、何か勝機がるの?」
この場を離れる少年達を確認しながらリンと言葉を交わすが、勝機なんてものはあるはずが無い。
決着と言っても戦闘だけが手段じゃない。
「まぁ、リンはこの場で様子を見てな」
そう言って私はホロ少年が放った袋に向かって歩き出し、それを拾い上げて掲げた。
そしてそのままの状態で待機していると予想していた通り額に強い衝撃が襲う。
衝撃を感じた刹那、私は盾防御を発動させる。
額に受けた強い衝撃により上腿は大きく反らされる事となり、その反らされた身体の動きに追従するように発砲音が僅かに遅れて届くが、生命力を奪われる事は無かった。
「グレイビーちゃん!」
リンは攻撃を受けた私に思わず叫ぶ。
この世界がゲームとして構成されている前提の賭けだったが、どうやら私はその賭けに勝ったようだ。
エデンでの攻撃は物理的に攻撃が当たっているように見えても、そこからダメージが確定するまでに極僅かな狭間が生じる。
そのダメージが確定する狭間に防御技を差し込む事ができれば、その攻撃は防がれてしまうのだ。
普通に考えれば有り得ない事ではあるし、ましてやこめかみに銃弾を感じてから盾防御をした所で現実では何の意味も無いが、ゲームとして構築された世界であるからこその理不尽がまかり通ってしまう訳だ。
結果、こめかみを思いっ切りウレタン棒で叩かれた様な感覚は残っているが、それだけで済んだ。
ただ画面越しに見るキャラクターとは違い、自身の半身は横からの強い衝撃によって大きく反らされる事になった。
「さて、次はどう来るかね? リンはそのまま隠れておくんだよ」
強い衝撃を感じた方向に身体を向け、先程よりも腰を落として次の攻撃に備える為に盾に身を隠し集中する。
身体を向けたその視線の先には時を示す時計塔だろうか?
確かにあの高さなら他に射線を遮る物は少なく狙撃を行うには適しているだろう。
だがその距離は結構な距離がある。
あの距離から確実に狙撃を当てて来るとなると、ゲーム的な補正が掛かって偏差射撃をするにしても相当なセンスが必要なのが嫌でも分からされる。
上半身を隠すには少々心もとない盾に身を隠しながら他に狙撃が行えそうな場所を視線のみで探すが、目に入る範囲の中でそれらしい建物は存在しなかった。
ならばと盾は構えたままで、空いた手にはホロ少年が放棄したお金が入った袋を掲げたままにするまでだ。
こうする事で相手の取れる行動はかなり絞る事ができるし、自身は攻撃する意志が無い事と同時に少年達からもお金を奪わせる気が無いのだと示す事ができる。
相手が取れる行動としては先程と同じ様に私に狙撃を続けるか、それとも諦めて撤退するか……だ。
私の狙いはグレンとの直接会話、だが今回その望みが適えられる事は無いと思っている。
何故なら第三の選択肢としての可能性で直接奪いに来ると云うあるが、超遠距離攻撃を得意とする者がはたしてその手段を取るだろうか?
その懸念があるからこそ今回の襲撃からの直接対話の機会は無いと思っている。
そう緊張しながらも思いを馳せていると掲げていたお金を入れていた革袋が爆ぜる。
爆ぜた袋からは中に詰められていた硬貨がバラ撒かれ、それ以降の動きは無くなった。
どうやらグレンと呼ばれる輩は今回の襲撃を諦めてくれたようだ。
「終わったみたいだな…… コイツは少年達に返してやらないとな」
私は構えていた盾を解き、散乱した硬貨を拾う。
「グレイビーちゃん、大丈夫?」
「あぁ、問題ないよ。決着は次回に持ち越されたけどね」
緊張した面持ちで聞いてくるリン。
散らばった硬貨を拾い集めながら言葉を返す。
「さて、どうしたモンかね……」
グレンと直接対峙する為の算段を巡らせな、その思いに言葉が漏れるのだった。
読んで頂きありがとうございます。
続きが気になると思った方はブックマークして頂けると中の人の励みになります。
また、↓に☆がありますのでこれをタップいただけると評価ポイントが入ります。
評価、ブックマークが中身の人のモチベーションに繋がるため、宜しくお願い致します。




